ミステリヲタの中のミステリヲタ、出て来いや!『ミステリー・アリーナ』深水黎一郎 著
『ミステリー・アリーナ』プレビュー
「本格ミステリ」は、その構造、楽しみ方が広く周知されるにつれ、「テキストを読み解き、謎を推理する」という行為自体を作中に取り込んだミステリ。という、入れ子構造のミステリも多く書かれるようになりました。今回は、そういった作品の中から、決定版ともいうべき逸品をご紹介します。
『ミステリー・アリーナ』
~あらすじ~
舞台は二十一世紀中葉の近未来の日本。ここでは、大晦日に放送される特別番組が大人気を博していた。その番組とは「ミステリー・アリーナ」参加者たちが、画面に表示されていく本格ミステリのテキストを読み、犯人が分かった時点で解答。早い者勝ちで賞金を獲得するという懸賞番組だった。今回行われる記念すべき第十回大会は、今までの賞金がキャリーオーバーを重ね、優勝者が手に出来る賞金は何と二十億円。さらに今回挑む解答者は、日本中から集められた生粋のミステリーヲタク(オタク)という十数名の精鋭たち。出題されるテキストは、嵐によって孤立した山荘に閉じ込められた、数名の若者たちの間で起こる殺人事件という、〈クローズド・サークルもの〉だった。二章分のテキストが終わった時点で、早くもひとり目の解答者、
ページを開いてすぐに始まるテキストは、上記「ミステリー・アリーナ」の問題です。それが二章分終わったところで、テキストを俯瞰するメタ視点である「ミステリー・アリーナ」の会場の様子が始まります。問題に徹して、淡々と語られるテキストと、会場の賑やかな描写のコントラストが激しく緩急がつき、また、問題パート、会場パートが章ごとに随時切り替わるため、だれることなく緊張感を持続させたまま読み進めることが出来ます。さらには、会場パートで、問題テキストのどこに解答者が注目したかというのが説明されるため、問題パートまでいちいち戻らなくとも、会場でのやりとりの様子について行けるという、初心者にもやさしい構成となっています。
第一の解答者である一ノ瀬を始め、さすがは「ミステリーヲタク大会」次々に出てくる解答者たちの持論は、「そう来る(読む)か!」と唸らされるものばかりです。この、解答者と司会者である
もちろん本作は、ただ単に「問題解き」に終始するわけではありません。問題が進むに連れ、なにやら会場には不穏な空気が漂い始めます。
作者の深水黎一郎は、『最後のトリック』(初出時タイトルは『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』)でデビューしたミステリ作家で、直球ど真ん中の本格からバカミスまで、自在に書きこなす幅広い作風で知られています。(デビュー作は、改題前のタイトルからお分かりの通り、「読者である『あなた』が犯人」というギミックに挑戦した意欲作です。こちらも傑作ですので、興味がおありでしたら、ぜひ読んでみて下さい)
お読みになられたら、また、「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。
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