正真正銘「館もの」です『水車館の殺人』綾辻行人 著

『水車館の殺人』プレビュー

 有栖川ありすがわ法月のりづきと来たら、綾辻行人あやつじゆきとをご紹介しないわけにはいかないでしょう。橋本はしもと蝶野ちょうの、と紹介して、武藤むとうをスルーするようなものです。というわけで、四冊目はこちら。


水車館すいしゃかん殺人さつじん』 綾辻行人あやつじゆきと 著


十角館じゅっかくかん』じゃないのかよ! とミステリに詳しい方は思われたかもしれません。綾辻のデビュー作『十角館の殺人』は確かに優れた本格ミステリで、読みやすいこともこの上ありません。しかも『館シリーズ』第一弾です。ですが、ミステリ初心者の方に対しては、私はあえて『水車館』をおすすめしたい。『十角館』は、あまりに鮮烈すぎて、ミステリにあまり親しみのない方がいきなり読むと、もしかしたら「ぽかーん」な反応をされてしまうのではないかと懸念しているのです。『館シリーズ』といっても、『水車館』はまだ第二弾ですので、いきなり本作を読んでも問題はないと判断しました。何より、本作は一般の方がイメージする「本格ミステリ」の要素がこれでもかと入っています。「外部との行き来が閉ざされた奇妙な館」「覆面を被った怪人物」「捜査するのは警察官ではなく素人探偵」さらにそこで起きる事件も、「密室からの人間消失」「バラバラ殺人」と、いかにも感満載。


~あらすじ~

 中国地方の山中に建つ、三つの巨大な水車を備えた「水車館」で殺人事件が起きる。被害者の体がバラバラに切り刻まれ、焼却炉で燃やされるという凄惨な犯行だった。犯人と目される男は密室から消失したうえ行方不明となり、その行方は杳として知れない。それから一年後、事件に居合わせたメンバーが再び水車館に集まる。そこには、一年前の事件で犯人とされた男の友人、島田潔しまだきよしの姿もあった。友人の人となりを知り、彼がそのような陰惨な事件を引き起こして逃亡したということが腑に落ちない島田は、事件の謎を解くべく関係者から一年前の事件の詳細を聞き出す。



 本作は、一九八六年(現在)と一九八五年(過去)、現在パートと過去パートが交互に書かれるという構成をとっています。というと、いかにも複雑な話を思い浮かべてしまうかもしれませんが心配いりません。現在で島田が投げかけた疑問が、過去パートとしてその次に描かれるなど、考え抜かれて読みやすい構成をされていることに加え、過去パートは神視点の三人称、現在パートがある人物視点の一人称で描かれる、と手法も変えてあるため、読んでいて混乱するということはありません。

『十角館』の仰天トリックで鮮烈デビューを果たした綾辻が第二弾として送り込んだ、クラシカルな王道ミステリ『水車館』ぜひ体験してみて下さい。


 それでは、お読みになられたら、また、「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。

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