涙干し(300字SS)

 血涙を流す女神像の画像を閉じながら彼女は時間だと呟いた。度の無い眼鏡の向こう側で目に涙の一つも浮かべずに、血の気の無いいつもの顔で喪服を入れたカバンを抱える。

「結果は机においといて。じゃぁ、三日ほど留守を頼むね」

 目を瞬く。タブレットをタップする。目を瞬く。

 そして彼女は出かけていった。


 ――涙とは排泄機能の一つに過ぎない。成分は血液とほぼ一緒で、泣くことはストレス緩和に役立つとも言われている。つまり涙はストレスがかかっていますと公言するようなもの。


 女神が世を儚んで涙しても、ストレス物質が溜まっていても。

 彼女は涙を消し続ける。世間と対等に戦うために。


 じゃあ、と私は思うのだ。私が代わりに。

 涙が零れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る