限定のホワイトクリスマス(300字SS)

 魔術書を起動する。生まれたはずの見えない核をビルばかりの空へ移動させる。

 空っ風に震えながらMANAの継続時間を越えて待ち、何も起こらず書を閉じた。


 *


「馬鹿じゃねーの?」

 驚かせたかった相談相手は魔術書を追加し水道の栓を開け放した。

「悪かったな」

 骨ばった指先が見惚れる動きでタップする。落ちる水流が嵩を減らして、視界に靄が生まれ始める。

 やがて靄からこぼれ落ちる、湿度に見合った――雪結晶。

「しょっぼ」

「こんなもんだろ」

 期待通りにはいつもいかない。魔術も恋も周囲一メートル限定の憧れのシチュエーションも。

「メリークリスマス」

 顔を見合わせ二人そろって苦笑い。

「おぅ」

 雪を全て降らしきる。冬の日常が戻ってくる。

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