第7話『欲望ゲーム-前編-』
「智也さん、それ!」
「ははっ、やったな。お返しだ!」
「きゃっ! つめたーい!」
海の上で美来と手で水を掛け合っているだけなのに、どうしてこんなに楽しくて幸せな気持ちになれるんだろうな。まるで、夢の中にいるような感覚だ。
「ふふっ、気持ちいいですね」
「そうだね」
きっと、ここまで楽しくて気持ちがいいのは相手が美来だからなんだろうな。それにしても、美来のビキニ姿はとても可愛くて美しい。
「もう、どうしたんですか。私のことをじっと見ちゃって。もしかして、パレオを取ってビキニ姿になった私に……見とれちゃっていましたか?」
「……うん」
正直にそう言うと、美来の顔が急に真っ赤になる。
「ちょっとからかったつもりなのに、素直にそう言われてしまうと……私の方が恥ずかしくなってしまいますね。からかった罰ですね」
「とても可愛くて綺麗だからね。そんなことに嘘を付いてどうするんだよ」
「私と付き合うまで、智也さんに彼女がいなかったことが不思議に思えてきました」
「そうかなぁ」
高校生までは羽賀や岡村と一緒にいたし、大学時代も女性の友人や先輩はいたけど、僕は恋愛感情なんて持たなかったし、相手も僕にそういった感情を持っているようには見えなかったけどな。僕に恋愛感情を見せてきたのは有紗さんが初めてで。
「でも、僕が女性と付き合っていたり、僕に好意を向けているような女性がいたりしたこと分かったら、美来が阻止していたんじゃない?」
「む、難しい質問ですね。16歳になるまで智也さんとは会わないと決めていましたし。そうですね……」
「悩ませちゃったかな」
たぶん、僕の前に姿を現して2度目のプロポーズをしていたと思う。あの時にもプロポーズしていたんだと言って。
「でも、私がそう決めただけで、もし……阻止しようとして私が姿を現しても、智也さんはきっと私と向き合ってくれていたと思います」
「そうだろうね」
むしろ、もう少し小さい頃の美来にも会ってみたかったくらいだ。旅行から帰ったら、美来のアルバムがあるかどうか訊いてみようかな。
ただ、結婚できる16歳になって再会したから、結婚まで考え、一緒に住むことをすぐに実行できたのも事実。
「いつ美来と再会しても、いずれはこうして旅行に来ていたんじゃないかな」
「そうですね!」
すると、美来は嬉しくなってしまったのか、僕のことを思い切り抱きしめてくる。
ただ、突然のことで驚いてしまい、僕はそのまま尻餅をついてしまう。
「だ、大丈夫ですか! 智也さん!」
「下が砂だから大丈夫だよ。浅いところで良かった。急に抱きしめられたからビックリしちゃったよ。美来の方は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「それなら良かった」
旅行中にケガをしてしまったら、楽しさが減っちゃうからな。ケガをしても、時間を立てば思い出になるだろうけど。
「そうだ、智也さん。プールの横で遊具の貸し出しを行なっていましたから、何か借りて遊びましょうよ」
「そんなのがあるんだね。気付かなかったな。せっかくだし、何か借りようか」
「はい!」
そういえば、小さい頃に旅行に行ったときは浮き輪とかボートを持っていったな。水着のことばかり考えていたから、遊具のことなんて全然考えていなかった。
遊具の貸し出されている場所が分からないので、美来についていく形でホテルのプールの方へと向かう。ウォータースライダーがあるからなのか、プールの方が人は多いな。
「ここです、智也さん」
海へと向かう通路の側にあるから普通だったら気付くけど、さっきは海に行くことだけを考えていたから全然気付かなかった。
こうして見てみると、結構色々な種類の遊具が置いてあるんだな。浮き輪、ボート、ビーチボール、水鉄砲とか。どれを借りようかな。
「海とプール、どちらで遊ばれる予定ですか?」
「とりあえず、海で」
迷っていたら、金髪の係員のお姉さんに話しかけられてしまった。プールの横だからか、藍沢さんや坂井さんとは違って、白いTシャツを着ている。ええと、名前は……原田って書いてある名札を首から提げている。
「海でしたら、ビーチボールなんてオススメですよ。可愛い彼女さんとも一緒に遊ぶこともできますし」
「いいですね。海は広いですし、人もまばらですから思いっきりできそうです」
「そうだね。じゃあ、ビーチボールを1つお願いします」
「かしこまりました。遊び終わったら、横にあるこちらの返却コーナーにお願いします」
「分かりました」
原田さんからビーチボールを受け取って、美来と一緒に海の方へと戻っていく。
「さっきの方、結構かっこいい方でしたね」
「……そうだったね」
美来がかっこいいと言ったので思わず立ち止まってしまったけど、ええと……あそこにいたスタッフさんは確か女性だったよな。原田さんの姿を思い出すと……確かな胸の膨らみもあった。
「どうしたんですか? 立ち止まっちゃって」
「何でもないよ。さっ、戻ろう」
砂浜に戻って改めて思うけれど、プールに比べると海の方は人がまばらだ。ビーチボールで遊ぶなら場所も取るし、思わぬ方向へ飛んでいくこともあるから、ビーチボールを使って海で遊ぶのは正解かもしれない。
「ねえ、智也さん。一つ提案があるのですが」
「うん? 何かな」
「ボールをレシーブし合って、きちんと返せなかったから、相手に好きなお願いを1つ叶えてもらうことができるっていうのはどうでしょう?」
「うん、いいよ。そういうのがあった方が面白いよね」
普通にそう返事をしてしまったけど、美来がこういうことを言うってことは球技が得意なんじゃないか?
「ねえ、ちょっとだけ肩慣らししてもいい?」
「いいですよ」
僕、どちらかというと運動は苦手な方なので、全く練習していない状態だと、美来とまともに戦えない可能性すらある。
周りにあまり人がいないことを確認して、僕は砂浜の上に簡易コートのラインを引いていく。
「じゃあ、勝ち負けを分かりやすくするように、バレーボールみたいにしようか。自陣の中だけ動くことができて、レシーブできてもボールが相手の陣地の外に出ちゃったらアウトってことで」
「分かりました」
「じゃあ、一度肩慣らししようか」
「はい! お願いします!」
すると、美来はバレーボールの試合でよく見るサーブを待つ体勢に。だからか、美来の胸の谷間がより強調されて……って、いかんいかん!
「いくよー、はい!」
美来がどのくらいできるのか分からないし、まずはお互いにビーチボールの感覚を掴むために優しくサーブを打つ。
すると、ビーチボールが美来の立っているところへと放物線を描きながら飛んでいく。そして
、
「えいっ!」
僕が放ったサーブがゆるいことをいいことに、美来は僕に向かって思い切りアタックを決めてくる。
「うわっ!」
美来のアタックがあまりにも迫力があったので、僕は手に当てるのが精一杯でビーチボールが海の方へと飛んで行ってしまった。
「ごめんなさい! 智也さん」
「大丈夫だよ。取りに行ってくるね」
僕は海に浮かんでいるビーチボールを取りに行く。
今の一回だけではまだ何とも言えないけど、高校生の女の子が相手だからって油断してはいけないことは確かなようだ。
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