第9話
目的地に着き、俺は息を整える。
目線の先には、やっぱり結城が居て。
本来ならそこに、生えていた筈の桜の木の跡地を、見つめ続けていた。
そんな彼に、俺はゆっくりと近づく。
俺の砂を踏む音に、気づいたんだろう。
結城はゆっくりと振り返り、俺を見て目を見開いた。
固まってしまっている。
そんな事に苦笑して、俺は震えそうになる声を何とか抑えて、結城に声を掛けた。
「卒業おめでとう…」
「……うん」
返事をしてくれた。
目をスッと逸らされたけれど、それでもいい。
この一年間、結城に俺はずっと、無いものとして扱われていたんだから。
応えてくれた。
それだけでも、嬉しかった。
「これ、お祝いっていうか…。貰って」
そう言って俺が渡したのは、パンジーの苗。
樹木が好きな結城なら、きっと解る。
ずっと言えなかった。
だから、こんなに拗れてしまったんだ。
あんな事をしておいて、自分は何をしているんだろう、とも思う。
なぁ…結城。
お前が樹木性愛の事を言ってくれた時、俺も伝えていれば、何か変わっていたんだろうか…。
パンジーの花言葉。
――私のことを想ってください――
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