第5話
他の木よりは、小さい桜の木。
それでも、俺よりも随分とでかくて。
見上げると、花びらがたっぷりと枝に付いては、ゆらゆらと揺れていた。
確か、品種はソメイヨシノだったっけ。
満開になると、花びらが白くなるんだと結城が、言ってた気がする。
こちらの地域では、3月下旬の今が咲き時だ。
元々、生物の横山先生の庭で育てていた木らしい。
けれども、どうせなら広々とした所で育った方が良いだろうと、学校に持って来て、植えたとも聞いた。
俺はそんな木に近づいて、舞い散る白や薄桃色を見つめる。
根っこの近くまで行くと、地面に沢山落ちてしまっていた。
…儚いなぁ。
1つひとつバラバラになって、落ちてしまう花びら。
俺はそれを見るのが、少し苦手だった。
それまでは、綺麗だ綺麗だと愛でられていた花達。
けれども、地面に落ちてへばりついてしまえば、茶色く変色し、沢山の人に踏まれ汚いと言われる。
己の靴に付いた花びらに、顔をしかめる人々。
手のひら返しも、いいとこだ。
あぁ…。
そういえば、結城はこんな事を言っていたっけ…
――「水溜りに浮かぶ花びらを見るとさ、1つひとつ掬い上げて、キスしたくなるんだよね…。あ、ごめん。気持ち悪いよね…」――
散ってしまって、沢山の人達に用済みとされても良いから。
だから――
俺、花びらになりたかったよ。
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