第108話 回答者は俺じゃない




果たしてその質問は、俺が答えるべきものなのだろうか。



「……えっと…」



同じ言葉しか出て来ない俺は、曖昧に微笑んだ。

だって、それってかなり重要な問題だろう?

彼女の弟が、同性を好きになったかどうか。それは、軽々しく答えられるものではない。


拓夢は俺との事を、言ってほしくないかもしれない。

言っても気にしないかもしれない。

でも、でも。






「そんなこと、俺に聞けば良いだろ」



本人以外が口にするものじゃない。






「……あ…」


「拓夢、居たの?」


「おにーちゃーーん!」



後ろから声がして振り向くと、其処に居たのは拓夢。

スエット姿に着替えた様だ。

色は黒。意外なような似合っているような。

うーん。正直、何時もより好きかもしんない。


そんなどうでもいい事を思いながら、ぼーっと拓夢を見つめていると。

元気良く妹ちゃんが彼の元へ走っていき、ぎゅっとしがみついた。

仲良いよな、ここの兄妹。姉妹も姉弟もだけど。



「居た。さっき来た」


「ふーん」



拓夢は妹ちゃんを抱き上げ、よいしょと俺の足元のカーペットに胡座をかく。

(ソファの大きさ上、彼は俺の隣には座らなかった。)

妹ちゃんは拓夢の胸の中で、きゃっきゃきゃっきゃと嬉しそう。


…ちょっとそのポジションが羨ましいかも。

俺だって、拓夢に抱き着きたい。



「…何?」


「は?」


「何時もより見てくるから」


「…見てない」



見上げてくる拓夢に、思わずそっぽを向いてしまう。



「…ヤキモチ?」


「違うわ!」



それでも止めない言葉に俺は、かぁっと赤くなり彼の頭をべしんと叩いた。



「いたっ」


「わぁ!お兄ちゃん!」


「…え、何。両想いなの?」



お姉さん。

ちょっと黙っててもらえませんか。






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