第76話 初めてだった





——男の手が頭から離れた。

俺は思わず声を出す。


頭の中にはありえない感情。






…行かないで。



もう一度、触って。——







——また触れられた温かい手。

ドクっと心臓が動く。

あぁー…やべぇ。この手が欲しい。


そう思いながらも、この手に縋ったりはしない。

だってなんか変だから。

縋ったら、どうにかなりそうな気がする。

わからないけど、そう感じるんだ。

だから、早く離してほしい。

欲しくて堪らなくなる前に。——







最初から、俺は拓夢の温かさが、欲しかったんだ。


だって、あんなに愛情を向けてもらったのは、初めてだったから。



智紀や裕也から、与えられるものとは、違う。





本当に愛されているかの様な…





「……はっ、…」



そこまで考えると、嘲笑が出た。

ただの自惚れだ。


線引きは、ちゃんとしなくてはいけないのに。

拓夢の優しさには、勘違いしそうになる。



あいつは呆れる程の、お人好しだ。

こんな駄目な奴を、見捨てる事も出来ない。




それが、とてつもなく可哀想だ。





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