第54話 まるで大型犬





何が起こったんだろう。





鈍くなった頭では、上手く考えられない。



「…あんた、そういうの無理だろ」


「…そういうのって?」



俺の首元に顔を埋めた拓夢。

聞き返す声が、くぐもって聞きづらい。


俺が体を捩ると、より一層強く抱きしめてくる。



…ちょっと痛いなんて、言えない。



「男とセックス出来るわけ?」


「………」


「…はぁ。もういいから」


「イラついた」


「は?」


「さっきの。あいつらがまことに触ってるの、イラついた」


「………」



顔を上げた拓夢は、黙った俺を見つめる。

じっと逸らすこと無く、無言で見つめてくる。




真っ直ぐすぎて、何を見ているのか一瞬わからなくなった。



…俺は、そんな綺麗な目で見てもらえる奴なんだろうか。



「ヤるとか、そういうのはわからない」


「………」


「俺、元々性欲は薄いから」


「ゴホッ…!」



平然としながら、なかなかのことを言うもんだから、思わず咳き込んだ。



いや、俺だってヤるだのセックスだの、そうとうのことを言ってるんだけどさ…。


俺みたいなビッチが言うのと、拓夢みたいな健全な男子高校生が言うのとじゃ、違うだろう。


主に、衝撃が。





「でも、お前とのキスは好き」


「…え」


「触るのも、好き」


「………」


「…ずっと会えなくて、嫌だった。」





さっきから流れてくる拓夢の言葉に、反応が出来ない。





会えなくて寂しかった、じゃなくて。

会えなくて嫌だった、と言った。





そんなことが、頭の中をぐるぐると支配する。



「……どうすれば、伝わる?」



もう一度、拓夢が俺の首元に顔を埋めた。

もどかしげに、ぐりぐりと頭を擦りつけてくる。

まるでしょげて飼い主に擦り寄る大型犬。



なんだか、もう限界だ。






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