第8話

「まず、さっきから気になっていたんだが…」


「はい?」


そう。気になっていたのだ。彼女の頭にひょこっと生えている?ついているそれに、ずっと目を奪われていた。


「その、何というか……その耳は、君のか?」


彼女の銀色の美しい髪の毛をかき分けるようにして、まるで動物のような「耳」が生えていたのだ。

飾り物にも見えず、まるで本当に生えているかのようにピコピコたまに動くそれは、誰であっても気になるだろう。


「えっ?……あぁ、コレですか。そりゃあ、私は銀狼族ですから……って、遠くから来たんですよね」


「あぁ」


「じゃ、知らなくて普通ですね。説明させていただくと、私は人間では無くて、銀狼族という亜人種に属しているんです」


…ちょっと訳が分からないが。要は彼女は人間ではないという事だな。

うん、普通普通。別に変じゃない…と思っておこう。

何て言ったってここは別世界の中。

人外がいたとして妙な事はないだろう。人間とは意外に適応力があるようで、もうあまり驚かなくなってきた。


しかし、次の質問はかなり重要だ。


「もう一つ聞いてもいいか?」


「何ですか?」


「これから私はどうすればいいんだ?」


「うーん。中々難しい事を聞きますね」


腕を組んで眉間にしわを寄せながら考え込む少女は、恐らく本気で考えてくれているのだろう。あまり向こうの世界では女性関係を持たなかっただけに、こういった人物と話すのもなかった。


そして、しばらく考え込んだのちに、彼女はある程度の答えを導き出したのか、口を開く。


「"ギルド"に登録するのはどうでしょうか?」


「"ギルド"?」


聞きなれない横文字に、思わず聞き返してしまう。


「はい。ギルド……というのは所謂俗称でして、正式に言うと冒険者組合であったり、冒険者機構と言ったりします」


「冒険者……というのは?」


「……よっぽど奥地から来たんですね。えっと、冒険者は分かりやすく言うと何でも屋で、依頼主からの依頼を受けて活動する人たちの事を総称して冒険者と言います」


成る程、日本でも駅前でやっていたやつだな。あちらの世界での万屋がこちらの冒険者という訳か。


「冒険者の中にも分類というか、それぞれ専門としているものがあって、例えば薬草などを集める専門の人や、モンスターを狩る専門の人がいたりします。他にも情報収集や鉱石の収集だったり、様々な冒険者がいます」


「それで?冒険者組合というのは?」


「冒険者組合というのは、依頼主と冒険者を繋げる仲介業者のようなもので、多くの人員を抱えています。ギルドに登録して名をあげれば、素性が知れなくても多くの権限や名声が手に入るんですよ」


「……外人部隊のようなものか」


「はい?」


「あぁ、いや。気にしなくていい。説明ありがとう、後はゆっくり休んでおいてくれ」


「へ?。あ、あぁ。ありがとうございます」


少女は少々面食らった様子で、目を見開くが礼を言う事は忘れない。元来、律儀な性格なのだろうか、親御さんの教育がしっかりとされていた証拠だ。


と、そこまで考えてふと思った。私達はまだお互いに相手の名前を知らないのだ。これは大層由々しき事態だと思われる。何と言ったって、名前を知らないのだ。どう呼べばいいのかわからないでは無いか。

もしかすると相手の少女も気まずかったのかもしれない。初対面の相手に名を聞くというのは中々経験が無いと難しいものだ、特に話の切り出し方がわからない。


…仕方が無い。これは年長者(中身三十半ば)が切り出してやるほか無いだろう。


「そう言えば、名前は?」


「え、あ。そっか、まだ名乗りすらしてませんでしたね」


それでは、と前置きをしてから少女ははっきりとした口調で名を名乗った。



「"マグノリア"。"マグノリア フランシス"。好きなように呼んでください」


「私は……」


と、そこまで言いかけて言い淀んだ。本当の名を告げるべきかどうか悩んだのだ。しかも、前の自分は向こうの世界で死んだわけだし……だが、人を騙すような真似をするのもひける。


結局、本名を告げる事にした。


「"神狩 斗真"だ」


「カガリ トウマ?……ちょっと言いづらいですね。トーマとお呼びしても?」


「あぁ、別に構わない。じゃあ……マグノリア、マグノリア……"リア"って呼んでもいいか?」


「良いですよ」




お互いに顔を見合わせ、少しくすぐったさを感じながら。


「宜しく。リア」


「こちらこそ、トーマ」

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