エマを救え!
「か、勝った……?
私達の勝ち……やった、やったわ!」
「これでアッシャー様の恋人のエマ様も助かるんですわね!?」
「キャロちん、皆も!やってくれると信じてましたわ!」
「「「メルクルナ様!」」」
キャロリンや冒険者達の元にメルクルナが嬉しそうに走り寄る、だがその後ろからぞろぞろと着いてきたエルナルナ達やシリカ達の顔色は優れなかった。
「さあ!凍った者達を助けましょう!」
「ダメに決まってるでしょう!」
「へ?」
メルクルナが助けると言うと、エルナルナがダメ出しをしてきた。
「な、なんでですか!ステラ様もルチル様も冒険者登録してます、なら私達の勝ちなはずです!」
キャロリンがそう言うと、エルナルナが何故ダメなのか説明してくる、ちなみに冒険者達は何が起こっているのか分かっていない。
「ステラちゃんとルチルちゃん、それにロッテンドライヤーが問題なのよ?
ステラちゃんとルチルちゃんは高位の龍、ロッテンドライヤーはドライトの分身体だから……神々が介入したって捉えられるの」
「ま、待ってくれそれじゃどうなるんだ?エマや……凍った子供達は!?」
アッシャーがたまらず聞いてくる、エルナルナはため息をつきながら答える。
「10人助けるのは赦されるでしょう、後は焔の結晶を幾つか渡せるわね?」
エルナルナの言葉にアッシャーは愕然していると、メルクルナが文句を言い始めた。
「なによなによ!元々神の眷族、しかも幹部のマルキダエル達に勝てなんて無茶な試練じゃないの!
ここはドカンとご褒美を与えるべきよ!」
「あら?メルクルナまでなに言ってるの?
メリルルナはそんな事を言った?戦いなさいとは言っても、勝ちなさいなんて?」
「……あ!」
「ちゃんと真っ正面から立派に戦ってれば、全員は無理でもかなりの人数を助けられたんだけどね?」
エルナルナの言葉に愕然としていると、マリルルナが何かを持って近づいてきた。
「エルナルナ姉、これで良い?」
「ええ……15個も創ったの?」
「いや、加減するの面倒でさ……」
「まったくもう……それでは今回の試練による報奨を与えるわ、フェルデーモンに凍らされた人を15人助けられるだけの焔の結晶です。
これは原始の神、ユノガンド様の筆頭眷族神としての決定です、神々の約定にもしたがった決定ですから異論は認めません」
メルクルナはなにか言いたげだったが、ユノガンドの名前を出されては黙るしかないようで、うつ向いて静かにしている。
「ねぇねぇ、キャロちゃんに良いこと教えてあげようか?」
「……良いことですか?」
突然チエナルナがキャロリンの元に来て妙なことを言い出した。
キャロリンは変に思いながらも聞き返す。
「そーそー、これはキャロちゃん達だから教えてあげるんだからね?」
「は、はぁ……?」
キャロリンの反応は微妙だったが、チエナルナは気にせず話始める。
「実はさ?私ってドライトさんと禿げ薬の研究してるのよ。
それでね?その焔は結晶なんだけど……この間、ドライトさんが調べてたのよね?
次の日には調べてなかったからさ、ドライトさんの事だから特性とか調べ尽くして研究が終わったから、調べるの止めたんじゃないかな?」
チエナルナの話を聞いたが、キャロリン達だけでなくアッシャー達冒険者達も、言ってる意味が分からず困惑する、だがチエナルナが続けて言った言葉を聞いて慌ててボス部屋から飛び出した。
「ドライトさんに聞けばなんとかなるかもよ?」
冒険者達とキャロリン達はボス部屋の外に有る、転移陣に走り込んでいく。
「ドライト様は何処に居るんだっけ!?」
「なんか変な依頼とか、普通の人じゃ絶対無理なのやってるらしいよ!」
「とにかく冒険者ギルドよ!冒険者ギルドに行きましょう!」
「学園のクリスティーナ様にも連絡して来てもらって!」
「せリオ!お前、学園に顔パスで入れたな!」
「へい!」
「じゃあ、頼むぞ!嬢ちゃん達はドライト様の捜索を頼む!」
「急げ急げ!」
「あら、転移部屋の前にどなたかいらっしゃりますわね?」
「誰だ!?妨害するなら実力で排除してやる!」
「って、アンジェ様!?」
転移陣の有る部屋の前で待ち構えていたのはアンジュラだった。
「……皆……落ち着く」
「アンジェ様!私達は落ち着いてます!ただ、急いでるだけです!」
「……だから……落ち着く……夫には、スマドで連絡する……あと、私が……転移陣で……疲れた」
「そ、そうだった!スマド!スマド!」
「アンジェ様、学園都市まで転移陣で送ってくれるんですか!?」
[……コクコク]
喋り疲れたアンジュラは座り込んでいるが、ちゃんと転移陣を造り出してくれた。
「ありがとうございます!皆、こっちよ!こっちの転移陣が学園都市まで行けます!」
キャロリンの指示で冒険者達が転移陣に殺到する、キャロリン達も入るとアンジュラが手をフリフリ振ってる光景を見ながら、一瞬で学園都市の門の前に移動した。
「うお!なんだ!?敵か……ってアッシャーさんじゃないか、脅かさないでくれよ!」
都市の門の前に出ると、門衛が慌てて槍を構えたがアッシャーを見ると安心して構えを解いた。
「おう!悪いが緊急なんだ!急いで通してくれ!
せリオ!お前は1番に通って学園長様を呼んでこい!」
「へい、アニキ!」
「何かあったのか!?
とにかく順番は良い!鑑定の魔道具の前を空けろ、アッシャー達を優先して通すんだ!」
アッシャーが緊急と言うと、門衛達も慌ててチェックの順番を変える、並んでいた商人や冒険者達から不満の声が上がるが、アッシャーや宿星の絆に鉄腕といった有名な冒険者やパーティーが居るので慌てて場所を空ける。
「嬢ちゃん達、そのスマドやらでドライト様に連絡ついたのか?」
「ちょっと待ってて下さい、キャロちゃんどう?」
「今呼び出してるから……出た!」
『現在、このスマドは電源が入って……ちょっとドライトさん、これ電気で動いてるの?
違いますよ?
じゃあ、電源っておかしくない?
言われてみればそうですね……でも他に良い言い方は有りますか?
それもそっか、あ!録音してたの忘れてた!何にしろ繋がりません!
プツン!』
「な、何よこれ……」
「メルクルナ様の声だったね……」
「と、とにかく連絡し続けて!」
「うん、冒険者ギルドに急ごう!」
全員で冒険者ギルドに駆け込むと、デレシアが逃げ出した。
「冒険者達が襲ってきた!」
「んなわけあるか!
デレシアちゃん、ドライト様は何処に居るの?」
逃げ出したデレシアをセイネが素早く拘束すると、ドライトは何処に居るのかと質問する。
「ドライト様ですか?
今日は依頼を終えて帰られましたが?」
「連絡がつかないんだけど?」
「そう言われましても……あ、汚れたから綺麗にするとか言ってましたよ?」
「どう言うこと?」
「えっとですね……」
デレシアの説明だと、今日はドライトは、沼に沈んだダンジョンが死んでいるのか調査に行ったそうだ。
結果はしっかりと死んでいたが、ダンジョンに泥が入り込んだせいか崩れずに残っていたので、泥のなかに潜らされたドライトが腹いせに壊しておいたと報告して帰ったそうだ。
「な、なんでそんな依頼を……」
「まぁ、普通の人には出来ない依頼だよね」
「何にしろデレシア!フェルデーモンに凍らされた人達をドライト様が助けられるかもしれないんだ!」
「! 皆さんに緊急依頼です!ドライト様を探してください、都市の中に居るはずです!」
新人とはいえ流石はギルドの受付だった、フェルデーモンの話は知っており、事の重大さに直ぐに緊急依頼としてドライトの捜索を冒険者達に頼んだ。
こうして冒険者達は市内にドライトを探しに出たのだった。
「み、見つからないって……この人数で探してそんなわけないです!」
「でも、実際に見つからないんですよ!」
キャロリン達はダンジョンから昼過ぎに冒険者ギルドに帰ってきた、そして今は辺りは暗くなりつつある。
だが冒険者が総出で探しているのに、いまだにドライトを見つける事は出来ないでいた。
そして冒険者ギルドに使者が訪れた、凍らされた人々を安置している教会から……
「エマが……もう持たない……?」
「……日が変わるまで持つかどうか……アッシャー様、見守ってあげててください」
教会から来た僧侶にそう言われ、キャロリン達も冒険者達も、ギルドの職員や学園からやって来た教師達も愕然とする。
そんななかでアッシャーは大きくため息を吐きながら全員に言った。
「皆、迷惑をかけたな、エマのところに行ってくるよ……そんで謝って、一杯やって来るわ……」
そう言って立ち去るアッシャーの後ろ姿をキャロリン達は何も言えずに見送るのだった。
「こんなのってないよ……」
「ううう……ドライト様は何処に行ったのよ!?」
「まだ時間はあ「分かりました!」わあ!?が、学園長!?」
「ど、どうしたんですか!」
「やっと解析できました!この焔の結晶を使えば凍った人を助ける事が出来ます!」
「ほ、本当ですか!?」
「はい!どうやるかはまだ解りませんが!」
「「「………………だあぁぁ!」」」
学園長の言葉にキャロリン達だけでなく、冒険者達も叫び声をあげる。
「……そうですか、アッシャーさんが……大丈夫です、今はまだ完全に助ける事は出来ませんが、この焔の結晶を使えば私でも延命することが出来ます!
アッシャーさんを追いかけましょう!」
キャロリン達から話を聞いたクリスティーナはそう言うと、冒険者ギルドを飛び出して教会とは真逆の方向に走り出した!
迷走しかけたクリスティーナを、夫のビクターが捕まえて抱き抱えて走る。
「今までも何度か焔の結晶は手に入れてたんですか?」
「はい、しかし私達は純度の高い焔のカケラとしか考えていなかったのです」
「リティアさんの情報と、神になーるの開示されてる部分からの情報とで、大体の事は解ったのですが……肝心の部分が……」
そう言って副学園長のマサミは申し訳なさそうにしている。
「何にしろ今はアッシャーさんとエマさんです!
あなた、急いで下さい、お二人を助けるのです!」
そう言ってキリっとした顔で杖をかざすクリスティーナ、しかしお姫様抱っこで夫に抱えられているので台無しだった。
そんなこんなで爆走する一団が教会に近づくと、シリカ達とメルクルナ達が居た。
「シリカ様!」
「あら、レイナに皆、どうしたの?」
「い、いえ実は……」
レイナが説明するとシリカ達は眉をひそめ、メルクルナは教会に飛び込もうとしてエルナルナ達に押さえ込まれている。
「そう……でもメルクルナ達はもう手を貸せないわ、神の決定としてね。
私達もあの場所に居ちゃったから、手助け出来ないわ……」
シリカはそう言ってすまなそうにしている、そこに不思議そうにセイネが問いかけた。
「あ、あの、それはそれとして、何故皆様はここに?
ダンジョンに居たんでは?」
セイネの問いかけにシリカがばつが悪そうに顔をしかめて答える、サルファとカーネリアは明後日の方向を見て誤魔化そうとしている。
「……いやさ、よくよく考えたらあそこに居たのって、レイナ達を待ってたからでしょ?
そのレイナ達が帰ったのにあそこに居る理由も無いしさ……」
要するに神々の試練だなんだとあって、自分達がダンジョンに居た理由を忘れて見送ったが、居た理由がレイナ達を待っていただけと思い出して帰ってきたと言うのだった。
「何にしろ焔の結晶の関係で私達は手助け出来ないけど、ドライトを探す手助けは出来るわ。
と言うか、アンジェが夫の匂いがこの辺りからするって言うから、ここに来たのよ」
焔の結晶の使い方は教えられないと言われたが、ドライトが近くに居ると聞いてキャロリン達は喜び、アンジュラに何処に居るか聞こうとするとが、アンジュラはフラフラと歩いていってしまう。
「夫スメル……夫スメルがする……」
「あの教会みたいね?」
「あそこって……」
そこはアッシャーの、フェルデーモンに凍らされた人々が安置されている教会だった。
そしてキャロリン達は一斉に駆け出して、教会にはしりこむ。
するとそこで司祭やシスターと話している、アッシャーが居た。
「お前ら……なんで……」
「アッシャー様!ドライト様はこの教会に居るみたいなんですわ!」
「アッシャーさん、諦めるなんて言わないで下さい!」
「クリスティーナ様が焔の結晶で延命出来ると言っています!
もしドライト様が見つからなくても、延命だけでもしましょう!」
リティア、レイナ、キャロリンが口々にそう言って、アッシャーに詰め寄る、だがアッシャーは焔の結晶を1つ使うと聞いてそれはダメだと言う。
「その1つで本来は、何人が助けられるんだ?
エマも許さないだろうが、俺も自分かみ許せなくなる……それはとっておくべきだ」
「アッシャーさん!固いこと言わないで!エマさんだけが今、危ないんだったらエマさんのために使うべですよ!」
「そうです!それで文句を言う人は居ません!居たとしてもそんな人は、私のハルバートで吹き飛ばしてあげます!」
「そうだよ!それに……もし焔の結晶が足りなくなったって言うなら……また取りに行けば良いんだよ、皆で!」
今度はアレナム、ナタリーが詰め寄る、だが目をつぶり頷こうとしないアッシャーだったが、セイネの言葉に目を見開く。
「私達が手伝うから!アッシャーさん、手伝うから!」
「そうよ!セイネの言う通り、私達も手伝うから!」
「アッシャー様!あがきましょうよ!」
「私達は諦めませんよ!」
「アッシャー様、クリスティーナ様に頼んで延命の準備は済んでいますわ?」
「アッシャーさん!」
キャロリン達に口々に言われて、アッシャーは顔を上げる、そしてキャロリン達やクリスティーナ達に問いかけるのだった。
「良いのか?エマの、ために使っても良いのか……?
貴重な焔の結晶を……」
その問いかけに全員が言うのだった。
「「「もちろん(よ、です、だよ)!」」」
「この先が安置所です、アッシャーさん……良かったですね?」
そう言って老齢の司祭の案内で地下に有る安置所に向かうアッシャー達。
「司祭様、俺は今まで正しい事をしてきたのでしょうか?
エマをなかなか助けられなかったのは、俺の行いが悪かったからじゃ?」
「……アッシャーさん!その様なことを言ってはなりません!
今の言葉はあなたを……凍らされた者達を助けようとしてる者達、全員に悪いと言ってるのですよ!
それに、それを言われたら私達なぞどうすれば……長年すぐ近くにメルクルナ様の祝福が有ったのに……それに気づかなかった私達は……」
老齢の司祭はアッシャーを叱りつけると、すまなそうに後ろに居るメルクルナをチラリと見る。
見られたメルクルナは労るように老齢の司祭に微笑み、何も言わなかった、そして階段を下りきると大きな扉に鍵を差しこみ開け放つ、そして扉の中に見たものは!
「らぶみー……てんだあぁぁあ!」
風呂に入っているドライトだった。
縦横100メートル程の岩石風の風呂の脇で、ドライトがキャロリン達に背を向け、歌を歌いながらボディブラシで体を洗っていたのだ!
「ド、ドライト様!?」
「ああん、あん、あんこぉ~お?
なんかキャロの声がした気が……
まぁ、私のキャロが私の入浴を覗くわけな……キャアァァァ!
の、覗きよ!しかも集団の覗きよ!」
[ザブン!ブン!]
「……へ?[ドガ!]ブホォ!?」
「「「メ、メルクルナ(姉)!?」」」
ドライトが何を歌っているのかよく分からないが、何にしろキャロリンの声に反応して振り向くと悲鳴をあげて湯船に飛び込み、石鹸を投げつける。
石鹸は狙ったようにメルクルナの顔面にヒットしてしまい、メルクルナは吹っ飛んだ。
さらにドライトは亜空間から石鹸を取り出すと、追撃とばかりに吹っ飛んで壁にめり込んだメルクルナに投げつける!
「危ない、メルクルナ!」
「メルクルナを守るのよ!」
「この駄龍!」
「禿げ石鹸か!?」
エルナルナ達がメルクルナを守るために神剣や神槍、否、バットを取り出して打ち返す。
「むむ!?小癪な!」
打ち返されたドライトは変化球を混ぜ始める、その結果、今まで5割ほど打ち返していたのが、2割も打ち返せなくなってしまった!
「ヘイヘイ!バッタービビってるわよ!ドライトさん、もっと内角に抉りこむように投げてやって!」
そしてメルクルナは何時の間にか復活して、キャッチャー防具一式を身に着けて、空振りした石鹸を受け止めてはドライトに投げ返している。
「「「遊ぶな!!」」」
ドライトとメルクルナ達はシリカ達に怒られ、シブシブとドライト達は野球を止める。
野球を止めると、キャロリンが何かが入った袋を持って、ドライトの前に走り寄る。
「ドライト様!これを見て下さい!」
キャロリンの真剣な表情にドライトも真剣な表情になり、袋を受けとる、そして袋の中から出てきたのは……焔の結晶だった。
ドライトが周りを見回すと、キャロリン達に冒険者、シリカ達やエルナルナ達も真剣な表情でドライトを見る。
その視線にさらされてドライトも、真剣に焔の結晶を1つ1つ手に取って調べ始める。
「フムフム……おや?……うーん……これは……」
ドライトはブツブツ言いながら、焔の結晶を1つ1つを手に取り確認していく、そして最後の1個を確認し終えると袋に入れ直し、キャロリン達に向き直りと一言言った。
「2級品です、ゴミですね」
そう言うとドライトは焔の結晶を、袋ごと後ろに投げ捨てた。
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