第二回 俺、転生!
目が覚めると、視界に
彼らは破顔し、何やら騒ぎ始めた。どうやら喜んでいるようである。
(何故、丁髷なんだ)
普段なら吹き出すところだが、そんな事よりも先に、俺は生きている事に驚いた。
(確か、車に轢かれたはずじゃ……)
だが、身体には痛みは無い。少し、頭がぼんやりするだけだ。
俺は身を起こした。
部屋は板張りの一間。純和風な日本家屋の一間なようだ。そして着ている物は、白い着物。着流しのようだ。
「殿~!」
厳つい丁髷頭の男が、涙を浮かべて俺の手を握った。
「ちょ! えっ! と、殿って、俺?」
俺は困惑しながらも、握られた手を慌てて引いた。
「他に殿はおられませぬ! 何を申されるのですか」
「いや、自分は殿ではないし。名前は世良田……」
「いいや、殿は殿でござる!」
すると、今度は蟷螂のような顔の丁髷頭が、厳つい丁髷頭を止めた。
「まぁ、そう言うでない。殿はあの衝撃で、ちとお記憶が飛んでいるかもしれぬ」
「衝撃? あっ……」
俺はしめたと、頷いた。このコントのような状況を把握するチャンスだ。
「そ、そうです。どうも、頭がぼう~として、何かこう……」
俺が頭を抑えながら言うと、何やら違和感覚えた。
(やけに頭が寒い)
そして、目の前には丁髷頭。
もしや――。
俺は、右手を頭頂に当てた。
「やっぱり……」
俺は、不安が現実のものになり愕然とした。丁髷頭になっているのだ。触る限り、これはヅラではない。
「殿、どうされたので?」
丁髷頭達が怪訝な顔を一斉に向けた。
「あっ、いや。何でもないです。……いや、何でもない」
どうやら、俺は殿という存在らしい。多少尊大な態度をしなければ、怪しまれそうだ。コントだがドッキリだが知らないが、ここは乗って演技をするしかない。
「だが、頭がぼんやりする。どうも記憶が曖昧だ」
「やはり」
「まず俺の名前は何だったかな……」
そう言うと、丁髷頭達は悲壮な表情を浮かべ、
「殿は、松平蔵人佐元康様でございますぞ!」
「へっ……。まつだいら?」
「殿、まさか、あの衝撃で耄碌されたのでは」
「あっ、いや大丈夫だ。しかし、どうもな。で、今の状況を教えてくれ」
そう命じると、厳つい丁髷頭がぽつりぽつりと語り出した。
時は、永禄三年。西暦換算では一五六〇年ぐらいか。どうやら俺は松平蔵人佐元康、つまり後の徳川家康で、今川義元の命令に従い、大高城に兵糧を運び込んだらしい。しかし、城内に潜んでいた曲者の
「なるほどのう」
と、しおらしく考え込んだが、内心では混乱の極みだった。
「皆の者、少し一人にしてくれまいか」
「殿はまだ万全ではないご様子。危のうございます」
「構わぬ。暫く遠慮せい」
某国営放送ドラマさながらの演技で言うと、丁髷頭達は頷き、一間から出て行った。
一人になった。
俺は布団に横になり、頭を抱えた。
「いやいやいやいやいや。これは無い! 逆行転生? ネットのラノベじゃあるまいし、そんな事ありえるか?」
一頻り悶絶した後、俺は外の声に気付き、障子を開けた。
血臭。鉄臭いものが鼻を突き、俺は顔を歪めた。
(おい、冗談だろ……)
甲冑武者共が、生首を水で洗っているのだ。その意味について、戦国史を研究していた手前、すぐに判った。少しでも見栄えよくしているのだ。
「あっ、殿! 御無事でございましたか」
武者がそう言って
「ようございました! ようございました!」
俺は自分でも判るほどの不自然な笑みを浮かべ、その場に座り込んだ。
「戦国だ……。紛れもなく、ここは戦国時代だ」
どうやら俺は、本当に戦国時代そして徳川家康に転生したようだ。
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