敵対してはならない存在
エリルレの森の中、シキはヒーラ草の採取を終了しゼルネラの霜降薬草とベルタルの苔草を探していた。
森の中はかなり広く奥に行けば行くほど、空の景色が草木に邪魔されてしまうほどだろうか。
「(地球では有り得ないだろうな……『あっち』ならこんな場所は腐るほどあるからな。)」
シキの服装は変わらず黒いローブだがフードは脱いで邪魔な髪の毛は後で結っている。基本何かの作業をするときはこの様な髪型だ。
「(……にしても、モンスターとか全然見かけないな……おっ、泉があるな!そこで休むか)」
中部まで歩いていると大きな泉を見つける。そしてそこで休もうと丁度近くに倒れていた木の上に座ることにした。
懐から一つの瓶を取り出してみるとそれを眺めて見ていた。その瓶の中には濃い緑の液体が入っており人によっては少し毛嫌いする者もいるだろう。
「(これが『ポーション』か……。かなり苦いみたいだけど……大丈夫か?)」
ポーションといえばゲーム等で体力等を回復させる薬だ。それはこの世界でも同じで値段は大体高い物で大金貨5枚、低い物で大銅貨5枚だ。値段の高さによっては効果は違っているが共通する点といえばどれも『超』がつくほど苦いのだ。
「(……今度味見してみようか。)」
ポーションをまた懐に戻すと次ぎは指輪を取り出した。
その指輪を見てシキはそれを摘まんである[スキル]の一つを使用した。
[生活魔法:浄化クリーン]
それを唱えると小汚ない指輪はみるみる綺麗になっていき、一つの綺麗な金色と銀色の指輪へと変化していった。
そのビフォーアフターを見てシキはこの指輪だけの価値はかなり高価だとわかってしまう。
「(おいおい、あのおっさん!こんな豪華な指輪知らなかったのか?しかも魔力が少し高まっているような……?いや、俺が[浄化クリーン]を使ったからか?確か生活魔法は5だったよな。中々高い……のか?)」
スキルのレベルには1~10まであるがスキルによっては中々レベルの上がらない物もある。それに指輪を売った店主も生活魔法でこれ程綺麗で価値のあるものだとは知らなかったのだろう。
「(はぁ~、いいや。とりあえずこれはポケットに入れておこう……ん?)」
耳を澄ませると何やら騒がしい音を感じ取ったシキはその場から離れる。
その音の元へと駆け出しすと近づくに連れて剣戟の音や人が争う声が次第に大きくなっていく。
シキは木陰に隠れて様子を窺う。
「ギャハハ!死ねー!」
「お、あの女上等じゃねぇか!」
「男は殺せ!女と子供は殺すなよ!」
「お頭、今ここで女を犯してもいいよな?」
「かまわねぇ!やっちまえ!」
「おおぅ!太っ腹だぜ、お頭ぁ!」
「おら、死ね死ねー!」
何やら盗賊らしき者達が二台の馬車を襲撃している所だ。その盗賊達に対抗して護衛の騎士や冒険者が対抗しているが恐らく数で負けてしまってるし盗賊達もそれなりに強そうだ。
「(……テンプレじゃねぇか!……目立ちたく無いんだよな……そうだ!変装すれば……!)」
とりあえず襲われている方を助ける為にシキは黒いローブを『空間庫』に戻して代わりに白いローブを身に纏った。
「(顔も隠したし、よし!やりますか!)」
シキは足音を立てずに一人の盗賊の後ろに立つとその首筋に向かって[漆黒]で作り出した短剣で貫いた。
「がぁ……!?」
ドサリッ。
その男は絶命しておりその場にいた他の盗賊や騎士、冒険者達は時間が止まった様にその光景を見ていた。
いきなり現れた白ローブの人物によって見る事はできてもそれを認識するのには時間がかかった。
「ひっ!?」
「かっ、頭……!」
「何なんだ……?」
「し、死神だぁ……!?」
返り血を浴び、白ローブに付着したがその汚れた血は水分が蒸発するように赤い血痕も綺麗に消えてしまう。
「(今のがリーダーか?……ま、人を殺すのはいいものじゃないな。……思わず殺っちまったけど……一応聞いてみるか)」
シキは馬車の護衛にいた騎士に呼び掛ける。
声を変えてだが。
「そこの騎士さん、この人殺っちゃったけど大丈夫かな?」
「……はっ!?君は女性なのか。あぁ、彼等は盗賊だ。今君が殺ったそのリーダーは懸賞金がかかってる!」
「ならここにいる盗賊達は?」
「抵抗するなら殺しても構わないが……」
「わかった。……で、どうする?お頭さんが死んじゃったけど?抵抗しないなら見逃すけど?」
シキからの選択に盗賊達は武器を向ける。
どの盗賊達もニタニタ笑いながら身体を嘗め回すように見ていた。
「ハハッ!あのお頭にはウンザリしてたからな!」
「お頭を殺ったのもまぐれだろ?」
「そうだな!あの白ローブの奴は女だ!めちゃくちゃ犯しまくって……ぁ?」
最後の男が何か言おうとしたがその前にシキの[漆黒]の短剣でその男の首を切り落とした。かなり速いスピードで斬った為か短剣には血の一滴も付いていない。
そして頭が地面に落ちた瞬間、首から噴水の様な勢いで血飛沫が辺りに散らばった。
「ひっ……ひぃ!?」
「嘘だ……」
「夢ぇ……?」
「ぁぁ……」
盗賊達は立ったまま今起こっている現実に身体中の体液を垂れ流して手に握る武器は小刻みに震えていた。
「もう一度問う。生きるか、死ぬか、どっちにする?」
その白いローブは彼等にとっては絶対に敵対してはならない存在だと理解してしまう。
だがもう遅い。
例え彼等が『生きる』選択をしても、
彼等は今日起こった出来事を身体中、へばりついた様に忘れる事が出来ないだろう。
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