魔法のポトフ
ここはとある森の中。ここにひとりの魔女が住んでいました。普段は家の中に閉じこもって誰とも会おうとしない魔女でしたが、今朝はなんだかとてもいい気分でした。
そこで魔女はあることを思いつきました。美味しいポトフを作って森の動物たちに振る舞ってやろうと考えたのです。
「それじゃあ、よろしく頼んだよ」
魔女がそう言うと、一羽の小鳥が窓辺から飛び立って行きました。魔女は小鳥に、森中に知らせを頼んだのです。
「さて……」
小鳥が飛び立って行くのを見届けると、魔女はなにやら家中を探し始めました。どうやらポトフを煮るためのお鍋を探している様子。しかし、そんな大きなお鍋なんてどこにもありはしませんでした。
そのとき、部屋の片隅で使い古されてそのままになった魔法の大釜が目にとまりました。
「きちんと洗えば大丈夫じゃろう」
魔女はその大釜を洗うと、いろいろな葉っぱや豆やきのこを煮込み始めました。
しばらくすると家の外が騒がしくなってきました。森の動物たちが集まってきたのです。
「どうやら集まったようだね」
魔女は食事のしたくを始めました。今日はせっかく天気が良いので家の外に机を出してそこで食べることにしました。
たのしい食事の時間も終わり魔女が食器を片付けていると、また家の外が騒がしいようです。
「もうお腹もふくれたろう。今日はもうお帰り」
そう言いながら魔女が外へ出ると、そこでは実にへんてこなことが起こっていました。
そこではきつねやくまが空をびゅんと飛び回り、小さなりすが大きな木を片手でひょいと持ち上げているではありませんか。
「これはどうしたことだろう」
その光景をしばしぼうぜんと眺めていた魔女でしたが、あることに思い至るとみるみる顔が青ざめて行きました。
そうです。あの魔法の大釜でポトフを作ったのがいけなかったのです。大釜に残った魔力の影響で、動物たちまでも魔法の力を手に入れてしまったのです。
「しまった、しまった」
魔女は急に気分が悪くなってきました。そして、家の中に戻るとベッドに横になり布団をかぶりました。
「これはきっと悪い夢にちがいない」
そう呟きながら、魔女は眠りに落ちました。
――コトコトコト。
お鍋のゆれる音と美味しそうな匂いで少女が目を覚ますと、窓からは夕日が差していました。
「お掃除の途中で眠ってしまったのね。それにしてもおかしな夢だったこと」
少女はあくびをひとつすると部屋を見渡しました。そこにはたくさんのぬいぐるみや本や洋服が散らばっていました。
「あーあ。私も魔法が使えたらなァ」
ふと、本棚のところに目をやると、そこにはほうきが立てかけてありました。そのほうきを指差すと少女は、
「えいっ」
と叫びました。
「なあんて」
その時、下の階からお母さんの声がしました。
「夕飯の支度ができましたよ。お掃除は、もうすんだかしら」
少女は決まりが悪そうに階段を降りて行きました。今日の夕飯は少女の大好きなポトフでした。
夕飯を食べ終えた少女は食器を台所に運び、それからお皿洗いを手伝って二階に戻りました。
「ああ、またお掃除の続きをしなくちゃあ」
そう言いながら部屋のとびらを開けると、これは不思議。部屋はすっかりきれいに片付いていました。
「あれェ。さっきはあんなに散らかっていたのに……」
少女は不思議そうに部屋に足を踏み入れました。そのとき、本棚に立てかけてあったほうきがひとりでに倒れました。
(おしまい)
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