第26話

 昼休み。

 俺は馬場がいるという三年二組の教室前に来ていた。

 恐い。

 心臓がバクバク鳴っている。

 本当に殴られないだろうか。俺は上手くやれるだろうか。

 失敗を許されないという緊張と、昨日、体が覚えてしまった恐怖が心臓を締め付ける。周囲の上級生みんなが敵みたいに見える。

 勇気を出さなきゃ。あいつを誘うだけじゃないか。

 声をかける勇気を。

 ――頑張ってね。

 今朝の刀条の言葉を思い出される。

 刀条が俺に任せてくれたんだ。

 期待に応えないといけない。

 教室のドアを開けたのだが、思ったよりも力が入ったのか大きな音が鳴ってしまった。

 ――ガラガラッ!

「なんだなんだ?」

 教室中の視線が俺に集まり、頬が紅潮する。

 早く馬場を探さなきゃ。早くここから立ち去りたい。

 僕はせわしなく視線を動かし馬場の姿を探す。

 いない。いない。どこにもいない。

 馬場の姿は、すでに僕への興味を失って、思い思いに昼食をとっている三年生の中に見つからなかった。ひやりとした汗が流れる。

 いったい、どこに行ったんだ?くそ!

 まさか、梅村のところに?

 俺としたことが迂闊だった。考えてみれば、このまえ梅村が殴られたのも昼休みの時間だったじゃないか。

 だったら今日も馬場が梅村のところに行くことがあってもおかしくない。でも、二年三組からここ三年二組に来るための通路は一本しかない。

 もしかして、ここに来るまでにすれ違っていたのか?そのことに俺は気がつかなかったのか?だとしたら俺は大馬鹿者だ。大うつけだ。何が俺に任せてくれだ。一番頼りにならないのは俺じゃないか。

 ここで失敗したら刀条や灰島に顔向けできない。

 早急に、性急に戻らないと!

 

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