うすごおり

 薄く張った氷がゆるりと解けて、強い風が春を呼ぶ。待ち侘びたように花は開き、虫たちが眠い目を擦りながら這い出てくる。明るい陽が降り注ぎ、何もかもが目覚める季節。


 なのにどうして。


 風が乱す髪を押さえて私は俯いている。

 固く固く。心を閉ざしてしまいたい。


 飾られた花を見たくなくて目を閉じる。

 深く深く。意識を沈めてしまえたら。


 なぜ日は照るのだろう。

 あなたがいないのに。



 覚悟なんて出来てなかった。

 信じたくなかった。分かりたくもなかった。




 もう空っぽのはずの心が震える。

 恋しいと叫ぶ。

 帰ってきてと駄々をこねる。


 何も考えたくないのに。

 だって考えたら分かってしまうから。


 もう会えないのだと。

 送らなければならないのだと。

 私は、生きていかねばならぬのだと。



 お墓の中の小さな骨はあなたじゃない。

 春風に混じって私を包んでくれる訳でもない。


 いつまでもここに立っていたってしょうがない。




 だけどまだ、


 私は顔を上げることが出来ないでいる。

 

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