第3話

 起動が確認されると直ちに音声情報が送信される。どうやら正常に作動したらしい。しかもなにやらいい雰囲気。想定の範囲外ではあるがそこそこ楽しい暇潰しになってくれそうだ。

 あたしはコーヒーを啜りながら、ヘッドホンから聞こえてくる会話に集中する。

 始めは映像付きにでもしようかと思った。でもそれでは現実的すぎてげんなりするし、だからといってテキストデータにするのも味気ない。やっぱり音声でしょう。想像力を掻き立てるし、データを取るにもそこそこ悪くはない。

 ただ気がかりなのは、すべての記憶を消去し損ねているということか。まぁ、万が一のときには遠隔操作で制御不能にすることぐらい出来る。こちらの方が幾分か上に立っているはずだ。

 余裕に感じていたその時耳を疑う台詞が聞こえた。

 相手の青年の戸惑う声。

「だから、私を殺してちょうだい」

「殺すって……」

「お願い、私の幸せを願うなら」

 それは驚くべき展開で……あたしはすぐに機械で埋めつくされた制御室をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る