後編 ヒーロースーツは、もういらない
それから数日。夏休みが近いこともあり、下町は日を追うごとに賑わいを増しているようだった。
馴染みの商店街から響く喧騒は、交番の中にいても伝わってくる。
「……」
いつも通りに出勤し、いつものようにダラダラ自転車を漕いでパトロール。そんな平凡な日課の一部をこなし、龍誠はアイスを咥えて机に腰掛ける。隣では、部長がいびきを立てて眠りこけていた。
――もうすぐ、あれから一週間が経つ。そろそろ、渉が答えを聞きにくる頃だろう。答えなどとうに決まっているが……何処と無く、後ろめたい。
そんな複雑な表情を浮かべながら、龍誠はぼんやりと窓から町並みを眺めていた。
(……そういやあいつ、今日は随分遅いな)
ふと、彼の脳裏をあすかの存在が過ぎる。基本的に二人はいつも、同じ時間帯にパトロールから帰ってくるはずなのだが……あすかはまだ、ここに戻って来ていないようだった。
立ち寄った駄菓子屋でアイスを値切ろうと粘っていた分、今日は龍誠の方が遅れていたはずなのに。
(ま、タバコ屋の婆さんといい、最近はこの辺りも高齢化が酷いからな。年寄りの道案内でもやってんだろう)
そう当たりをつけた龍誠は、さして気にすることもなく怠惰に一日を過ごそうとしていた。
「ねぇ、奥さん聞いた!? 強盗ですって、商店街前のコンビニで!」
「ええ、聞いた聞いた! やだねぇ怖いわぁ!」
――交番の外から聞こえた、主婦達の話し声を聞くまでは。
あすかが戻って来ない理由を悟り、龍誠は一瞬で貌を切り替える。鋭い眼差しで、彼は商店街の方向に眼を向けた。
(……商店街前なら、あいつのパトロール経路にあったな。なるほど、あいつが強盗を放っておくはずがねぇ)
あすかの人柄を鑑みれば、まず強盗を放置したりはしない。本来ならこちらに連絡が来るはずだが……恐らく、そのタイミングもなかったのだろう。
確かに彼女も腕に覚えのある警官だが、強盗が複数いるのなら多勢に無勢。コンビニに立ち寄った瞬間に現場に居合わせ、対処する暇もなく……という状況だとするなら、事件が発生しているというのに情報が伝わっていないことにも説明がつく。
(……強盗の連中には悪いが、ちょうどいい。この一件、利用させて貰う)
限られた情報から現状を推測すると、龍誠は机から飛び降りると自分のロッカーに向かう。その扉の向こうには――真紅のヒーロースーツが隠されていた。
(
◇
「へへ……大人しくしとけよ?」
「くっ……!」
商店街前のコンビニ。警官の立ち寄り所として指定されているこの店舗で、沙原あすかはかつてないピンチを迎えていた。
不埒な者がいないか眼を光らせ、自動ドアを潜った瞬間……三人組の強盗犯による犯行現場に居合わせたのである。まさかのタイミングでパトロール中の警官と至近距離で出くわし、強盗側も動転していた。
そんな不意の遭遇に暫し動じつつも、あすかはすぐさま全員を確保すべく動き出した。一瞬遅れて行動に移った三人組の一人が、咄嗟にナイフを振るったのだが――あすかは見事にその手を掴み、犯人の顎に膝蹴りを叩き込んだ。
痛烈な一撃を浴びた犯人はたまらず昏倒し、あすかは初陣で確かな手応えを得られたことに、思わずほくそ笑んでしまった。その隙を突かれ――強盗側に店員を、人質に取られてしまったのである。
「まさかサツとバッタリ出くわすなんてなぁ……しかも、こんなでっけーチチの姉ちゃんとは」
「あぁ、ケッサクだぜ。人質取られて何もできない気分はどうでちゅかー!」
「あんた達っ……!」
目の前でナイフを首筋に突き付けられている店員は、青ざめた表情で震えている。恐らく、バイトの女子高生だろう。純朴な少女に、非日常の刃物はあまりにも恐ろしい。
あすかは視線で助けを求める彼女を、悲しげに見つめながら……煽られても何もできない悔しさに、唇を噛んでいた。
――来年で創設三十周年を迎える「救芽井エレクトロニクス」。その大企業が請け負う着鎧甲冑の総生産台数は、今年で二万を超えていた。今では警視庁だけでなく地方警察などでも、「
だが、日本警察の全てに配備できるだけの生産台数には遠く及ばない。東京だけでもこの下町のように、着鎧甲冑が配備されていない部署は幾つもある。
結果として、着鎧甲冑が配備されている部署の管轄下では、年々犯罪率が減少しているのだが……その分、着鎧甲冑が配備されていないような地域での犯罪率が高まりつつあるのだ。
生身の人間では、どうやっても着鎧甲冑には勝てない。なら、それがない場所に行けばいい。至極単純なそのロジックに基づき、現代の悪漢は辺鄙な場所を狙うようになったのだ。
彼らもまた、その一部。着鎧甲冑の配備が届かない場所で悪事を行う彼らは、何もできない生身の婦警を厭らしく見つめていた。
「あぁ、そういや一年前もヒーロー気取りのサツ見習いにパクられたんだったな。ハッ、そのサツが今や涙目で何もできずにプルプルしてんだ、マジケッサクだな」
「……! あんた達は……!」
「しかしいいチチしてんなぁ、あんた。顔も激マブだし。……へへ、ぴっちりしたケツもたまんねーぜ」
警察学校入校式の日。龍誠に捕まったあの日のコンビニ強盗達が、今目の前にいる連中だと悟り――あすかは、キッと鋭い眼差しで睨みつける。
だが、それが却って男達の興味を引いたらしい。残った二人組の内の一人があすかに躙り寄り、無遠慮に豊かな胸を鷲掴みにする。
「さ、触るなっ!」
「オイオイ抵抗しちゃう気? おい」
「あぁ」
その感触を堪能する男に怒鳴り、あすかは身をよじる。だが、その反応に男はますます下卑た笑みを浮かべると――片割れに指示を出した。
次の瞬間、男のナイフが店員の胸元を容赦なく切り裂き、淡いピンクのブラを露わにしてしまう。たわわな胸を晒され、刃物を振るわれた少女は、悲痛な叫び声を上げた。
「や、やめなさい! やめてっ!」
「やめてほしい? そう? んじゃあ、お姉さんが代わりに見せてよ――ストリップ」
「わ、分かった……私が脱ぐから、その子には手を出さないで!」
自分に屈辱を味わわせた、あの日の悪漢に、あの時とは比にならない屈辱を受ける。雪辱どころか、さらなる恥辱を味わわせられる現実に、あすかは唇を噛み締め――制服を一枚ずつ脱ぎ始めた。
ボタンを外した瞬間、Gカップの巨峰が大きく揺れ、男達の情欲を煽る。その姿を、店員は悲しげに見つめていた。
(大丈夫よ……あなたは、私が守るから)
そんな彼女に、弱みを見せまいと。あすかはあくまで気丈な態度を崩さぬまま、制服を全て脱ぎ捨て下着姿になった。白いレースのブラとパンティが晒され、彼女の柔肌が男達の視線を集める。
――だが今は、個人的な羞恥心や怒りより、目の前の少女を救わねば。その一心で耐え忍ぶあすかは、キッと男達を睨みつけた。
「……満足でしょ、これで……あぅっ!?」
「ハァ? んなわけねーだろ、むしろこっからが『本番』だろが!」
だが、男達の欲望は止まらない。男はあすかの胸を揉みしだきながら彼女を突き倒すと、その淫靡な肢体を粘つくような視線で舐め回す。
「や、やぁっ!」
「抵抗すんなよ? したら代わりに店員さんに相手してもらうからよ」
「……最、低っ」
「んじゃあ、その最低にヤラれちまうお姉さんはそれ以下ってことで!」
そして獣欲の赴くまま、ブラとパンティに手を掛ける。一気にあすかを生まれたままの姿にしてしまおうと猛るケダモノの目に、力無い婦警は抗うことすら許されなかった。
――そう。力無い正義に、正義なき力を正することはできない。ならば。
「やめとけって兄ちゃん、まだ昼前だぜ?」
それ以上の力を持って、封殺するしかない。その浅ましい現実を象徴するかのように――人ならざる者の手が、男の肩を捕まえた。
「な、こ、こいつっ……!」
「えっ……!」
気配もなく、突如現れた謎の新手。その姿を目の当たりにした、この場の全員が――表情を驚愕の一色に染め上げる。
紅いボディスーツに、体の各関節部を保護する蒼いプロテクター。真紅の袈裟ベルトに、頭部の
この姿を知らない者など、この日本にはそういない。
「ま……そのおっぱいは、確かに魅力的だがな?」
――「救済の超強龍」。その姿を前に、この場にいる誰もが固まっていた。彼自身を除いて。
「お、おい、どうなってんだよ!? この辺に着鎧甲冑場にないって……し、しかもなんで『救済の超強龍』がぁ!?」
「し、知るかよくそがぁ!」
強盗二人は激しく動転し、近くにいた男はがむしゃらにナイフを振るう。それを巧みにかわす「救済の超強龍」は、後方に回転しながら素早く跳びのいた。
なんとか足止めせねばと焦る強盗は、着地した瞬間を狙いナイフを投げつける。その刃の腹を盾で受け流し、ナイフを弾いた「救済の超強龍」は、ジリジリと男に歩み寄ってきた。
「く、来んなクソがぁあ!」
その圧倒的な威圧感に気圧され、男は切り札である拳銃を引き抜く。だが、銃口を突きつけられてもヒーローは怯むことなく歩み続けていた。
やがて男は目を閉じたまま、がむしゃらに拳銃を連射するのだが……「救済の超強龍」は、その近距離射撃を全てかわし、延髄に手刀を浴びせてしまう。意識を刈り取られた男は、そのまま力無く倒れ伏してしまった。
「う、動くんじゃねぇ! 動くとこのガキがッ……!?」
残された最後の強盗は、店員にナイフを突きつけ悪足掻きを続けようとする。だが、強盗の視線が店員に移った一瞬のうちに――「救済の超強龍」は強盗の背後に回り、後ろから取り押えてしまった。
瞬く間に強盗を打ちのめす、超人的な戦いぶり。人の身を超えた力を手にする着鎧甲冑ならではの戦いを目の当たりにして、あすかは固唾を呑む。
――そして。
「うぅ……ん。げっ!? や、やべぇ早く逃げ……うぐ!?」
「……逃がさないわよ」
意識を取り戻した一人目の強盗が、仲間達の窮状を前に逃げ出そうとした瞬間。あすかに背中を踏みつけられ、御用となってしまうのだった。
白いレースの下着姿の美女に、踏みつけられるというこの状況。ある意味、ご褒美である。
そして――世界的ヒーローのサプライズ参戦という、インパクト全開のイベントもあってか。この逮捕劇が終わりを迎えた瞬間、外から見守っていた住民達から歓声が上がるのだった。
「え、あ……い、いやぁあぁあ!」
その声を耳にして、今までの自分のあられもない姿を見られていた事実にようやく気づいたあすかは、悲鳴を上げて両腕で懸命に肢体を隠していた。
だが、彼女の豊満な肢体は細腕で隠し切れるようなものではなく――下町の男達はおばちゃん達にしばかれるまで、鼻の下を伸ばして彼女を凝視していたという。
――そしてその頃、交番では。
「むにゃ……うん? なんだもう昼前か……おぉい龍誠、アイス買って来たかぁー?」
誰もいなくなった机の上で、部長がようやく目を覚ましたのだった。
◇
その後、三人組は敢え無く逮捕され連行されていった。再犯ということもあり、今回は少しばかり重い罪になるという。
――そして「救済の超強龍」が下町のコンビニに現れたという衝撃的ニュースは、間も無く世界中を駆け巡っていた。久水渉はこの件への関与については、ノーコメントとしている。
彼がこの事件の中心にいた「救済の超強龍」本人に会ったのは、この翌日のことであった。
――成田空港の近くにある、とある高級ホテル。そのVIPにのみ許された最上階のスイートルームで、久水渉は夜空を眺めていた。
バルコニーから伺える東京の夜景が、闇夜の下を鮮やかに彩り、この国の繁栄と平和を物語っている。……彼が身を投じてきた戦地からは、想像もつかない世界だ。
「……龍誠、分かっただろう。お前の力は、下町なんて小さなフィールドに収まるものじゃない。この国の、この海の向こうの人々のためにこそ……俺達はいるんだ」
――先日ニュースになり、自分のところにも取材陣が詰め掛けたコンビニ強盗の一件。あの事件に現れた「救済の超強龍」の正体を唯一知る彼は、袂を分かった親友を憂い、呟く。
「何度も言ったろ、そういうのは向いてねーんだよオレは」
「……っ!?」
そして、目の前に突如現れた当人の姿に瞠目するのだった。「救済の超強龍」の鎧と双角が部屋の明かりを浴びて、妖しい光沢を放つ。
超人的な膂力を以て、この最上階までよじ登ってきたヒーローの姿を前にして、渉は思わず息を飲む。これが自分の追い求めた、「最強の男が扮する最強のヒーロー」なのか――と。
「しっかし、お前も随分たっかいとこに宿取ったなぁ。上り下りめんどくさくね?」
「……俺も一階の方が楽でいいと言ったんだが、見栄にこだわる周りがどうにもうるさくてな。お前にも経験があるだろう」
「んー……まぁ、な」
「そのスーツを着てきたということは……先日の件でスーツを使ったということは、とうとうお前も決心したようだな。安心しろ、お前がいたあの部署には俺の方から手を回しておく。ダウゥ女王も、ずっとお前に会いたがっていたことだしな。だからお前は、心置きなく――」
「ああ、それなんだけどさ」
力を持つべき男が、持つべきものを手にして帰ってきた。そのことに安堵するように、渉が胸を撫で下ろした――その時。
彼の前に、
「……は」
「やっぱこれ、返すわ。オレの答えは変わらねぇよ」
あっけらかんとした口調で、ヒーローへのカムバックを拒む龍誠。だが、渉にはそれに反論する余裕もなかった。
――なぜ、「救済の超強龍」が
物理的にありえないその状況が、渉の思考を混乱に陥れていた。
当然ながら「救済の超強龍」は、デバイスとなる袈裟ベルトを装着することで着鎧することができる。なら、彼の手に握られているベルトは――否、彼が今着ているスーツは何なのか。
その問いに答えるように――眼前の「救済の超強龍」は、背中に手を回すと。
スーツの上半身が骨を抜かれた皮のように崩れ落ち、中にいる黒髪の青年が顔を見せた。
「よっ」
「は、張りぼて……!? じゃ、じゃあ昨日の『救済の超強龍』は……!?」
「おいおい、張りぼてなんて言ってくれるなよ。百均でいろいろ買い揃えてようやく完成させたオレの力作だぞ。お前ですら見抜けないほど精巧に作り上げた、オレの手先を褒めて差し上げろ」
――龍誠は、着鎧甲冑を着ていなかった。着ていたのは、「救済の超強龍」に似せただけの手作り布スーツ。
つまり先日の事件も、今こうしてここまで登ってきたのも……スーツではなく、全て
そう。彼は「着鎧甲冑を使うレスキューヒーロー」という在り方に拘る渉を否定するために、わざわざ生身で戦っていたのである。
スーツを使っていると錯覚させるほどの身体能力を持ちながら、スーツの力を否定する。そんな龍誠の行為に、渉は理解が追いつかず頭を抱える。
「……どうして、そんなにも着鎧甲冑を否定する。そうまでして、俺に当てつけがしたかったのか!?」
「やだな、別に否定も当てつけもしてねぇよ。ただちょっと、お前の名声を利用させてもらっただけさ」
「利用……?」
「……着鎧甲冑の総生産台数は、二万。たったの二万だ。日本だけでも、全国に配備するには少な過ぎる数値だよな」
「……それでも、父上が現役だった黎明期に比べればかなりの数だぞ」
「あぁ、かもな。でも現実は、着鎧甲冑を持てない部署が狙われやすくなってる。なまじ力を振りまいたから、矛先がどんどん弱いものに向かっていく……」
そんな彼の様子を一瞥し、龍誠はバルコニーの縁に腰掛ける。どこか意味深なその口ぶりに、渉はハッとして顔を上げた。
「俺の名声を利用って、まさかお前……」
「人の生死を左右するのは力じゃない、情報だ。情報一つで戦争は始まりもするし、終わりもする。オレ達がいた戦地が、そうだったようにな」
「俺が……『救済の超強龍』が、着鎧甲冑が配備されていない地域に突然現れた。そんなモデルケースが一つでもあれば、悪党も『神出鬼没のヒーロー』を警戒して、容易くは動けなくなる。だから俺が来日してきたこのタイミングで、『救済の超強龍』に成りすました……そういうことなんだな」
「さぁ、どうだろうな? オレが未練タラタラだったから、コスプレに興じてただけかもよ?」
「……未練のある奴は、そんな晴れ晴れと笑ったりしない」
東京の夜景を見つめながら、龍誠は含みのある笑いを浮かべる。そんな彼の背を、渉は神妙に見つめていた。
着鎧甲冑は確かに、世界各地の治安を改善する上では有効な抑止力として機能している。だがそれは、配備されていない地域が犯罪等の「穴場」となり、より狙われやすくなることも意味していた。
しかし、実際に配備できる着鎧甲冑にも限りがある。全世界に隈なくスーツを揃えるなど、夢物語だ。
だからこそ、情報を利用する。悪党が恐れる、ヒーローの名声を使う。「救済の超強龍」の雷名を振り撒けば、着鎧甲冑そのものがなくとも抑止に繋がる。
スーツの力だけが、全てではない。その証明こそが、龍誠の目的だったのだ。
――龍誠は、ヒーローという「役職」は捨てたけど。ヒーローとしての「矜持」までは、捨ててはいなかった。彼は彼なりに今も、人々のために戦っていたんだ。
そう思い至った渉は、深くため息をつく。そして諦めるようにベルトを肩に掛けると、踵を返して部屋に入っていった。
「……分かったよ。今回の表彰式は一人で行く。このベルトも……一旦、俺が預かる」
「おう、持ってけ持ってけ。お前の方がよっぽどお似合いだぜ」
「だがな、俺は諦めないぞ。お前なら、もっと大きな働きが出来ると俺は信じてる。その時まで……『救済の超強龍』の伝説は、俺が守ってやるからな」
「あっそ。……ま、お前も好きにしたらいいさ。オレも、好きにするからよ」
そんな旧友に、捨て台詞を残して。龍誠も壁に張り付き、蜘蛛のように下へ這い降りていく。
「……あぁ。そうさせてもらう」
そして渉は――彼が座っていたバルコニーの縁を一瞥すると。静かに、そう呟くのだった。
◇
――二◯五七年八月。
コンビニ強盗の一件から一ヶ月が過ぎ、この下町もすっかり穏やかな日々を取り戻していた。
今日も龍誠はアイスが詰まったコンビニ袋と持ち帰りの冷麺を手に、自転車を漕ぎパトロールを終える。だが……帰ってきた先には、仁王立ちの巨乳婦警が待ち構えていた。
「一煉寺! また無関係のコンビニで油売ってたわね!」
「げっ、沙原!? ちょ、ちょっといつもより帰って来るの早くない!?」
「私がいないうちに仕事中におやつ。そんな真似、いつまでも私が許すと思うの!? 今日という今日はとことん説教よ、ちょっと来なさい!」
「あだだだだだ! ちょ、待って待ってアイスが溶けちゃう! 部長ヘルプ! ヘルプミーッ!」
あすかに耳を引っ張られ、奥の部屋へと連行されていく龍誠。その救難信号をガン無視――しつつ、すれ違い様にコンビニ袋からチョコアイスバーを引き抜き、部長は新聞を開いた。
「……ほぉ、こりゃまた便利な世の中になりそうだわい」
あすかの胸を触ろうとして、張り飛ばされた痕跡を頬に残している彼は――チョコアイスバーを咥えつつ、新聞のとある記事に注目する。
そこには――「久水渉主導のもと、着鎧甲冑総配備数の見直しが検討されている」と記されていた。
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