北海道庁旧本庁舎の取引

 北海道庁旧本庁舎。通称赤レンガ庁舎周辺を多くの警察官が張り込んでいる。流石の30分では、封鎖することができず、観光地となったこの場所には、多くの観光客が記念写真を撮影していた。 

取引開始5分前、椎名社長は正面にある花壇の前に立ち、相手を待つ。その近くに海原警部が立っていた。そして、彼の無線に部下からの報告が届いた。

『海原警部。怪しい女が取引現場周辺をうろついています。身長は160cm前後。服装は黒い半袖シャツです。その女性は30分前からうろついています。職務質問をしますか?』

 海原は考え込み、指示を出した。

「その女を尾行しろ」


 犯人との取引まで残り30秒。怪しい女は今もウロウロと赤レンガ庁舎周辺を歩き回っていた。椎名社長に近づこうとしない女は無関係ではないかと刑事が疑った頃、事件が起きる。

 

 突然花壇の中心から白い煙が昇り始めたのだ。

「あつっ」

 直前、現場付近を歩き回る女は、手にしていた音楽プレイヤーのリモコンが熱くなっているのに気が付き、思わずそれを落としてしまった。その瞬間、海原警部の脳裏に嫌な予感が横切る。

「逃げろ」

 そう大声で叫んだ海原は、椎名を花壇から離れさせた。そして、次の瞬間、花壇の地中で爆弾が爆発し、花壇を炎が包み込んだ。

 

 騒然とする観光地。突然の爆破により観光客たちはパニックに陥った。そんな状況で、警察官は消火器の粉を炎に吹きかける。それによって、花壇に燃え広がる炎は消し止められた。

 怪我人がいないことにホッとした海原警部の無線に、怪しい女を尾行していた刑事からの連絡が入る。

『海原警部。怪しい女が爆破直前にリモコンを捨てました。女は現在も尾行中』

「分かった。女を任意同行だ」

 海原警部の部下は、上司の指示に従い、女を呼び止める。

「君。少しいいかな?」

 女は振り向き、首を傾げた。

「何の用ですか?」

「北海道警の者だけど、君の名前は? それと、どうして30分もこの場所を歩き回っていたのかも教えてくれないか?」

 警察と聞き、驚いた顔付きになった女は自分の名前を名乗る。

「宮村善子です。この場所にいた理由は、バイトです。ある高額なバイトを紹介するインターネットサイトに登録したら、特定の時間に赤レンガ周辺を30分散歩するだけで1万円。そのバイトに応募したら、変なカードと一緒に音楽プレイヤーと音量を上げるリモコンが送られてきたんですよ」

 宮村は事情を説明しながら、刑事に1枚のカードを渡した。それは、純白の羽を纏った天使のイラストが印刷された水色のカード。裏面には白色の文字が刻み込まれていた。

『椎名社長。あなたの城は、私が崩壊させる』


 カードを回収した警察官は、再び宮村に尋ねる。

「ところで、なぜリモコンを捨てたのですか?」

「捨てていません。落としたんです。花壇の方から白い煙が上がっているなと思っていたら、突然リモコンが熱くなって、思わず落としてしまいました」


 一通りの事情聴取を終わらせた警察官は、彼女の連絡先と住所を紙に書いてもらい、解放した。その後で警察官は海原警部に報告する。



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