学校での日常

 アイドル活動のない平日は普通に高校に通っている美緒、雛、佳奈の3人。

 今日はその登校している日である。


 そんな学校での出来事だ。

 昼休みになって、美緒はひと目を避けて昼食を取ろうとマイベスト影ポジションである校庭にある一番大きな木――の逆にある中途半端な大きさのもみじの木の影にきていた。


「今月号来る時に買ってきたからな。邪魔されず読むには――」

「ちょうどいいわよね」

「うわっ!? 佳奈!?」

「まあ考えることは同じだったってことみたいね」


 ひとりで一番乗りと思っていたら、木の反対側の見えない位置に前からいたらしい佳奈がでてきて、思わずそんな反応を美緒はしてしまった。


「そんな化物がでたみたいに」

「いや、だって今までずっとここ使われてなかったから……秋の紅葉時期以外は毎月のようにあたしきてたんだけど、見たことなかったし」

「わたしのマイベストポジションがね……どこかのカップルの告白場所に使われてたらしく、パワースポットもどきになっちゃったのよ」

「あぁ……」


 高校でたまにある現象である。

 人気のない場所で告白してそれが成就した時、そのカップルの片方でも人気者だったりするとパワースポットのように告白スポットになってしまったりするのだ。


「それより今月号の『花が似合うおとこのこ』はおすすめよ」

「え、その前に『萌乃の日常』読んじゃダメ?」

「そっちもいつも通りほのぼので良かった」

「だよな。癒やしだよな」


 2人が話しているのは、この日に発売した漫画雑誌『月刊きらパワー』である。


 佳奈のいった『花が似合うおとこのこ』は可愛い系の男子、薫が先輩でコスプレ好きの女子の花子に振り回されるコスプレ系ラブコメだ。

 そして美緒のいう『萌乃の日常』は主人公萌乃とその周りの、一風変わった人物たちが送る日常物語で、これまた人気が高い。


「でも、はなおとを先に読むべきなの! 今月号はかおりとが満載でもう、やばいから!」

「いや、あたしふつうにかおはな好きだしなぁ。かおりとも悪くはないけど、あの作品はやはり純愛なのに百合にみえるかおはながいい!」

「いえ、男同士だけど、初対面が女装だったことで惚れてしまったという禁断の恋愛がいいんじゃない! たしかに作品としてのエンディングはかおはなで終わるべきだと思うけど、かおりともいくところまでいってほしいって考えは間違っていないはず!」

「その考えは否定しない」


 互いに趣味の隠し事が消えてからは、佳奈は美緒にたいしてこの調子である。

 他の人に聞かれたら引かれるか食いつかれるかの会話を、木の影で現役アイドルが繰り広げているこの状況は、かなりレア度は高いだろう。


「またあの2人仲良さそう……楽しそうだし」

 そしてさらに遠くの木陰から、羨ましそうに雛が見ているのだった。

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