@イドル!~サブカル好きのアイドルの日常~

Yuyu*/柚ゆっき

同じ趣味だったの!?

 響き渡る音楽に、地上の星のようになったサイリウムが振られる。

 今日、このアリーナでは現在、業界で5本の指に入る大手プロダクションのアイドル部署のオールスターライブのアンコールが行われていた。

「最後の曲いくよー!」

「燃え尽きる準備はよろしいですか~」

「「「いえー!!」」」

 男も女も関係ない、喜びに満ちた雄叫びがさらに大きくなっていく。

 そして、あっという間に時間は過ぎ去っていった。


 夜になり、ライブも終わりそれぞれの帰り道――現役高校生アイドルの3人が並んで歩いていた。その他にも、ライブにでていたアイドルたちもいる。

「今日のライブ、音程外してたわよね?」

「ぐっ……いや、まあ、たしかにそうだけど……」

「もっとレッスンできる時間あったわよね! 絶対いいものにできたでしょう!」

「申し訳ないとしか言えないけどさぁ……」

「それに歌詞も飛んでたでしょ!」

「まあまあ、佳奈落ち着いて、ね」

「……はぁ、次のライブでこそまともなパフォーマンスできるようにしなさいよね。じゃあ、わたしはここで」

 若干呆れたため息をはきながら、佳奈と呼ばれた少女は夜の住宅街へ消えていった。

「あたりきついなぁ……」

 明るめの茶髪を結っている少しボーイッシュな雰囲気の口調の少女、咲川美緒さきかわみお――ダンスが得意分野の高校3年生である。アイドル歴は今年で3年目に突入した。

「たしかに、今日はいつも以上だったね」

 ストレートの、少し落ち着いてるようで幼女な雰囲気の少女、宮ノ原雛みやのはらひな――ユニットリーダーで最年少の高校1年生だ。アイドル歴は美緒と同じく3年目である。

「申し訳ないとは思うけど、あそこまでいうか! ていうか、ユニットでのライブは初じゃん!」

「開き直るのはどうかと思うけど、たしかにね……佳奈ともう少し仲良くなれればいいのにね」

 先程、この場から去ったあたりのきつめだった色白の少女、原沢佳奈はらさわかな――高校2年生でユニットの中ではモデルなどビジュアル系の仕事が一番多い高校2年生である。アイドル歴は今年で2年目に突入する。

「それに、たしかに下手に聞こえるかもしれないけど美緒の声は味がある特徴的な声って評価されてるからね……まあ、根っこが下手だけど!」

「今の発言が一番ダメージきたよ……それに、佳奈だって、ダンスは微妙な部分あったじゃん」

「まあ、中学まで入退院繰り返してたみたいだし、コミュニケーションとか体動かすのはまだ苦手なのかもね」

「はぁ……ライブ自体は楽しかったんだけどな」

「まあ、大きいライブが終わったから明日明後日とオフだし、リフレッシュしてきたら? 自主レッスンも少しはしてくれるとリーダーとしては嬉しいけど」

「わかってるよ……そうだな。いきたかったイベントもあるし、リフレッシュしてまた頑張るかー」

「そうそう……イベントって例のコミマとかいうでっかいの?」

「違う違う。あそこまでは大きくないやつだよ。ただ、ファンのサークル……まあ、好きな作家さんが本出すっていってたから行きたくて」

「そうなんだ。まあ、楽しんできてね。私はゆっくり休むのと、先週課題すごい出されて」

「あぁ……ごしゅうしょうさまだな」

「うん。無理なくやるために家でゆっくりする」

 歩いて行くうちに、駅に到着して他の人たちと別れる。

 帰宅ラッシュからずれこんだ人の少ない電車に2人は乗った。

「どうにか佳奈と仲良くなれないかな」

「無理しても意味ないだろ」

「それでもせっかくユニット組んでライブにでるまでになったんだしさ。リーダーとしては頑張りたい」

「そういえばあたしもだけど雛も初ユニットだからか……佳奈も同人とはいわないけど、アニメとかラノベ好きならなー」

「知ってはいるレベルがいいところじゃない? どっちかというと、ファッション雑誌とか読んでるタイプだから、真逆とも言える気がするし」

「だよなー」

「ていうか、またそれグッズかったでしょ?」

「あ、バレた?」

「鞄につけてたら、すぐにわかるよ」

「今期のオススメなんだけど、原作の連載始まったときからずっと読んでるからさ――」

 電車に乗ってからは数駅で最寄り駅だった。

 2人は改札を出てから別れてそれぞれ家路につくのである。

 ひとり道を歩きながら美緒は少し考えた。

(駄目もとでも誘ってみるとかありかな……やめとくか。どっちにしても、雛以上に佳奈のが疲れてそうだし)

 何かを言われてもやはり人のことをちゃんと見てる美緒だった。


 ***


 翌日朝――咲川家の2階の部屋で目覚ましがなりだした。

 部屋の主である美緒の手がその目覚ましを、少し乱雑ながらに止め、のそりとベッドの上で起きあがる。

 美緒は体を伸ばしてから、用意しておいた服に着替えて、カレンダーを見る。

 そこには赤ペンで二重丸が書かれていた。

「よっし……」

 今日は祝日で、朝早いため朝食はかんたんに自分自身で済ませる。

 そして、荷物を持って家を出るのだ――これが美緒のイベントのよくある一幕だ。


 電車を乗りついでたどり着いたイベント会場にはすでにそこそこの人が入っていた。

「相変わらず大盛況だなぁ……あ、カタログください」

「500円で」

 慣れたようにワンコインを払ってカタログを手に入れて入場口で荷物チェックを受けて会場に入った。

 そして入り口横の少し開けた休憩所にもなっている場所でカタログを見る。

「そういえば、参加するとだけ聞いて、どこにいるのか聞いてなかった」

 美緒は確認をおえるとまずは一直線にそこへと向かった。

 そこには美緒の創作仲間のミルキスという名前で活動している同年代女子がいた。

「ミルキスさん、こんにちは」

「あ、こんにちは。Karinかりんさん」

 ちなみにKarinが美緒の名前である。本人も創作活動をしているが、アイドル活動が忙しくなってからは、参加する側としてくることが多くなっているようだ。

「調子どう?」

「まあぼちぼちかな。入場と同時に来た人たちがはけたあとはゆったりまったりって感じ」

「昔ははけた数部が全部身内かあいさつ回りだったときもあるし、いいじゃん参加費とかの採算は取れるようになったんだから」

「まあね~」

「まあ、ひとまず一部ください」

「値段はいつもどおりです~」

 そのように、2人で話ていると、隣のサークルの机が売り子の交代かひとりが戻ってきて、先程まで座っていた人が会場の中へと移動していく。

 そして、椅子に座って横にいた美緒を見た瞬間に、

「えっ!?」

 思わずといった感じで声を上げてた。

「んっ?」

 突然、自分を見て声を出された美緒も驚きつつそっちを見てしまう。

 そこには、普段と印象は違うファッションだが、美緒から見ればすぐにわかる人物がいた。

「ああぁぁぁあ!!」

「えぇぇぇぇえ!?」

 この場には縁がないとしか思っていなかった佳奈がいたのだ。

 思わず互いに大きすぎはしないが、目立ってはしまいそうな叫び声を上げてしまった。

「な、なんで、あんたがここにいるのよ!?」

「なんでって、あたしいつもきてるし」

「そうだね~。Karinさんもう8回はこえてるよね。サークル参加も何回もしてるし」

「そうそう」

「ていうか知り合いだったの?」

 ミルキスの不意な質問にたいして、佳奈はどう答えていいものか考えて無言になってしまう。

(アイドルの知り合いとかいうのもだめよね。ていうか、まず美緒にバレた……いえ、まだ売り子だってごまかせるかもしれない――)

「みかなさんとは私も初対面だったんだけどね。いい絵、描くひとだよ」

「へぇ~……」

 なんとなしに美緒は表紙を除きに佳奈側の机のほうへと移動すると、佳奈がずいっとでてきて美緒にしか聞こえないような小声で話だす。

「あ、あの、あの、このことプロダクションの人とかには秘密にして、わたしも言わないから」

「うん? 別にそれはいいけど……しっかし、まさかこういうイベント参加するなんてな。しかも描いてる側だろ?」

「うぅ……そ、そうよ。なにか悪い!?」

「悪くないけど、思っても見なかったなってだけ」

 そんな2人を見ていて、

「仲いいね~」

 と思わずミルキスも言ってしまう。

「へへへ、いや実はリアルフレンドでさ」

「ほほう、いいねぇ。でも、不意な遭遇だったみたいな感じ?」

「そうそう。あたしもイベントいつでるか聞くほどの中ではなかったというか、学校だとグループ違うから」

「あぁ、よくあるよくある。趣味をおおっぴらにできる人こそ、学校では一緒に行動しないとかあるよね。私もそういう親友何人かいるわ~」

 ミルキスと美緒の話をよそに、なんとなくそわそわしてる佳奈がいる。

「でも、表に出てくるタイプじゃないと思ってた。あ、見ていい?」

「いいわよ……いつも頼んでる売り子の人が、今回は来れなかったのよ。それで今回は新作はださないで、ネットで公開してたマンガの総集編に描き下ろし数ページたしたくらいで体力的にも余裕があったから」

 ここまでいったところで佳奈は思った。

(なんで、わたし美緒に言い訳してるんだろう)

「たしかに絵、綺麗というか丁寧でいいな。一部ください」

「……はい」

「あ、あと、あたしのことは別に隠さないでもいいぞ。もともとおおっぴらにしてるし」

「え!?」

「隠して息苦しくなるよりいいと思うからな~」

「なによ、それ……わたしだけ頼んで見るみたいになっちゃってるじゃない」

「そうだな~、少し不公平だよなー」

「な、なによその企み顔」

 そう言われると、美緒は鞄からスケッチブックをだした。

「スケブお願いします」

「…………はい」

 自分の知り合いか、はたまたアイドル仲間にバレたことなのか、その人相手にスケブを描くことに対しての恥ずかしさか、顔を赤くしながら小さな声でそう返事した佳奈だった。


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