第5話 ダイエット

 朝起きて食事をして、庭に出ると、すでにハルが待っていました。

 「食事の量はどうする?」といきなり聞かれました。

 「当然減らすけど、ダイエットをすることは、恥ずかしいから家族には内緒にしたい。」と言ってみました。


 「それで痩せれるかい。目の前に今までと同じ量の食事があって、それを食べないなんてことができるかい?」

 「それに残せたとしても、それはそれで、食事を作ってくれた人に対して失礼なのではないかい?」


 ハルの言うことは、まったく考えたこともありませんでした。

 私はしてみれば、食事は用意されているのが当たり前で、それを作る人がいるということにすら今一頭が追い付いておりませんでした。


 そんな私を見てハルが「だったら、君が花輪を作ったとしよう。苦労して作った花輪を受け取った人がいきなり捨てたりしたらどう思う?」と聞いてきました。


 そこでやっと私はハルが言いたいことが理解できました。

 そして、私はどんなにひどいことを言ってしまったということも。


 そんな私を見ながら、追い打ちをかけるように、「それに本気で痩せるつもりなら、皆にも協力してもらわなくてはならないから、何にしても家族には話さないといけないよ。」と言ってきます。


 「君はまだ小さいからわからないかもしれないが、食事の量だけでなく、痩せるためには食事の質も大事なんだ。だからきちんと伝えないとダメなんだよ。」


 それを聞いて私ははっきり「わかりました。」と頷き、給仕室に向かって歩きだしました。

 やはり、あの未来視の影響は強烈でした。

 「何としてもあんな未来だけは回避する。」との思いが、私に力強い返事をさせてくれました。


 コック長は私を見ると、「また何かねだりに来たのか。」という顔をしております。

 心外です。

 確かに、今まで私が給仕室に来るといえば、食べ物をねだりに来ることしかりありませんでしたが、さすがに、今は朝食を食べたばかりです。


 「いくら何でも。」と思ったものの、そういえば、2,3回朝食後に食べ物をもらいに来たことがあったことを急に思いだし、顔が赤くなってしまいました。


 おかけで、うまく言葉を発することで出来ないでいると、コック長は「これですか?」とばかりに朝食の残りのパンを出してきました。


 ただでさえ、恥ずかしいのに、ますます恥ずかしくなってしまいました。

 しかし、ここで言えなくては、ハルに見限られかねません。

 私は半分どうとでもなれと思いながら、首を横に振って、「そうじゃないの。今度ダイエットすることにしたから、昼からはそのつもりで私の食事を作ってほしいの。」と大きな声で半分怒鳴っておりました。


 貴族にあるまじき態度です。

 こんな態度が、メイド長に知られたら、何を言われるかわかりません。

 しかし、コック長は私の態度より、私の話した内容が信じられないという感じで、心底びっくりしているようです。


 「お嬢様本当ですか!」と聞いてきます。

 「本当に、本当に、本当です。」と何度も言ってやっと納得してもらいました。


 午前中はいまだに体のあちこちが痛かったのですが、そんなことはいっておれません。足に風の魔法をかけてもらってひたすら花壇のまわりを歩きまわっておりました。


 昼食の時に、私の前に配膳された料理を見て、お母様が「いつもより少ないようだけど?」とつぶやかれます。


 給仕たちは答えにくそうにしているので、私が「今日からダイエットを始めることにしたのです。それでコック長に減らして下さるようお願いしたのです。」と答えました。


 「育ちざかりだから、気にすることはないのよ。実際食べている量もレオやクラウドとそんなに変わらないじゃない。」


 お母様のこの科白を聞いて、ハルが言ったことが頭をよぎります。

 レオは長兄、クラウドは次兄にあたりますが、確かに彼らは私と同じく位食べてもほとんど太っておりません。


 しかし、それは彼らがそれだけ訓練(運動)していたからなのです。

 その点私は、運動どころか、ロクに歩くことさえできない状態です。

 これで同じ量を食べていれば、太るのは当然です。


 確かにお母様は悪気はないのでしょう。

 だからこそ、私はずっと、この言葉を聞いて、食べ続けてきたような気がします。


 「変わらなくてはならない。」私は心の中で強く思いながら、ダイエットをするということを、家族の前で宣言したのです。


 すると、お母様も特にそれに反対することはなく、「確かに少しぽっちゃりしすぎているかもしれないわね。」とまで言ってきました。


 私の顔色が変わったのを見て、お母様は「しまった!」という顔をしながら、急に給仕に今日の料理のことについて質問をはじめました。

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