第6話ナセルベックハム2

「なるほど分かりました。私についてきてください、ここは危険です」

ナセルは仙人に目で挨拶して狭い路地を大通りへと抜けた。


道路ひとつ隔ててスラム街である。3人の東洋人に、

「チーノ、チーノ」と子供たちがたかってきて、

その数がどんどん増えてきた。


「危険だ、走らずにゆっくりとあそこの車まで。

着いたら大急ぎで飛び乗ってください」


「チーノ、チーノ」は大合唱になりトマトが投げつけられた。

もう少しだ。それっと車に飛び乗る。トマトが窓に当たる。


ぶーぶーと大きくふかして急発進。みんなを振り切った。

かなり大人も混じっていたようだ。


ナセルは彼らを友人のいる小学校に案内してその帰りである。絨毯を別の

店に届けて橋を渡り、ふと右のポケットに手を入れると石が入っている。


いつのまに?車の窓を開けて道路わきにぽいと投げ捨てた。ちらと目をやる。

とてもきれいなピンク色の石が輝きながら砂埃の中に消えた。


急ブレーキ、幸い後ろには車がいない。ナイルの橋を渡れば車の数はぐんと

減るのだ。ナセルはバックしながら車を道路わきへ寄せた。手探りで探す。


太陽がぎらぎらと照りつける。口の中が砂でじゃりじゃりとしてきた。

「あった!」

半透明の白っぽい石だ。とても美しく形も面白い。まるっこいピラミッドの

ようでもあり神聖な感じだ。シルクのハンカチに丁寧に包んで持ち帰った。


ナセルは大学で天文学を専攻している。

まだ学び始めたばかりだが、宇宙の法則が

自分の体内にも流れていると直感している。


そうしたある日、東洋日本のフェイスブックに

「アンビリーバブルストーン!ドンチュウウノウ?」

と出ていた。画像はあの石とそっくりだ。


石が人の心に感応すると書いてある。ほんとかな?

何日か前に拾いなおしたあの石をそっと机の上に出してみた。


シルクのハンカチをあける。うん、同じ形だ。薄い黄緑色。

「拾ったときはピンクだったなたしか?これは難しいぞ」


その時階下から母の叫び声が聞こえた。

「ナセル早く来て大変!」


絨毯の山が崩れて子供が下敷きになっている。

幸いなことに子供はわずかの隙間で大丈夫なのだが、

絨毯の山がまだ崩れそうだ。


昼休みで男ではいない。女が数人母親らしき人が泣き叫んでいる。

ナセルは上の絨毯を抱えてみたがびくともしない。


近くにあった天秤棒をかまして子供は無事助け出された。

『よかった!』母親たちが拍手を送る。

子供の親は泣きながらお礼を言った。


よかった、いいことをした。すぐさま上に駆け上がって石を見た。

ピンク色に輝いている。間違いないナムストーンだ。

ナセルはオサムオサナイにメールを送った。


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