第176話 不測

機械室



散歩する5~6体の感染者、ゾンビがノソノソと下を通過、右折するや堅管から飛び降り、ハサウェイが着地した。



ぐっ…



その直後 顔をしかめるハサウェイ。



着地の衝撃で、身体中に痛みが走った。



全身打撲によるアザや刺傷痕、至る箇所の骨にはヒビ、骨折さえもしている状態。



本来動く事など許されぬ、絶対安静な状態なのだ



傷口に触れ、痛みで身体がよろけたハサウェイは思わず壁に手を付けた。



クソ… 結構キツいな…



歪んだハサウェイの表情



痺れる程の激痛が全身を駆け巡り、一瞬目が眩んだのだが…



怪我人だろうと、病人だろうと



見つかれば奴等は区別など無く襲いかかって来る



こんな痛みくらい… 今は弱音を吐いてる場合じゃない…



ハサウェイは痛みを振り払うよう首を振るった。



すぐに意識を周囲へ傾け、動くや



ハッとしたハサウェイは機器と機器の間に隠した。



前方の通路を横切って行く奴等の姿



物陰から奴等の通過をやり過ごし

、移動



相変わらず聴覚を阻害するファンや機器から発せられるデシベル



その音が地下で反響し奴等の声を減音している。



そんな足音さえも全く聞き取れない中



ハサウェイは視覚を頼りに、奴等を回避しながら移動



ナイフを取り出し装置や機器に囲まれた通路を警戒に警戒を重ねながら用心深く、潜入さながら注意深いその足運びで通路を前進して行った。



何度も物陰へ身を隠し、奴等の通過を幾度もやり過ごし、十字に差しかかるや壁に背を付け、曲角から顔を覗かせた。



そして確認後そのまま前進、そこら中徘徊する奴等の隙を迅速に左折、絶妙なタイミングで右折した。



糸を縫う様に奴等の隙を縫って目的地を目指して行く



移動する度、何処からか熱風が吹き付けハサウェイの髪を揺らした。



頬を伝い、顎から汗が垂れ落ちた時



ある機器の前を通りかかったハサウェイが ふと デジタル室温計に目を留めた。



室温計の数字は46を表示している。



46度か…暑い訳だ…



プシュー



何やらパイプから排出された蒸気を目に、ハサウェイは額や首筋から溢れ出る汗を拭う事無く、忍者の様な足取りで熱源設備区を目指した。



阿呆面でボォーと立ち尽くす7~8体の群れの背後を静かに横切るハサウェイ



そして何とか無事にボイラー前へと辿り着いた。



ゴォォォ



ボイラー機器内部のバーナーが燃焼音を鳴り響かせ、煙管から蒸気が排出されている。



その隣接された巨大な給水タンク前に足を止めたハサウェイがタンクを見上げた。



様々なポンプや管が密集している。



勿論構造など知る由も無いハサウェイは辺りに警戒しつつまずはボイラー機器の制御盤を調べ始めた。



タッチパネル式の制御盤



バーナーコントロール、インターロック、安全遮断弁、イグニッショントライアル、火炎検知、点火トランス…などなど素人には分からない専門用語がズラリと並び何をどう操作すればよいやら…



ハサウェイは周囲を警戒しつつ、給水タンク本体を調べた。



タンクの真上から太い管が伸び天井を突き抜けている



恐らくメインの貯水タンクからこれを通して送られているのだろう…



複数のバルブや管が点在し、ハサウェイは給水タンク本体のサイドから伸びた1つの太い管を目で追った。



そのクランクした管がボイラー機に直結されている。



これだ



ハサウェイはナイフを口に咥え、管を足場によじ登ると、すぐさまこの管に取り付けられたバルブに手を伸ばし、反時計へと回しはじめた。



ガチガチに固まったバルブ



ハサウェイは渾身の力で回すのだが



1ミリたりとも動じない固まったバルブ



まるでビクともしなかった。



固いな…



固過ぎてこれじゃあ人力では難しい… 何か道具が必要だ…



口に咥えたアンカライトナイフ…



いや… これじゃあ駄目だ… 長細い頑丈そうな鉄の棒でもあれば…



辺りを見渡し、見下ろした時 突如血の付着した白い靴がハサウェイの目に飛び込んで来た。



マズい…奴等だ…



作業に没頭し、接近に気付かなかったハサウェイは咄嗟に息を潜め素早く身を隠した。



片足を引きずり、ノッソノッソと歩行する清掃のおばさんゾンビ



薄青い三角巾やユニフォームには血が染み込み、自分専用の愛着でもある仕事道具なのだろうか?大事そうに両手で掴みながらモップを引きずらせていた。



数は1体…



バレてない…



通り過ぎて行くおばさんゾンビをジッと見下ろすハサウェイ



背を向け離れて行くおばはんゾンビ。



それからおばちゃんゾンビがそのまま角を曲がり姿を消した。



口にくわえたアンカライトナイフを胸ポケへ仕舞い込み



ハサウェイはいつもの様に奴等を隠密に見送った後、作業を再開、再度人力で試みた。



フルパワーでバルブを回すのだが…



だが…やはり徒労に終わった



駄目だ…マックスに開へと回されたバルブ、その後バルブをいじった形跡も無く…長い年月を経て完璧に固まっている。



やはり道具を使用しないと…



鉄の棒を使ってテコの原理でやらないと開閉は無理だ…



鉄の棒……鉄の棒…



多少長くて頑丈なやつなら何でもいい…



どっかに落ちてないか…?



ボイラーや給水タンクの周辺を見渡し、視線を移そうとした



その瞬間



ハサウェイは一瞬身を固めた



感じる…



ハサウェイの目つきが鋭くなった。



視線を…



しかも…



一体じゃない…



背に感じる複数の気配…



ハサウェイは急激に振り返り、見下ろした。



その視線の先には…



通り過ぎた筈の清掃おばちゃんゾンビをはじめ、7~8体のゾンビや感染者達が黙ってこちらを見上げていた。



ジィーと見詰める奴等と視線を合わせたハサウェイ…



チィ…



ハサウェイが舌打ちする



このクソ忙しい時に…



1体ならまだしも…



流石にこの数に見つかった以上



もう…回避は免れない…



隠密行動も不可能…



不測の事態



予期せぬ激突必至な緊急事態が突如訪れた。

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