第108話 地雷

央自動車道



相模湖パーキングエリアから乗用車を追っかけ現れた200体もの枯骨な集まり勢



先遣とも言える形骸なる者達の侵攻の第一波が防衛線へと接近して来た。



「撃ち方ぁぁ用意ぃぃ~~」



鉄鋼で構築された高さ5メートルにもなる防壁の上には定間隔に10台もの固定台が組まれ、そこに後方支援火器MINIMIが設置されている。



そのミニミで狙いを定めると共に、30挺もの照準器付き89式小銃の銃口がゾンビ等に向けられた。



照準器を覗き、各自、死者共の頭部や額に狙いを定めるザクトの隊員達。



そして…



「撃てぇぇぇ~」



この場を指揮する隊長の発砲合図で一斉にトリガーが引かれた。



タタタタタタ タタタタタタ



タン タン タンタン  タタタタタタタ



タタン タタタタ タタタ タン



タタタタ タタタ タン タンタン



同時に発砲され、囂(かしがま)しい発砲音と銃弾の集中豪雨がゾンビ共に浴びせられる。



タタタタタタタタタタタタタタタタ



先頭を歩むアンデッドの頭部へ弾が着弾するや脳みそが散渙して地へ伏せ天上した。



タタタタン タンタタタ タン タン



次々に死人等の額や頭部へ弾が命中されていくと、昇天した亡骸が続々と崩れて横たわっていく。



タタタタ タタタタタタタ タン



まるで射撃場の様な5.56mm弾の集中砲火で



貫通された銃弾で、あっという間に他界してただの動かぬ肉塊と化していくゾンビ達



「よし 軽火器!一旦撃ち方止めぇぇぇ~ 次各自迅速に06式小銃擲弾用意 装填しろ」



隊長の掛け声で89式小銃の発砲が一斉に鳴り止んだ



そして継続で発砲される軽機関銃の銃声のみが響き渡り、それによって次々とゾンビは撲滅され、永遠に目覚めぬ眠りへとついていく。



残り70…50と立ち所に始末されていく最中(さなか)



隊員等は、各自で89式小銃の先端に何やら取り付け始めた。



隊員等が取り付けているのは、銃口に装着され引き金を引けばロケット砲の様に発射される、APAV40 HEAT弾 22mmのライフルグレネード弾だ



「軽機関銃撃ち方止めぇぇー 次 06構え用意ー」



今度はMINIMIの銃撃が一斉に止まり、再挙89式小銃が一斉に構えられた。



隊員等が慎重に目標へ狙いを定める



「よ~い 発射」



そして、引き金が引かれると、これまた一斉発射で擲弾が放出された。



バシュュュ  バシュュュュ  バシュュュュ



ゾンビの群れに擲弾が放たれ、腹部や胸部へ着弾、貫通する事無く体内へ食い込み、留まると



その10秒後に…



体内で爆発が起こり、ゾンビの上体が木っ端みじんに消し飛ぶと共に周囲もその爆発で巻き込んだ。



ボォン ボォォ ボン ボオォン



連発する爆発で一気に散亡したゾンビの肉片



バリケードへ寄せ付ける事無く、200体のゾンビ勢は一挙に摧滅され、一気に雲霞と化した。



バリケードへ近づくアンデッド等を一匹残らず撃退に成功したのだが…



だが…



この程度の数を葬った所で…



これはほんの些細な寡頭に過ぎない…



いわば序の口…



小手調べの斥候の様なものだ……



これしき…前座にもならない、単なる極少で微弱な先見に過ぎない…



同刻 関越自動車道



道路に1体の汚れた人形が落ちている。



「あぁぁぁぁああぁ」 「うーーーうぅ」



すると…たちまち無数の人影に人形は覆われ、人形は踏み潰された。



「うぅぅぅぅ」 「ぐうぅううううう」



アスファルトに隙間の無い間隔で歩行するゾンビ、感染者の物凄い数に踏みつぶされる人形



いくつもの足跡が付けられ、人形はそのままその渦に呑まれて消えた。



終末の暗示…



死の行進曲が流れ始めた…



見た者全てが震えあがる程の大群…



数は…約40万体…



凡百な死の百花、老若男女問わない死に顔の亡者達が堂々と高速道を闊歩している



人を喰らう恐怖の化身達の盛大なパレード



その百鬼夜行の様な醜い軍団の行軍が数キロに渡って連なっている。



数ヶ月前まで普通の人間として生活してた者達が今では血肉に飢えた殺人鬼となって鬼哭啾々な大侵攻をしているのだ。



人の形をした化け物達が大挙して押し寄せ、東京へと迫る中、迎え撃つは第1防衛線



「FH70(サンダーストーム)の榴弾装填完了」



「こちらも榴弾装填完了 これで全て装填完了しました」



「いいかぁー お前らー 焦らずにしっかりと頭を撃ち抜けよぉ それと弾切れを起こしたら補給員にちゃんと分かる様に右手を挙げろ 恐らくこれから現場はかなり混乱するだろう 各自で一体一体しっかりと仕留めるんだ」



「第3小隊 四木元班 おまえらはこの位置に配置しろ」



「いいかぁ ウォーカーよりまずはランナーの射殺を第1優先とする あ 特異感染者を発見したら、それが第1優先だぁ 迷わずきっちり仕留めろ それと…警察の制服を着た奴 または自衛官らしき感染者は拳銃で発砲してくる恐れがある…これらも見つけ次第迅速に対処しろ おまえら分かったな?」



1000名のザクト隊員が隊列を組み、既に配置されている。



防衛線の先頭には4輌の戦車が並んでいる。



そのすぐ後続に3輌そして4輌と…434342の配列で計20輌の最新鋭戦車、通称ヒトマルシキ(10式)が配置されていた。



各10式戦車にはリングターレットハッチから上体を出し、指揮するコマンダーと戦車に取り付けられたM2重機関銃の機銃を扱うガンナーの2名が配置されている。



「後続の各ヒトマル 砲塔を30度上げろ」



すると一斉に後続戦車の砲身角度がやや上へと上げられた。



同刻 東名自動車道 御殿場



慌ただしい雰囲気の中、関越同様にこちらも戦闘態勢に入った。



配置された歩兵隊の中に、あの堀口班の姿があった。



安藤「実弾も射撃も初めてなんで…なんか緊張してきました…トイレに行きたい」



中川2士「おい こんな所で漏らすなよ…化け物がこれから40万もやってくんだからな」



安藤「でも…40万とか言われても実際ピンと来ないっすよね?」



中川「あ…あぁーまあ…まあな…とりあえずとんでも無い数なんだよ いいから早く立っションしてこいよ」



安藤「あ…はい」



新庄「あの高層ビルの3人は大丈夫かね?」



堀口陸士長は双眼鏡を覗きながら「金子巡査がついてるんです 彼等なら大丈夫でしょう…」



新庄「えぇ…無事だといいんですけど…」



双眼鏡を覗く堀口の目が突然変わった。



堀口「そんな心配してる場合じゃないですよ…来ました…奴等です…しかし…なんて数なんだ…」



そしてその瞬間…



どこからか拡声器により大声量な掛け声が発せられた。



「奴等が現れた 総員戦闘用意 奴等はおよそ40万体いる…これから激戦になる事必至だ 突破させるな 死ぬな 諸君!幸運を祈る」



安藤が慌てて戻ってくるや89式小銃を手に取った時だ



ゾンビの軍勢がクレイモア地雷原へと足を踏み入れた。



東名自動車道



地上10メートル上空でホバリングする一機の哨戒ヘリコプター シーホーク



そのシーホークのスライド式のドアが全開に開かれ機内から1人の隊員がトランシーバー片手に高速道路を見下ろしている。



道路を埋め尽くすゾンビ軍がクレイモア地雷原へ進入するのを確認する隊員



すると 無線が入ってきた。



「ジィィ こちら高機(HMV高機動車)01 地上よりFFVO13地雷原への進入を確認した。 ジィィジィ」



「こちら上空でも奴等の進入を確認した。 これよりリモートコントロールによる全地雷の起爆へ入る」



「ジィィ 了解 頼むぞ…じゃあ俺等はこの場を退散する ジジ」



「了解」



すると地雷原の後方で待機する機動車がUターンしてその場を離れた。



道路一面には、三脚に支えられた箱らしき物が多数置かれている。



数は500個



1列に50個の10列…



その箱型が定間隔にきちんと敷設されていた。



その箱型は陸自が所有するスウェーデン製の指向性散弾Fordonsmnina13(地雷禁止条約上名を変えたほぼクレイモア地雷)



遠隔操作式の対人指向性破砕地雷だ



シーホーク機内のド真ん中には、大きな起爆装置が置かれ、その前にもう1人の隊員が待機している。



「起爆まだか?」



「待て 待て まだだ…」



隊員は下界を見下ろし、タイミングと距離を見計らう



「もうちょい待て」



ゾンビ軍の先頭とクレイモアの距離は約20メートル



先頭を歩む一体の感染者が走り去る機動車を目にするや、血を嗅いだサメの様に突如狂い出し、ダッシュした。 その瞬間



「よし!今だ! 一列起爆しろ」



その合図と共に起爆スイッチが押された。



すると…一列に並んだ50個もの箱が左から順々に爆発を起こし、一個のクレイモアから700個の小型鉄球が扇状に散布、爆風と一緒に計3万5000個もの鉄球が軍勢へと降り注いだ。



50メートル個中に位置するゾンビ、感染者の顔面、頭部に此の上無い鉄球の雨が降り、無数の穴が開けられる。



バタバタと散華するゾンビ軍の兵隊達



「次 2列目 やれ!」



その掛け声と共に今度は2列目のクレイモアも左から順々に鉄球を吐き出した。


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