第47話 途轍

12時30分



ハサウェイ、エレナ、葛藤、江藤、まるこめvs理沙



掲げられた脳みそは握り潰され手放すと血塗られた腕が引き抜かれ、感染者本体と潰れた脳みそ、それに繋がる目玉が床に落ちた。



理沙は血で染まる腕を舌でペロペロ舐め、他の感染者達に視線を向けた



理沙「他に言うことが聞けない子は…いるのかな?」



感染者達は無反応だが明らかに興奮がおさまり…ざわめきがピタリと止む



そして、理沙は再びエレナに振り向き近寄って行く



葛藤は顔は引きつらせながら



葛藤「なんなんだよこいつは…」



江藤の顔も強張り、ハサウェイも理沙に弓を向けながら険しい表情を浮かべる。



ハサウェイの脳裏に…



俺等は今まで数え切れない程のゾンビや感染者を狩ってきた…



自称とは言えゾンビハンターっと言っても過言で無いくらい数々の実戦を積み、経験を重ねながら俺達は絶望に満ちたこの世界を生き抜いてきた。



だが… この目の前にいるこいつはまるで異なる感染者…



特異中の特異…



こんな奴今まで見た事が無い…



言葉を話し、言葉を理解し、完璧な知性を持っている



また感染者に命令し、統制を図れる感染者…



見たところ… 今はまだ…統率力も不安定で不完全なようだが…



奴等を動かそうとしている…



これからこいつは意のままに完全なる統率を図ろうとしている…



マズいぞ…こいつは…



直感的にそう感じ取ったハサウェイ



理沙の命令を守り、中に入って来ようとしない感染者達にハサウェイは視線を向けた。



もし… 意のままに動かすようになれば…



目の前のこいつに…組織的な連携を取られたら…



俺等に勝機はあるのか…?



この血肉に飢えた死者共を兵隊の様にコントロールされたら…



今…俺達にはザクトと言う希望が現れたばかり…



果たして勝機はあるのか…?



恐らく無くなる…



こんな奴を外に解き放てば…



人類は終わる…



出させない…



絶対にこのビルから一歩も外へ出す訳にはいかない…



こいつをここで仕留めなければ…



ハサウェイの眼光が鋭さを増したと共に



ハサウェイの使用するアーチェリーコンパウンドボウのスタビライザー(安定装置)が伸ばされ、ノッキングポイントへ指を引っ掛け矢が引かれるとアーチェリー弓の弦が張り、本体がしなった。



不完全な内にこいつを阻止する…



ハサウェイは照準器で目標を定めた。



こいつで今すぐ射抜く…



ハサウェイが矢を放つ寸前に



理沙が再びこちらへ振り返った



また気づかれた… 



こいつ…殺気でも感じ取れるのか…? 



このままでは簡単に掌で受け止められてしまう…



その時だ 鼓膜が破れそうになるくらいの発砲音が突然鳴った。



パン パァン パンパンパァン



ハサウェイが横目で見るや、恐怖で顔をひきつらせ、脅えた表情で拳銃を連続発砲するまるこめの姿



理沙の右の耳たぶ、また鎖骨付近に2発の弾丸が被弾



理沙は一瞬よろけたがその場に踏みとどまった。



ガチッ ガチッ 何時も引き金が引かれるが拳銃は弾切れを起こし、空砲のみが空しく響く



理沙はまるこめを直視、負傷した耳たぶに触れながら「何するんだよ う~ん アナタあんまりおいしそうじゃないけど… 量もあるし… まぁ いっかぁ~ 貴方からにする~」



ガチ ガチガチガチ



まるこめ「うわ うわぁ~」



ハサウェイ、エレナ、葛藤、江藤の目の前でこれからおぞましい事が起こる…



ハサウェイがすぐに理沙へ視線を向けるとその場から既に理沙の姿が消えていた…



ハサウェイの横を神速に驚異的なスピードで駆け抜けた理沙



理沙が駆け抜けた後、微量な風がハサウェイの髪をなびかせる。



江藤、葛藤が後ろを振り返った時



エレナ「い…いや…」



エレナは両手で口を覆った。



ハサウェイも恐る恐る後ろへ振り返るや、倒されたまるこめの腹の上に跨がり、座り込む理沙がいた。



そして両手で、まるでこじ開けるかの様にまるこめの頭皮を剥いでいた。



まるこめ「わぁぁぁぁ」



理沙「えへへへへ」



頭皮に指を刺し、掻き分けられ、こじ開けられていく 



生きた状態のまるこめの頭部をまるでみかんでも剥くように皮を剥ぎ、理沙の顔面は噴出した鮮血で染められた。



うっすら笑いながら今度は頭蓋骨を落花生でも割るかのようにカチ割り、脳膜が飛び出てきた。



言葉を失いピクピクさせるまるこめの顔も真っ赤に染まる中



目を見開いたまま、まるこめの鼓動が停止



まるこめが絶命した。



全身の力が抜け、手をダラリと垂らし、拳銃が手から離れて転がった。



理沙はシワが刻まれる脳みそを手で掻きむしり、引きちぎると口に頬張り、至福の表情で食事に夢中となる



理沙「あれ 意外… 思ったよりもおいしいかも…」



それから目を閉ざし幸せそうな表情を浮かべる理沙



理沙「う~ん おいちぃ~」



更に頭の中に手を突っ込み、スプーンでよそる様に手でほじくり、適量な脳みそを取り出しては再び口に頬張っていく



口元は血塗られ、赤色に染まる指を舐めると穴の空いた頭へ何度も何度も手を突っ込み、食事に没頭していく



理沙「きゃあ おいちぃー おいちぃ~」



エレナは理沙に気づかれぬようすぐに立ち上がりハサウェイの元に駆け寄った。



3人共凍りつき、仲間が食われる惨劇をただ茫然と眺めている。



何も出来ぬままに…



エレナがハサウェイの肩をさすりながら口にした。



エレナ「逃げよう 今ならチャンスだよ」



現時点で立ち向かっても到底かなう相手では無い…



このままだと… みんなこいつの食糧にされてしまう…



まるこめを目の前で殺され、食べられているのに…



怒りよりも、悲しみよりも恐怖に取り込まれた今



まずはこの場から逃げる事



退避を優先しなければならない…



エレナの髪の毛から足のつま先まで全神経が防衛本能で逃げろと言っている



唖然とするハサウェイが理沙へ向け弓を構えるとエレナがその腕を掴み制止した。



エレナ「ダメ いいから今は逃げよう」



ハサウェイ「しかし… 今、こいつを仕留めておかないと大変な事になる…」



エレナ「見たでしょ 攻撃して触発しちゃ駄目 こいつは今まで見てきた感染者とはレベルが違い過ぎる…まずは逃げて態勢を整えるの… 今逃げるチャンスなんだから」



ハサウェイ「…」



エレナ「ねぇ しっかりして!ハサウェイ 早く逃げるのよ」



エレナが腕を掴みハサウェイの弓を下ろした。



エレナ「葛藤さん、江藤さん 行きましょう」



葛藤「あ… あぁ…」



2人は顔面蒼白な表情で頷いた。



落ちた拳銃にそろりと近寄り、拾うやハサウェイの腕を強引に引っ張っていくエレナ



エレナ「さぁ 早く 行こう」



4人は食事に夢中な理沙に気づかれぬ様退避を開始した。



腕をもぎ取ってむしゃぶりつき、脳みそを掻きだし食べている理沙の後ろ姿をあとに



エレナ達は逃げ出した。



また入口に群れる感染者達を尻目に立ち去ろうとした時だ



理沙「すぐに会えるわよ お腹が空いたらまた会いましょ」



ビクッとさせた4人が慌てて振り返ると



顔、腕、服全てが血みどろに染まる理沙が仁王立ち、こっちを見ていた。



まるこめの目玉を指で摘まみ



あんぐりと口を開いた理沙



そしてまるでさくらんぼでも食べるかの様に細目に笑顔を見せ、その目玉を開けた口へと落とした。



ハサウェイ「チィ」



こいつ…



俺等を敢えて逃がしても問題無いと言いたいのか…?



ワザと逃がすとでも言いたいのか…?



テメェーは…



兵隊共を従え女王にでもなったつもりか…?



その小娘の中に潜むお前…



このままじゃ終わらねぇ…



必ずこの手で退治してやる



エレナ「行こう」



理沙「フフフ まったねぇ~」



4人はまるこめが犠牲になるもその場を後にした。



途轍(とてつ)もない強敵現る



これからこの超高層ビルを舞台に壮絶な三つ巴戦が行われようとしている。

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