G6第六戦:プレジャーRd

第二十九話:エロチックドリーム

「好きよ、圭介くん……愛してるわ」

 官能的なあいつの唇。

 まるで別の生き物みたいに蠢くそれが、短い台詞を紡ぎだした。

 疑いようもない愛の言葉だ。

 オトコなら誰だって心揺さぶられるだろう、妖艶極まる女神の微笑み。

 そこから生じる生暖かい吐息が、俺の顔面に向け至近距離から降り注ぐ。

 緊張する鼻腔が、まともにそれを感知した。

 下腹部を直撃するナイススメル。

 それは紛れもなく、オンナの色香そのものだった。

 俺の本能オトコが刺激され、濃度を増した血流が身体の一部俺の息子に流れ込む。

 主の意向をガン無視し、が一気に覚醒した。

 ビクビク跳ねる暴れん坊マイ・サンが、へそに向かって鎌首をもたげる。

 むっちりとした肢体からだにオトナのランジェリーだけをまとった薫子。

 そのあられもない格好が、網膜に焼き付いて離れない。

 豊かな胸──…

 細い腰──…

 引き締まった尻──…

 そんな究極ウェポンを搭載した絶世の美女から直に想いを告げられたんだ。

 断れるオトコなんて、この世にいようはずもない。

 破れんばかりに心臓が脈打つ。

「お、俺もおまえが──」

 返事をしようとしたその矢先、俺の唇を薫子がふさいだ。

 しっとり濡れた自分の口で。

 その刹那、俺ははっきり自覚する。

 いま俺は、仰向けの姿勢で押し付けられてる最中なのだ。

 それもあろうことか、あいつの身体でベッドの上に──…

 もちろん、服なんてものは何ひとつ着てない。

 あたりまえだが、パンツもシャツも何もかも、である。

 文字どおり、言い訳の利かないスッポンポン。

 急所を隠す術もない。

 そんな俺の胸板に、あいつのバストが密着した。

 硬くざらりとしたブラ越しの感触。

 それであっても興奮する。

 たまらない。

 下からあいつを抱きしめた。

 ふかふかのベッドに、二人の身体が沈み込む。

 端っこがどこにあるのか見えもしない、無限の広がりを持つ白い寝床。

 冷たい。

 背中で直接感じるそれが、薫子の熱い素肌と対称的だ。

 新雪のようなシーツの下から、洗剤の臭気が漂ってきた。

 気持ち悪いくらいにリアルだった。

 でもそれは、俺の夢幻を覚まさせたりしない。

 へそを合わせた状態で、薫子の両手が俺の頭の後ろに回った。

 前歯を割って、舌がぬめりと侵入してくる。

 顎を開き、黙ってそれを受け入れた。

 唾液が注がれ、二匹の蛇が口腔内で絡み合う。

 その有様は他人視点で見なくてもわかる。

 いやらしい。

 凄まじくエロチックだ。

 薫子が俺の身体に馬乗りとなった。

 離れた口から、余剰の唾液が糸になって伸びる。

 はみ出た舌が、ぺろりとそれを舐めとった。

 肉食獣の笑み。

 心臓がさらに高鳴る。

 悩まし気に俺を見下ろし、あいつはゆるりとブラを外した。

 解放された大きなバストが、プルンと小さく上下に揺れる。

 ただ大きいだけじゃない、

 見た目にも綺麗な奴の乳房。

 たわわなそれを下から眺めた。

 そいつはまさしくオトコの願望。

 絶景だ。

 目線を外すことなんてできやしない。

 それを見て、再度微笑む俺だけの女神。

 喜びの色が、両の瞳に現れている。

 そんな女神が、またしても俺に被さってきた。

 何をするのかは、すぐにわかった。

 つもりなんだ。

 最初の攻撃目標は、最短距離にある左の耳だった。

 耳たぶその他を甘噛みされる。

 性的な刺激としては、正直言ってジャブにもならない。

 でも異様なくらいに興奮した。

 気持ちが高まり呼吸が乱れる。

 舌先が、そのまま下って横首を這った。

 気持ちいいけどくすぐったい。

 薫子は、俺の反応を確かめながら、ゆっくりゆっくりターゲットを移す。

 左から右へ。

 右から左へ。

 丁寧に、几帳面に、心のこもったあいつの愛撫が、鎖骨のへんを経由して胸のあたりに到達した。

 舌が、唇が、指先が、容赦なく弱いところを蹂躙する。

 「うあッ!」っと思わず声が出て、腰が真上に跳ね上がった。

 熱い薫子の唇が、とうとう乳首を捕捉したんだ。

 オトコにとっても敏感な箇所。

 その部分が傍若無人になぶられる。

 もちろんだけど、もう片方だって無事とは言えない。

 繊細で柔らかいあいつの指先が、おもちゃみたいにそこをいじくる。

 ほぼ理想的な左右同時攻撃。

 頭蓋の中に百万ボルトの電撃が走った。

 おとがいを反らし、奴の背中に指先を立てる。

「薫子ッ! 薫子ッ! 薫子ッ!」

 さらに手を変え品を変え、薫子は俺の性感を踏みにじった。

 その熟練の手管は、まるでAV嬢や娼婦のものだ。

 それは、これまでの人生で一度も経験したことのない、圧倒的な快楽だった。

 たちまち頭が真っ白になり、断続的に嬌声が飛び出る。

 自分でも、もう何を言っているのかわからなかった。

 仰け反る背中と悶える手足。

 ただそれだけが、あいつにむかって自分の意思を伝達していた。

 攻撃途中のあいつの身体を、ギュッと引き付け抱きしめる。

 苦し気に、股間のアレをこすりつけた。

 もっと……もっと先に進みたい……

 俺のオトコの本能が、そんな希望を訴えた。

 無言のそれを察したんだろうか。

 薫子は、そっと俺から身体を離した。

「薫子……」

 乱れた息もそのままに、俺はあいつの様子をうかがう。

 涙で潤んだ左右の瞳で。

 薫子の表情に、慈母の微笑びしょうが浮かび上がった。

 それはまさに、母親が血を分けた幼子に送るような眼差しだった。

 暖かい。

 あまりにも暖かすぎて、身体全体がぽかぽかする。

 胸板をさする奴の両手が、そいつを強く後押しした。

 にもかかわらず、あいつは俺の期待に応えなかった。

 執拗で、かつ容赦のない二次攻勢が俺に向かって襲い掛かる。

 俺の身体の表面で、薫子の舌が、唇が、指先が触れようとしない場所なんて一か所もなかった。

 不浄とされる排泄器官だって、その例外ではいられない。

 ありとあらゆる肉体部位が、奴の猛攻に晒された。

 あいつは、俺のすべての性感帯を、確認し、再確認し、いっさいの差別なく、まるで草の根を分けるようにして探し出し、一片の慈悲も与えず、徹底的にむさぼりつくした。

 落雷が幾度となく脳天を直撃し、隊列をなした急行電車が身体の中を走り抜けた。

 その行為の最中、いったい何度昇天しちまったのかは哀しいことにおぼえていない。

 どれだけ大量の精を放とうとも、あいつは俺を開放してくれなかった。

 まるで子猫がネズミを虐めるように、薫子は延々と俺のオトコを攻め立て続ける。

 自分のオンナを総動員して、蘇らせては天に返し、蘇らせては天に返し、徹底的に苛み続けた。

「あッ、あッ、ひィッ、うあッ」

 みっともない声が、次から次に口から洩れる。

 とてもじゃないが、他人になんて聞かせられない。

 両足が硬直するほどピンと伸び、左右の手が破れんばかりにシーツをつかんだ。

 なすがまま、とは、まさにこのことなんだろう。

 足指がギュッと握られ拳を作った。

 くそッ!

 畜生ッ!

 悔しいッ!

 エロ漫画なら、こんなの真逆のシチュエーションじゃないかッ!

 でもそんな青臭い反発ですら、この時は、俺の性欲を高ぶらせるための原動力にしかならなかった。

 あまりにも気持ち良すぎて、狂を発してしまいそうだ。

 もう何も考えられない。

 考えたくない。

 このまま死んでしまっても、それはそれで構わない。

 つい、そんなことすら思ってしまった。

 何度達しても平気でいられる自分自身の回復力に、疑問を抱く余裕はない。

 どこか変だと不信を募らす、そんなことすらおぼつかなかった。

 目覚めたままで気を絶してる、矛盾を感じるそうした時間が、いったいどれぐらい続いたんだろう。

 うつぶせの姿勢で防戦一方となっていた俺の目の前に、紫色の何かが軽い音を立てて落下した。

 レースの入った布の塊。

 最初は何かわからなかった俺だが、瞬く間にその正体へと辿り着く。

 薫子の履いていた紐パンツだ。

 一部がぐっしょり濡れていて、ツンとしたオンナの香りが否応なしに鼻を衝いた。

 俺の背中にのしかかっていた薫子が、甘く耳元でささやいてくる。

「圭介くん……そろそろちょうだい。あなたが欲しいの」

 その言葉がいったい何を意味しているのか。

 さすがの俺でもそれぐらいはわかった。

 紛れもない性交の申し出だ。

 来るべき時がついに来たのか?

 股間の息子の硬度が増す。

 思わず息が止まる俺。

 けど疑問符を掲げる暇はなかった。

 体を入れ替えた薫子が、俺の身体を自分の上に載せたからだ。

 交尾の基本である正常位の体勢。

 両手で俺のうなじを抱きつつ、潤んだ瞳であいつは告げる。

「お願い。あなたとひとつになりたいの。あたしとじゃ、嫌?」

「そ、そ、そ、そんなことない! そんなことあるはずがない! で、でも──」

 土壇場になってうろたえる俺。どもりながらも白状する。

「お、お、お、俺、ゴ、ゴム持ってきてない」

「そんなのいらないわ」

 迷うことなく答える薫子。

「そのままのあなたがいいの」

 壮絶という言葉では表しきれない、濃厚極まるあいつのフェロモン。

 それがぶわっと噴き出して、俺の理性を粉砕した。

 種付けの許可ゴムなしのセックス

 それは、オンナから贈られるこの上なき信頼の証孕まされてもいいだった。

 そして、オトコとして得られる最大級の自己承認孕ませてもいいだった。

 拒む理由などどこにもない。

 ゴクッと大きく唾を呑み、「うん」と小さく頷いた。

 たどたどしくも挿入準備に取り掛かる。

 後先なんて考えてすらいなかった。

 ただの一人もオンナを知らない、完全無欠な童貞の俺。

 でも知識の量は人並み以上を自認していた。

 つるつるの幼女みたいなあいつのアソコに、右手を添えて先端をあてがう。

 あとは腰を進めてさえしまえば、俺の初体験は完了だ。

 あっけない。

 セックスって、実はこんなにもあっけないものだったんだ──…

 出所不明の虚しさが、俺の心を過ぎり去る。

 決意を定めて薫子に告げた。

「い、いくぞ、薫子」

「待って」

 恥ずかし気に顔を背け、か細い声であいつは言った。

「あの……あたし、初めてなの。だから、お願い……優しくして」

「えッ」

 柔らかい棍棒が、俺の頭部を一撃する。

 薫子が初めてバージン

 純潔バージン

 処女バージン

 「嘘だろ?」という困惑と「マジかよ!」という歓喜とが、互い違いに頭の中をグルグル回った。

 なんてこった!

 そして支配権を確立したのは、根源的なオトコとしての喜びだった。

 これだけのオンナの最初のオトコになれる栄誉。

 それは俺みたいな青二才にとって、受け入れるには余りある、これ以上もない勲章だった。

 背筋に沿って稲妻が走り、情欲の火種にまとめてガソリンがぶっかけられた。

 訪れる爆発炎上!

 俺に残った最後のくびきが、野獣の前肢で引きちぎられる!

「薫子ッ!」

 あいつの上に覆い被さり、がむしゃらになって唇を奪った。

 舌を突き入れ口内を蹂躙、思う存分唾液を飲ませる。

 俺のオンナだッ!

 もう俺だけのオンナだッ!

 衝動が、俺のすべてを支配した。

 こいつの胸も!

 腰も!

 尻も!

 手も!

 指も!

 脚も!

 唇も!

 眼も!

 耳も!

 髪も!

 ひとつ残らず俺だけのモノだッ!

 誰にも渡さないッ!

 もう一生、俺だけのモノだッ!

 誰であっても止められないし、誰であっても止めさせないッ!

 このオンナの肉体からだに、俺だけのモノだっていう証拠を、これからをもって刻み付けるッ!

 刻み付けてやるッ!

 薫子ッ!

 薫子ッ!

 おまえはもう、俺だけのオンナだッ!

 俺だけのオンナなんだッ!

 勢い込んで、あいつの中に突き入れた。

 優しさなんて欠片もない。

 俺の息子の先端部分が、薫子の奥に激突する。

「痛ッ!」

 俺のオンナが破瓜の痛みに顔をしかめた。

 愛らしい!

 愛らしすぎる!

 それでも俺は止まらない。

 自分勝手にわがままに、あいつのオンナを貫き続ける。

「薫子ッ! 薫子ッ! 薫子ッ!」

 呪文のように奴の名を呼ぶ。

「俺のオンナだッ! 俺のオンナだッ! 俺だけのオンナだッ!」

「圭介ッ! 圭介ッ! 圭介ッ!」

 リズムを合わせて薫子が鳴く。

「そうよッ! あなたのオンナよッ! あなただけのオンナよッ! あなただけのオンナなのよッ!」

 愛しいオンナの愉悦のうたを聞きながら、遮二無二俺は、天井めがけて駆け上がった。

 だがしかし、終わりの刻は承諾しない。

 歯を食いしばり、臨界点を先へ先へと引き延ばした。

 この悦楽を少しでも長く味わえるよう、頂への到達を必死になって我慢する。

 でもそうした抵抗も、それほど長くは続かなかった。

 薫子の与えてくる究極の歓びが、俺のオトコを全速力でいざなったからだ。

 水位を超えた性の堤が、怒涛に襲われ決壊する。

 一気に意識が白濁した。

 まぶたの奥に超新星の火花が散る。

「ウッ……ウッ……ウ……ウアァッ!」

 獣のように吠えながら、骨も折れよとあいつの身体を抱きしめた。

 そのまま固まり、子宮の奥に生命いのちの素を注ぎ込む。

 ためらわず、迷わず、ただ本能の導くまま、オスの責務をまっとうした。

 脱童貞。

 脳髄を鷲掴みにされる感覚が、俺の魂を根こそぎ奪う。

 ドクッ、ドクッ、ドクッ……

 止まらない放出。

 圧倒的な異常事態。

 なのに俺は、そのことについてまったく回す気を持たなかった。

 やった! やった! ついにやった!

 天にも昇る達成感が、俺の背骨を突き抜ける。

 俺のオンナの豊かな乳房に顔を埋め、狂喜乱舞に総身を委ねた。

 とうとう「オトコ」になったんだッ!

 子供のように俺は思った。

 愛しいオンナを手に入れて、ホントの「オトコ」になったんだッ!

 もう莫迦になんてさせないッ!

 どこの誰にも、絶対莫迦になんてさせないぞッ!

 見たかッ!

 畜生ッ!

 俺だってやれるんだッ!

 俺だってやれるんだッ!

 俺だって、俺だって……俺だってやれるんだッ!

 両腕であいつの存在を確かめながら、俺は無言でそう叫んでいた。

 何度も何度も繰り返し、心の中でそう叫んでいた。

「薫子……」

 もう一度交わりたくなって、繋がったまま俺のオンナに伺いを立てる。

 真っ赤になってあいつはうなずき、唇を突き出し目をつぶった。

 赤裸々なお誘い。

 俺にとっても嫌はなかった。

 申し出に応じ、互いの顔を近付ける──…


 ◆◆◆


 ピピピ、と鋭く電子音が鳴り響いたのは、ちょうどその瞬間の出来事であった。

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