第1197話 どエルフさんと高軌道エレベーター

【前回のあらすじ】


 女店員とその兄、そして彼らの恋人と別れた女エルフ達。

 あまり普段は感じることのないラブコメの気――それも特濃なのに晒されてしまって少しテンションがおかしくなったのだろう。


「やっぱりこれよ。『イーグル市ぐるめマップ。お腹いっぱいになるまで今日はホテルに帰りま10』だわ」


「いいえモーラさん、食べ物に釣られてはいけません『古都イーグル市めぐり。写真で巡るインスタ映えスポット。古都の夏を満喫しちゃおうスペシャル』ですよ」


 どうでもいい地図の属性でマウントを取り合い出す女エルフと女修道士シスター

 ぶっちゃけそんなのどうでもいい。はよやることやりなはれ。

 くどくどと言い争った二人の話は平行線。結局、他のパーティーメンバーが合流するまで不毛なマウントバトルを繰り広げることになるのだった。


 食い意地が張っている女エルフに、こんな時でも信仰を忘れない女修道士シスター。本当に、困った冒険者二人である。


「いや、本当に困るのは、なかなか話を進めない駄作者のアンタじゃないの」


 すみません。なんかちょっとスローペースで申し訳ない。

 充電をさせちくり……。(カクコンからの連投で、ちょっとインプットがナムっております)


◇ ◇ ◇ ◇


「だぞぉ、ご飯とかどうでもいいんだぞ。今は人類の危機なんだから、真面目にやらなくちゃダメなんだぞ」


「そうですよマスター。何をふざけているんですか」


「エリィはあまあまがあるお店がいいです、おねえたま」


 パーティーメンバーと合流した女エルフ達。

 くだらないことで地図を探す手を止めていたのを咎められる女エルフと女修道士シスター。まったくその通りで返す言葉もない。しぶしぶと頭を下げると、彼女達は一番シンプルなドライブマップを購入した。


 こちらの大陸の硬貨の手持ちがなかったが、そこはELF娘が立て替える。かくしてようやく女エルフ達は、イーグル市の地図を手に入れたのだった。


 本屋から離れて休憩スペースのテーブルの前。

 荷物を広げてひと休み。女エルフパーティーが椅子に座って息を吐く。とりあえずゴタついたことを謝ると、早速女エルフと女修道士シスター、そしてワンコ教授が手に入れた地図を覗き込んだ。


 まずはそこから、女エルフたちがいる異世界ビッ○カメラを探す。


「へぇ、なるほどここって訳ね。言ってた西口からは結構距離があるけれど」


「ヨ○バシというお店は、西口の真ん前にありますね。結構、そこから歩いていることを考えると、ちょっと面倒ですね」


「だぞ、けどこれを見るんだぞ。MM砲へ向かう高軌道エレベーターっていう奴には、こっちの方が近いんだぞ」


「あら本当ね」


 女エルフ達が見ている詳細マップ。そこにくっきりと丸い形で描かれている高軌道エレベーター。今居る異世界ビッ○カメラのビルの十倍ほどの大きさがあるそれを使って、どうやら天空のMM砲へは向かうらしい。


 これで一つ、問題については片付いた。

 ただまぁその高軌道エレベーターという施設が、いったいどういうものなのかは女エルフ達は想像できていなかったが。


「リリエル。この、高軌道エレベーターっていうのを使うのは難しいの?」


「うーん、どうでしょうね。民間用の施設であれば、たぶん紛れ混んだら使えるとは思いますが。軍事施設だとか研究施設の場合は、荒っぽいことをする必要があるかもしれませんね」


「……なるほど、前者であることを祈りたい所ね」


 大気圏層まで人を輸送する高軌道エレベーター。

 民間で利用できるものは他の作品でもそう見かけない。まず間違いなく、軍事もしくは研究拠点だろう。となると、激しい戦闘になるのは必至。

 そこまで女エルフが思い至ったかといえば、この南の大陸についての知識がないのでムリだったが、それでもここいらで一つ気合いを入れる必要があるのは分かった。


 本を女修道士に預けると咳払い。リーダーとして威厳のある表情をすると、彼女はメンバーに語りはじめた。


「みんな、ここまで本当におつかれさま。この高軌道エレベーターをなんとか使うことができれば、MM砲を使ってなんとか状況を打破できるわ。この南の大陸に住んでいるELFたちの目を開くまで、あともうちょっとよ。頑張りましょう」


「そうですね。あともう少し、気合いを入れて臨みましょう」


「だぞ!! 必ずこの大陸のELFたちを救ってみせるんだぞ!! 不毛な争いから彼らを救うんだぞ!!」


「エリィも頑張ります!! むん!!」


「……まぁ、気合いを入れるのは大切ですね。頑張りましょう、マスター」


「よし!! それじゃ改めて――目指せ、高軌道エレベー」


「ぐうぅぅ!!」


 良いところでお腹が鳴る。犯人捜しをするより早く、女エルフの白い顔が真っ赤に染まった。さっきグルメマップを手に取ったのはそういう伏線か。どうやら、ちょっと小腹が空いてしまったらしい。


 思えば娼婦型ELFたちと入れ替わってからこっち、どたばたとしてまともにご飯を食べている余裕がなかった。連鎖するように、他のメンバーのお腹も鳴る。


「だぞ。戦の前にまずは腹ごしらえが必要みたいなんだぞ」


「ですね。せっかく落ち着いた所ですし、腹ごしらえも一緒に済ましてしまいましょうか」


「はいはーい!! エリィ、下で美味しそうなお店見つけたよ!! せっかくなんだから、皆で食べにいきましょうよー!!」


「あらら、マスターってばお腹が空いていらしたんですね。すみません、お付きのELFなのに私としたことがすっかり気がつかなくて」


「……ぐぬぬ。まぁ、いいわ。そうよね、戦の前にまずは腹ごしらえよね」


 女エルフがお腹をさすってため息を吐く。

 恥ずかしいのは一旦忘れて、ここはリーダーとしてしっかりと方針を定めることにする。戦には準備が肝心。大事な所で力が出るようにと――彼女はここでパーティーの休憩を提案するのだった。


 という訳で。


「それじゃ、今日の野営当番は誰だったかしら」


 テーブルに火鉢をドン。


「今日は私とケティさんですね。すみません、簡単なものしかつくれませんけれど」


「だぞ!! お料理頑張るんだぞ!! 楽しみにしてくれなんだぞ!!」


 火鉢の上にフライパンをドン。

 さらにその横にまな板、材料も一式ずらりと並べる。


「エリィはお皿を並べますね!! あっ、ここに来る時に、お水が出る場所をみつけましたよ!! せかっくですし、そこで色々洗っていきましょうよ!!」


 木で出来たお皿――というかほぼプレート――をテーブルの上にドドンがドン。

 

 手慣れた感じで野営の支度を始める女エルフたち。

 それは冒険者としての当然の仕儀。いつも通り、なんの疑う余地もない、冒険者として当たり前の食事風景。

 これまでもこれからも、いつもしてきた彼らの冒険のスタイル。


 しかし――。


「ダメですよマスター!! こんな所で勝手に野営なんてしたら!! あと、火が出るようなことしたら危ないですって!!」


「大丈夫大丈夫。冒険者何年やってると思ってるのよ。そんな火力間違えて火鉢を燃やすとか、凡ミスするわけないでしょ。あはは!!」


「そうじゃないですって!!」


 ここは未知なる文明の未知なる場所というのを甘く見ていたどエルフさんたち。

 その後、天井の火災検知器が作動し、スプリンクラーが動いて彼女達が水浸しになるのは――お約束も何も当然の成り行きだった……。

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