第1166話 ど女エルフさんと上都市へのルート

【前回のあらすじ】


 イーグル市の地下に広がる暗黒街へとやってきた女エルフ達。

 いかにもスラム街。治安の悪いその様子に女修道士シスターも及び腰。暴力沙汰を生業とする冒険者の彼女達も、ちょっと身構えてしまった。


 冒険者とて所詮は人間。

 暴力を使って物事を解決する者は、その力に溺れるものではない。

 その力の特性を良くも悪くも知り尽くした者だ。


 ここは大人しく、目立たず、こっそり行動した方がいい。

 そう女修道士とワンコ教授は判断した――。


「ったくもう、何をまごついてるのよ。さっさと情報収集して、仕事を終わらせるわよ。たかが酒場のいざこざにどれだけ驚いてるのよ」


「モーラさん!?」


 しかし、ソシャゲに夢中で判断力の鈍っている女エルフにはそんなの関係ない。女修道士たちの慎重な行動を完全無視して聞き込み開始。つい先ほど銃撃戦という命のやり取りがあったばかりの酒場に突撃するのだった。


「たのもー。ちょっと教えていただきたいんだけれど、よろしいかしら」


「なっ、なんだいアンタ、その逆スケベボディは!?」


 そして、逆スケベボディということで、すんなりとその場に居た女型のELFたちに認められてしまうのだった。


 おそるべし逆スケベボディ。(それはそれでスケベだ)


◇ ◇ ◇ ◇


 女エルフに同情した多くの女型ELFにより酒場に招き入れられた女修道士シスターたち。

 話をつけた女エルフはさっさと寝室に入る。新女王もそれに続いた。

 残されたのはなんだかよく分からない流れで店に入った女修道士とワンコ教授。


 彼女達が座ったテーブルを取り囲んで、女型ELF――この街で主に性風俗に従事しているELFたちが集まっていた。

 その表情はやはり一様に暗い。


「……なるほど。こっちはさっきのと違って極スケベボディ」


「そして、こっちの犬耳っ娘は、マニアが狂喜する極マニアボディ」


「「「あんたたち、ここまできっと苦労してきたんだね……」」」


「だぞ。なんか勘違いされているみたいなんだぞ」


「まぁ、実際苦労はしている訳ですし、ここはご厚意に甘えておきましょう」


 女エルフに続いて、まずまずの歓迎ぶり。

 辛い立場にある女達への共感性がえぐい。治安もなにもない暗黒街に生きる女達の結束は思った以上に固かった。男騎士がいない冒険に、杞憂していた女修道士シスターたちだったが、今回はおもいっきり彼がいないことがプラスに働いた。


 ツナギを着た作業用ELFを突き飛ばした女型ELFが前に座る。

 彼女はうんうんと頷くと、女エルフにしたようにそっと女修道士の肩を叩いた。


「分かるよ、あたし達には分かる。愛を他人に与える(娼婦の)仕事をしている私たちには、アンタ達の辛い気持ちがよく分かるよ。たいへんだったね」


「まぁ、そうですね。愛を他人に与える(聖職者)の仕事は、なかなか人に理解して貰えるものではないですからね」


「辛かったろうね。この街に来たからにはもう安心だ。私らが、アンタ達をきっと理不尽から守ってみせるよ」


「今まさに理不尽に襲われている気がしますが。まぁ、お世話になります」


 女修道士シスターも随分としたたかになったものである。

 勘違いを訂正することなく、彼女は女型ELFたちの世話になることを選択した。一刻も早く、この南の大陸にはびこっている怪異を解決するためには、些細な事にこだわっている場合ではない。

 女修道士としても苦渋の決断だった。


 次々に運ばれてくる料理に手をつけながら、女修道士は話せる範囲で自分達の境遇を集まったELFたちに語った。


 イーグル市の表層部に向かう旅の途中であること。

 分け合って違う都市から流れて来た者達であること。

 ダブルオーの衣という聖遺物を探していること。


 最後に、少し話すかどうか迷って、女修道士シスターは「破壊神と知恵の神の三都市が、何者かによって再起動されていること」を語った。

 なんとなくではあるが、自分達を受け入れてくれた女型ELFたちの中に、女社長と同じ空気を感じたのだ。


 はたして、その彼女の直感は当たりだった。


「……なるほど。最近、上が騒がしくなっていたのはそれが原因か」


「停止しているはずの上の都市からちょいちょい人が流れてくる、活動が再開されているのは気づいていたけれど、まさかそういう理由だったとは」


「また厄介なことになっちまったねぇ」


 女型ELFたちは、女修道士シスターの話を素直に受け入れ、そして理不尽な状況の怒りを、破壊神たちの都市を再起動した何者かに向けた。

 その反応でようやく、女修道士は力強い後ろ盾を現地に手に入れたと確信した。


 どうすると相談し合う女型ELFたち。

 女修道士が話し終えるや、彼女達は具体的に自分達に何ができるか、忙しく話し合いはじめた。流れ者、素性も怪しい女達の相談に随分と気のいい話である。


「イーグル市表層部には定期的にこっちで生産したELFを供給している。その中に紛れ混ませれば送ってやることはできるかもしれない」


「けど、セクサロイドだろう。この娘たちのボディを見なよ。かろうじて、こちらのホルスタインモーモーはどうにかなるとして、他は返品されるのがオチだろう」


「いやいやELFの欲望は底知れない。一見需要がないように思えても、マニアックな要望が……」


「機械鎧も一緒に付けてやるべきだろう。こっちは誤魔化しが利かないぞ?」


「たしか表層部都市で警備用に使われている機械鎧の幾つかを、修理するために地下ドックに運んでいるはずだ。その中に紛れ混ませれば持ち込めるかもしれない」


「向こうでの活動拠点はやはり公営娼館……」


 女修道士シスターたちの手を離れて、次々に組まれていく綿密な作戦計画。

 白熱した議論を交わすELFたちをきょとんとした目で見つめることしかできない女修道士。驚くほどにトントン拍子。最初、こんなスラムに流れ着いてしまってどうしようかと焦った割には、思いがけない助け船にたどり着いてしまった。


「なんとかあたしたちのツテで、アンタ達をイーグル市の表層部まで送ってやることはできる気がする」


「本当ですか。是非、お願いしたいんですけれど」


「ただ、送り出すことが出来ても自由までは保障できない。セクサロイドに化けて公営娼館に送り込むのがやっとだ。そこからどう活動するかはアンタ達の腕次第だが」


「大丈夫です、そういうの(荒事)はまぁ、私たち馴れていますから……」


「そういうの(エッチな稼業)は馴れている……」


 ぶわっとまた泣き出す女型ELFたち。

 なにがそんなに彼女達の心の琴線に触れるのだろう。「やっぱりよしておけ」「ここで私たちと一緒に暮らそう」「大丈夫、私たちが貴方のママよ」と、やけに力強く女修道士は引き留められるのだった。


 なにはともあれ、これで地上まで向かう段取りはついた。

 思った以上に簡単に女修道士たちはイーグル市の中枢に滑り込むことに成功した。

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