第1156話 どエルフさんとマナイタ家

【前回のあらすじ】


 剛運。女エルフ。

 人生では踏んだり蹴ったりなのに、どうしてこんなどうでもいいところでついているのか。彼女はよりにもよって初めてのソシャゲで、10連最高レアリティ二枚引きという離れ業をやってのけた。


 無欲の勝利か。物欲センサーが攪乱されたか。

 あるいは日頃の不運の帳尻あわせか。

 なんにしても、人生にはこういう幸運がままあるものである。


 しかしなにより凄いのは――。


「キタァーッ!! トーク最強キャラ『オツボネサン』!! ビジュアル、フィジカルもそこそこ戦える、まさに王者!! きゃぁーっ、素敵、抱いて!!」


 現行環境で最強のキャラを引き当てたこと。

 本当に、ここまでの運を全て使い果たすようなビギナーズラックだった。


 さて、そんなつよつよ人権キャラを引き当ててしまった女エルフ。そいつを使えばSランククリアなんてすぐ。すぐにもミッション達成、お話の尺も短くなる、こりゃまた便利と思いきや――。


「私はこの『マナイタウエノコイ』を育てるぜ!!」


「なんでや!!」


 よりにもよって、一緒に引いた☆3の悪い方――環境がいまいち整っておらず、育てにくい方を選んでしまうのだった。


 まぁ、ソシャゲってそういう『自分の好きなキャラに奉仕する喜び』みたいなのが強く働くことあるよね――。


◇ ◇ ◇ ◇


「……まぁ、モーラさんがどうしてもそのキャラを育てたいのなら仕方ありません。ソシャゲのプレイスタイルは人それぞれですから」


「ごめんなさいね。だって、この娘ってば他人の気がしなくて」


(こいつ、貧乳にシンパシー感じてやがるな)


 マナイタウエノコイというネーミングから察して欲しい。

 断崖絶壁掴まるところもないような見事なツルペッタン、男の子かなという感じのキャラクターに、どうやらナイ胸族の女エルフは心引かれてしまったらしい。


 ソシャゲのキャラに自分と同じ共通項を見出して好きになるのはよくあるもの。

 オタ系のぱっと見冴えないキャラが人気投票だと意外に票が入ったり、努力しているけれどいまいち日の目を見ないキャラがひょんなきっかけでブレイクしたりするのと同じ理屈。女エルフは『マナイタウエノコイ』にどっぷり感情移入していた。


 もうすっかりとソシャゲの虜。スマホを眺めてうふふと微笑む女エルフ。

 お気に入り登録を済ませた『マナイタウエノコイ』がホーム画面で腕を組んでセリフをいう、それだけでなんだか満足そうだった。

 だが、これはソーシャルゲーム。ペットゲームやデスクトップに常駐する人工無能アプリではない。


 ヘラヘラとしている女エルフに、「それじゃ次にサポートカードのガチャを引きましょう」と海母神が促した。


「そういえば、このサポートカードっていうのはなんなの?」


「キャラクターの育成を手助けするカードですね。これの組み合わせにより、ステータスの成長をある程度底上げすることができるんです。あとは、サポートカード固有のスキルなどがあって」


「……えっと、とりあえずまた強そうなのを引いて付ければいいのね?」


 初心者特有のざっくりとした理解。

 まぁ、そういうことですと詳しく突っ込むのは控えた海母神。再びガチャの画面に切り替え、今度はサポートガチャの「10連ボタン」に指を添える。

 さっきのガチャで味をしめたのか、さっくりと女エルフはボタンを押した。


 先ほどのガチャで運を使い果たしたか、ここでは虹のカードは出ない。


「あれ、さっきのキャラと同じカードが出たけれど?」


「そうですね。うーん、ちょっと説明が難しいんですけれど、キャラとサポートカードはまた別の扱いなんです。育成するにはキャラを持っていないとできなくて」


「へぇー、なんだかややっこしいのね」


 ややっこしいですね。

 なぜ、キャラのガチャだけじゃダメなのか。


 サポートカード、概念礼装、そういうのを回させようとするのか。本当にソシャゲという奴はよくできている。そして、キャラクターよりこっちの方が重要だったりするのだから始末に負えない。


 知らぬが仏。「まぁ、そんなものか」とスルーする女エルフ。とりあえず出そろったカードを眺めてうぅんと彼女は唸った。


 引いたはいいが何を選べばいいのか分からない。


「これ、当たりなのハズレなの?」


「可もなく不可もなくって感じですね。まだジュエルは残っていますし、もう少し回してみたらどうでしょうか」


「そう言われてもねぇ。いいかどうかも分からないのに引いても」


「サポートカードの編成は育成方針を指定したらオートで最適なものを選んでくれますから大丈夫ですよ。それよりじゃんじゃん使えるカードを揃えた方がいいです」


 さぁさぁと言われるままに女エルフがガチャを回す。


 二回目。今度は虹。サポートガチャなのでちょっと甘いのか二枚引き。


『今夜は朝まで鍋パだ! アツアツジンギスカン』


『こたつで居眠り姫 オタサーノヒメ』


 うぅんと唸る海母神。

 悪いヒキではないが、覇権をとれるほどのサポートカードではない。

 微妙な空気を察してすぐに女エルフが三回目のサポートガチャを回す。


 今度は虹が一枚。


『皆さんの幸せを全力サポートします ウラカタ』


 これは人権というか一枚は持っていないと話にならない鉄板サポートカード。万能で使えるカードを引けたことに、ちょっと海母神も安堵のため息を吐いた。


 とはいえ、やはり火力不足。

 女エルフが選んだキャラを育成する上で、適したサポートカードが出てこない。


「うーん、なんというか『マナイタウエノコイ』にシナジーのあるサポートカードが欲しいですね」


「シナジー?」


「たとえば『マナイタウエノコイ』は『マナイタ家』と呼ばれる名門UWA娘の出身なんですけれど、同族のサポートカードと組むとバフが入るんですよね」


「バフ?」


「えっと、ちょっとだけ有利になるってことです。そういう意味で『マナイタ家』のサポートカードが欲しいんですけれど、そもそも数が少ないんですよね」


 サポートカードの状況までしっかり把握している、廃ゲーマーな海母神。

 一方、そんなことを言われても、さっぱり頓珍漢な女エルフ。


 とすると、最後のこの一回でそのお目当ての『マナイタ家』のカードを引かないといけないのかとちょっと意気込む。


 うーんと悩む海母神。

 そんな彼女の横で躊躇なく女エルフがガチャを回す。

 はたして最後の一回――またしても剛運か虹を二枚引いた女エルフ。


『雪山ホラーナイト マナイタイツモチイサイ』


『小悪魔大失敗 ダダダダダダテンシ』


「あっ!! 出た出た、マナイタ家!! この娘でいいんでしょ!!」


「あー、イツモチイサイか。いやー、確かに『マナイタ家』としてシナジーはあるけれど、お見合い適性が微妙にずれているんですよね」


「もーっ、じゃぁ、いったいどれを選択すればいいのよ!!」


 ソシャゲ玄人の葛藤に痺れを切らして文句を入れる女エルフ。


 もうジュエルも底をついてしまった。

 ここは現状手に入った☆3サポートと、フレンドのサポートでなんとかするしかないと、海母神はリセマラしたいのをぐっと我慢した。


 ソシャゲはやはり難しい。

 一つレアカードを引いたくらいでは、どうにもならないのが現実。

 最短でつよつよランカーに上り詰めようと思えば、宝くじ一等を10回連続で当て続けるような剛運が必要。そんなことをいまさら思い知る海母神であった。


「へぇー、このマナイタイツモチイサイかわいい感じね。私こういう、クールな感じの女の子って好みなのよね。やっぱり似てるからかしら」


「そうですねマナイタエルフサンジュッサイ」


 まぁ、プレイヤーがある意味で一番シナジーがある。

 ワンチャン奇跡が起きるかもしれない――ということで海母神は割り切った。


「……ところで、マナイタってこれどういう意味なの?」


 自分の胸に聞いてみなさいな。

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