第1127話 エルフキングとエルフリアン柔術

【前回のあらすじ】


 視点変わって、エルフキング率いる宇宙戦艦オーカマ陣営。

 ダイナモ市の制御コンピューターを強襲した彼らは、女エルフ達も戦った黒服のELFたちと激闘を繰り広げていた。


 本来では敵である仮面の騎士もまたその一人。彼は、少年勇者の年齢にそぐわない戦いぶりに、暗黒神の使徒ながら顔をしかめた。


「どういう覚悟でこの稼業に身を置いてようが知ったこっちゃねえがな。そんなふてくされた顔で剣を振るな」


「別に、いいじゃないですか。放っておいてくださいよ」


「そんなしみったれた顔で斬られた相手の気持ちにもなれっていうんだ。どういう事情があったら、てめえみたいなガキに泣きながら斬られなくちゃいけねえ」


 少年勇者を不器用に気遣う仮面の騎士。

 初登場の際には埒外漢的なムーブをしていた彼だが、どうしてそんな優しい態度が飛び出すのか。僅かな時間ながら一緒に旅を続けるうちに情でも移ってしまったのか。それともこれが本来の性格なのか。


 思わぬ関係性の変化を見せた所で、彼らの前に敵が立ち塞がる。赤い服を着た、いかにもザコとは違う感じの男。


 対するはキングエルフ。久しぶりにエルフリアン柔術の技が冴える。

 はたして、キングエルフ達は制御コンピューターを制圧することができるのか。


◇ ◇ ◇ ◇


 武術と飛び道具の相性は悪い。

 飛び道具の利点は、使うモノの技量を必要としないことと、そのリーチの広さである。己の身一つを使って相手と戦う、武術の思想とは対局にあると言って良い。

 故に銃と武術というのは究極の対決のテーマとされてきた。


「ふんぬ!! 喰らえ、お日様の香りの呼吸一ノ型『手ぬぐいみだれしばき』!!」


「「だから、中途半端にヤバイネタ使うな!!」」


「やるななかなか!! ではこれはどうだ――領域展開『幻想裸武虎眼ファンタジーラブコメ』」


「「うぅん、当て字がなんだか不安!!」」


 しかし、キングエルフの操るエルフリアン柔術に武術の不利は当てはまらない。

 ぶっちゃけ武術とか言っているけれどだいぶなんでもあり。

 セクシーコマンドーみたいに武術を名乗っているけれど、それ以外の名状しがたい何かであるエルフリアン柔術に隙はなかった。


 飛び来る弾丸をふんどして叩いては落とし、叩いては落とし。キングエルフは華麗なふんどし捌きでそれを無効化した。ふざけた技名はともかくとして、彼の技は確実に相手の飛び道具をしのぐものだった。


 これは勝負にならないなと紅騎士が嘆息したその時――赤い服の男が突如としてその場に膝をついた。かと思えばその膝がぱかりと割れる。


 魔術かそれとも奇術か。いったいどうなっているのかとキングエルフたちの呼吸が遅れた次の瞬間、そこから円筒状の何かが炎を噴射して飛来した。

 咄嗟にそれを受け止める構えを取ったキングエルフだが――。


「下がれお前ら!! こいつは受けちゃいけねえ攻撃だ!!」


 仮面の騎士が剣を抜いてその前に飛び出した。

 一刀、袈裟斬りの太刀が円筒の飛来物をたたき落とす。彼ほどの技量の持ち主であれば、両断することも容易かったはずだが、なぜか彼はそうしなかった。

 彼がたたき落とした円筒状のそれは、地面にぶつかり鈍い音を立てる。どうやら、それなりの重量があるものらしい。ずしりという音の後、それはまばゆい光を放つ。


 まずいと、少年勇者が手を前に出す。魔法の心得がある彼は、咄嗟に防壁魔法を繰り出すと、それを仮面の騎士の前に展開した。


 轟音。そして廊下に蔓延する炎。バリアを衝撃波が襲う。透明な膜にぶつかって虹色の光に変換されたそれを眺めて紅騎士とキングエルフが額に汗を流す。

 爆発魔法――それもまともに喰らえば即死するレベルの高威力。


 おもわずキングエルフが奥歯を噛んだ。


「どうやら、侮って戦え得る相手ではないようだな」


「……なんだアイツ。魔法を使ったわけでもねえのにこんな攻撃。いったいどうやってるんだ」


「南の王国で火薬なる武器を見たことがあります。魔力無しに爆発魔法を繰り出すことができる薬品です。おそらく、それを進化させたものではないでしょうか」


 やがて炎が静まり煙がはける。体勢を立て直した赤い服の男が、再びキングエルフ達に手を向けた。


 発射される弾丸。どうやら、先ほどの攻撃はそう何度も繰り出せるモノではないらしい。すかさずキングエルフがエルフリアン柔術で応戦する――。


 だが!!


「なにっ!! 玉がふんどしにまとわりついて!!」


「キングエルフさん!!」


「おいっ、なにやってんだリーダー!!」


 敵もバカではない。キングエルフのふんどし捌きに絡め取られる弾丸。その対策をちゃんと練ってきた。粘着質の弾丸。ふんどしに張り付いたそれは、精妙無比なキングエルフのふんどしの扱いを狂わせた。


 重くなったふんどし。そして、その隙間を縫って弾丸がキングエルフの肉体を襲う。慌てて少年勇者がまたバリアを展開するが――間に合わない。


「ぐわぁああああっ!!」


「「キングエルフ!!」さん!!」


 鉛の玉を喰らって吹っ飛ぶキングエルフ。せめて仲間は守ろうと、弾丸を全てその身で受け止めた彼は、大きく後方へと吹き飛ばされた。

 くそうと今度は仮面の騎士が前に出る。少年勇者を庇うような格好だった。


「坊や!! キングエルフを連れて撤退しろ!! 一旦、体勢を立て直す!!」


「けどセイソさんは!?」


「俺がここでこいつを食い止める。任せろ、こういう殿戦は得意なんだよ。いいからお前は自分の心配だけしてろ」


「けど!!」


「黙って年上の言うことを聞いとけガキンチョ!!」


 仮面の騎士が少年勇者の身体を蹴る。そのまま彼は赤服のELFに斬りかかると、矢継ぎ早に剣戟をくりだした。修羅の如きその太刀筋。

 さしもの敵もひるんで後ろに下がる。


 早く行けとも、振り返りもしない仮面の騎士の背中に、少年勇者は苦々しい視線を向ける。しかし、ここは確かに彼の言葉に従うべきだった。

 こんな所で全滅する訳にはいかない。たとえ仮面の騎士を犠牲にしても、生き延びなければならない。少年勇者も冒険の中でそういう非情な決断は何度か経験している。今こそまさしく、その非情さを必要とされる場面だった。


「すみませんセイソさん!! 必ず助けに戻って来ます!! ですから、どうかご武運を!!」


「……ったく、いいからとっとと逃げろって言ってんだよ!! 大丈夫だ、俺がこの程度の相手にやられると思って――」


「セクシーハリケーン!!」


 なんだか感動の湿っぽいやり取りが行われる中、肌色の砲弾が少年勇者と仮面の騎士の隣を高速で飛んでいく。それは人間砲弾。いや、エルフ砲弾。

 例によって例の如く、身体を回転して前方に飛ぶキングエルフ。

 彼は回転エネルギーと慣性の法則で赤服のELFをたたきのめす。不意を突かれた一撃に、今度はELFの方が吹き飛ばされた。


 バチバチとその身体に電撃を走らせる赤服のELF。

 その前に、回転状態を解除したキングエルフが立ち尽くす。


 そのふんどしはズタボロになっていた――。


「ふっ。ふんどしを封じたくらいで、エルフリアン柔術を破ったつもりになられては困るな。我が武術――エルフリアン柔術は無敵!! 貴様のような姑息な手に破れるようなものではないとしれ!!」


「「……いや、めっちゃ今、攻撃喰らってましたやん」」


「……あぁ。もしふんどしが完全に破壊されていたら危なかった。全裸だったらきっと即死だった」


 ほぼ全裸と変わらない格好でなにを言っているのか。

 少年勇者と紅騎士はつっこもうとして辞めた。


 もうそろそろ、この規格外のトンチキリーダーの扱いに、彼らも慣れてきた頃合いだった。こいつ相手にまともにツッコんでいたら、疲れるだけだった。

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