第1124話 どワンコ教授とピキピキの実

【前回のあらすじ】


 あれやこれやとトラブルはあったが、バスに乗り込んだ女エルフたち。

 しかし破壊神の都市陣営はやっぱり手強い。ほんの少し外に出ただけだというのに、女エルフたちの下にすぐに駆けつけた。


 取り囲まれるバス。逃げ出すELFたち。丸裸にされる女エルフたち。

 絶体絶命。ここに女エルフ包囲網が完成した。ここからいったいどうやって脱出すればいいのか――そう思ったその時。


「だぞ!! 僕に任せるんだぞ!!」


「「「ケティ!?」さん!?」」


 飛び出したのはなんとワンコ教授。パーティーのお荷物キャラのはずの彼女が、バスの運転席に滑り込んだと思えば、そのハンドルを握りしめる。

 ちょっと見ただけで操作方法を理解した彼女。


 すぐにバスはイカスミ怪人工場のロータリーで暴れまわった。

 おぉ、なんということ――。


 これぞまさしくクレ○ジーバス!!


「だぞ!! このままイーグル市まで、安心安全お届けなんだぞ!! 僕に任せるんだぞ!! わんわんわおーん!!」


 野生の血全開で猛り狂うワンコ教授。

 まさか彼女の中にこんな激しい性質が隠れていたなんて――。


「いや、どうせこれもVネタなんでしょう?」


 人気ランキングってすごいですよね。

 気がついたら本当にトップ三人ヘビーローテーションしているんだから。


◇ ◇ ◇ ◇


「おらおらおら!! どけどけどけじゃまだーなんだぞ!!」


「け、ケティさん? なんだかいつものケティさんじゃないような?」


「どうしちゃったんですかケティさん!! そんな乱暴な言葉使いする人じゃなかったじゃないですか!! ダメですよ、そういうこと言っちゃ!!」


 テンション振り切ったワンコ教授。向かってくる黒服を次々に轢き倒す。さらにドリフトをかましてバスを左右にがっくんがっくん揺らすと彼女は道路に飛び出した。

 そこからもやりたい放題。反対車線に入り込み、歩行者道路に乗り上げて、車を跳ね飛ばし小屋に突っ込みのやりたい放題。


 クレイジーバス。まさにクレイジーバス。乗せちゃいけない、こんな凶暴ワンコを車に乗せたのが判断ミス。ワンコ教授は本能のままに車を走らせるのだった。


 ※ 凄惨な状況ですが、みんなロボットELFということでどうか一つご容赦を。


 そのあまりのキャラの豹変ぶりに一同絶句する。

 いったい何があったのか――その時、揺れる床の上を緑色をした何かが転がった。


 拾い上げた女エルフが、これはと眉を顰める。


「ピキピキの実じゃない!! どうしてこれがこんな所に!!」


【やさい ピキピキの実: 緑色をしたふっくらしたお野菜。お肉を詰めても美味しいよ。ただし、犬に与えるとピキピキピキーってなって凶暴化するので注意】


 どうしてこんな所に落ちているのかピキピキの実。しかも、先端がちょっと囓られている。間違いない。ワンコ教授はこの実を食べて凶暴化したらしい。


 気づいた所でどうしようもない。ワンコ教授の駆るバスはついに街中を出てジャングルの中へと突入する。道なき道を爆走するクレイジーバス。ELFから今度は木や牛、ゴリラにぶつかる対象を変えて、バスが土煙を上げる。


 そのあまりの激しさに、うっぷと新女王と女修道士シスターが青い顔をした。


「うぅっ、ケティさん。お願いですからもう少し。もう少しだけ手心を」


「なんというドライビングテクニック。ケティさんにまさかこんな才能があったなんて。エリィはてっきり、ケティさんは私と同じで……おろろろろ」


「ちょっとアンタ達だらしないわよ。この程度の揺れでなにを酔ってるのよ」


 みんなが倒れる中で、一人平然としている女エルフ。

 流石は森の中に住まう一族、根本的な身体能力がちょっと違っていた。

 また遺伝的な身体の頑強さは実の兄で折り紙がついていた。


 ちょっともう無理ですと座席に座った新女王と女修道士。天井を見上げて、だらしのない声と魂を二人は上げる。そんな二人を尻目に、女エルフは運転席へと向かう。

 ハンドルを握りしめ、アクセルを吹かし、オラオラオラーと暴走するワンコ教授。


 うぅん、と、女エルフここでひと唸り。


 後ろを振り返れば既に追っ手の姿はない。

 遠くダイナモ市はもはや影も見えなくなっている。

 ここまで来れば大丈夫だろう。もう追っ手は撒いたと思ってよかった。となれば、こんな暴走運転を続ける理由はない。


 ワンコ教授と特別仲の良い二人はちょっとグロッキーダウン中。男騎士パーティのサブリーダーとしても、彼女がびしっと決める場面だ。仕方ないと彼女は血気に逸るワンコ教授の肩を叩いた。


「ケティ。お楽しみの所悪いけれど、もう大丈夫よ。ちょっとバスのスピードを緩めてちょうだい」


「あぁん!? うるせーなー!! エルフは黙って後ろで座ってな!! 僕がすぐにイーグル市まで運んでやるでな――だぞ!!」


 完全にピキピキの実がキマってしまっている。

 いつもはあんなに良い娘、天真爛漫なワンコ教授。それがどうしてここまで凶暴なベルセルクになってしまうのか。

 いやけど、口だけだろう。


 女エルフは深呼吸するとその肩を掴む。強く、言外に今すぐやめろという感情を込めて、彼女はワンコ教授に掴みかかった。


「ケティ。もう無理しなくていいのよ。危機は去ったの。もう無理しなくて」


「うるせーっ!! 黙ってけてぃのいうとおりにしろーっ!! おらよーっ!!」


 猫パンチならぬ犬パンチ。

 ワンコ教授の繰り出したパンチが女エルフの頬に炸裂する。軽い一撃と思いきやさにあらず。結構な威力に女エルフは近くの席までぶっ飛んだ。


 まさかそんな攻撃が出てくるとは思っていなかった。

 ワンコ教授のフィジカルを侮っていた。


 いや、というよりも――。


「もしかして、ピキピキの実で身体能力が強化されているっていうの?」


「メンタルだけ強化されたと思っていたのに、それだけじゃなかったんですね」


「今のケティさんは荒ぶる狂犬。ここはちょっと様子を見た方がよさそうですね」


 ピキピキの実が変化させたのはワンコ教授のメンタルだけではなかった。

 その小さな身体もピキピキにさせて、つよつよワンコに変身させてしまったのだ。


 ダボッとした白衣を着たマスコットキャラクターはもういない。

 かわいいとつよいを兼ね備えた、バーサーカーわんこがここに爆誕した――。


「あらよ!! おらよ!! ぎゃははははっ!! あっ、待って待って、それはないよー!!」


「「「うーん、しかしこれはいくら何でも」」」


『パロ元に引っ張られ過ぎぐわっ!! 語尾くらい変えるぐわっ!!』


 ホロの狂犬ネタにしても、ちょっと引っ張られ過ぎ――あ、すみません、ごめんなさい小説書きなので指は勘弁して、あっ、あっ……。


「YUBIYUBI!!」

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