第950話 ど男騎士さんと粉塵爆発

【前回のあらすじ】


 消えかける男騎士の魂を復活させるべく生命力を鼓舞するハメになった女エルフ。


 しかし、彼女はやると言いながらも怖じ気づいてしまった。

 それがドスケベなポーズであることに怖じ気づいてしまった。


 そう、生命力とは明日を生きようとする人の活力。

 死を前にして生存本能が揺り動かされて、いろいろ活性化するように、エロいのが直に効く要素だったのだ。


 生命力とは、魂とは、海綿体のようなものだったのだ。


 恥じらう女エルフ。

 そんな彼女に容赦なくエロいポーズを要求する男騎士。

 いつもながらのどエルフなやりとりかと思いきや、男騎士がつい加減を間違った。ついつい熱が入って、いつものバイオレンス突っ込みを女エルフから引き出したのが運の尽き。哀れ男騎士の身体はたちまち爆発。粉みじんに砕け散ったのだった。


 砂のように溶けて宙を舞っていた男騎士の魂。舞い立つそれに火など近づければ、たちまち粉塵爆発が起こってしまうというもの。


 迂闊、あまりにも迂闊だった女エルフ。

 男騎士を救うつもりが、逆にその魂にとどめを刺した。


 はたして男騎士は無事なのか。

 粉塵爆発に耐えられるのか。

 間に合うのかドスケベなポーズ。

 効くのかドスケベなポーズ。


「いや、もう、手遅れでしょ」


 自分でやっておいてなんていう言い草だ。流石だなどエルフさん、さすがだ。


「それにしたってあの弄り方はないでしょ!! 誰だってやりたくないわよ!!」


 そんなこんなで、『第八部 深海チン○ツ都市オ○ンポス』もついにクライマックス。はたして魂さえも消失しそうな男騎士達は、無事に冥府神ゲルシーの下へとたどり着けるのか。


 今週もどエルフさん、はじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「ティト!! ちょっと、大丈夫ティト!! けほ……けほっ、うぇっ、甘ったるい匂い……」


「なるほど、ティトの魂は砂糖でできていたんだな」


「なるほどってなに!? そんな魂が砂糖で出来るとかあります!?」


 慌てる女エルフに妙に落ち着いている魔剣エロス。

 そんな彼女達の前に、甘ったるい匂いが籠もった白煙がたちこめる。


 はたして、男騎士は無事なのか。

 女エルフの火炎魔法により彼の魂はどうなってしまったのか。


 爆発しているのだ。もう粉みじんではないのかという不安が頭をよぎる。だが、そこは女エルフも男騎士との付き合いが長い。このような絶望的な状況からでも彼は何度も蘇ってきた。女修道士シスターや彼女の母と言ったいろんな人の助けもあったが、もはや死んだと思われた状況からでも、彼は何度も帰ってきた。


 今度もきっと大丈夫。

 いや、大丈夫でないと困る。

 どうか大丈夫であってくれ。


 そんな心地で女エルフは煙のなかに目をこらした。


 はたして、その時、煙の中に影が見えた――。


「あぁ!! ティト、無事だったのね!!」


「なんだ消滅しなかったのかティト。お前もよくよくしぶとい奴だな……」


 女エルフが魔剣を差し置いて影へと駆け寄る。はたして、それは男騎士と変わらない背丈、変わらない胴回り、確かに男騎士に見えなくもなかった。

 だがしかし、近づくにつれてその輪郭がもこもこしていることに気がつく。


 そう、やはりそれは男騎士ではない。

 それは、彼の形を模した――。


「どうも、僕は綿菓子の精霊コットンキャンディくんだよ。みんな、よろしくね」


「なんか見たことない精霊が出てきた!!」


 謎の精霊だった。

 白色のもこもこ。綿菓子の精霊を名乗るコットンキャンディくんであった。

 なぜそうなると女エルフその場でずっこける。だが、そんな彼女をよそに、魔剣だけはなるほどなといかにも事情を察する声をあげた。


 いったい何がなるほどな、なのか。

 起き上がりざま女エルフが魔剣を見る。

 その視線に気がついて、魔剣はいまいち事情が把握できていない女エルフに、この事態について説明をし始めた。


「いや、さっきティトの魂が砂糖でできているって言っただろう?」


「……言ったわね。まぁ、まさかそんなことはないと」


「だからさ。砂糖が熱されて、爆風で膨張してわたがしになったんだ。つまり、コットンキャンディくんは、ティトの生まれ変わりなんだよ」


「いや!! そうはならんやろがい!!」


 女エルフの渾身のツッコミが魔剣に入った。

 しかしながら、爆発はともかくとして、熱された砂糖がわたがしになるのは一般常識。遠心力により溶けたザラメを吐き出して、それを竹串や割り箸でからめとることにより綿菓子が作られる――というのは小学生でも知っている。


 砂糖でできているティトの魂が粉塵爆発すれば、それは当然の話だった。

 簡単なQEDであった。


 なんだ、知らないのかと魔剣があきれるのも仕方ない。

 こればかりは女エルフの無知が悪い。


 などということはない。

 そもそも、男騎士の魂が砂糖であるという所から無理があった。


 そもそも魂である。なんでそれが熱されるのか、綿状になってしまうのか。考えれば考えるほど不条理以外の何物でもない。


 女エルフ、思わず頭を抱える。


「うそ、本当にティトを消滅させちゃったの? 私が、やっちゃったの?」


「モーラちゃん」


「お姉さん」


「こんなことなら、言われた通りエッチなポーズをとっておくんだった。どんなに恥ずかしくってもスケベなポーズをとっておくんだった。ごめん、ごめんね、ティト。私がしぶったばっかりに。私が恥ずかしがったばっかりに」


「モーラちゃん仕方ない。こればっかりは、煽ったティトも悪かったから」


「そうですよお姉さん。コットンキャンディくんがいるじゃないですか。良かったら僕の身体を食べますか? 甘いですよ?」


 しれっと会話に混ざってくるコットンキャンディくん。

 親切の押し売り方が正義のヒーローみたいに強引なコットンキャンディくん。

 その親切が痛いとか辛いとかの前に女エルフにはうざかった。


 うざいがそれよりも先に悲しかった。

 

 男騎士を失った女エルフの慟哭が海底都市オ○ンポスに響き渡る。

 無情かな、やはり男騎士の魂は消滅してしまったのだ――。


 そう!!

 誰もが!!

 思った!!

 そのとき!!


「涙に暮れるのはまだ早いぞモーラさん!!」


「えっ……?」


「なにっ!?」


「まさか!! パパ!? 僕を産んでくれたパパなのかい!? 生きていたの!?」


 まだ微かに漂っていた霧の中、二つ目の影がその場所に現われる。

 甘くかぐわしい白い煙がゆっくりとはけていくなか、現われたその姿に見覚えがある。男騎士と同じ背丈、同じ胴回り、そして――。


 コットンキャンディくんと同じ、もこもことした身体。

 そこには二体目の綿の妖精がドヤ顔で立っていた。


 しかも、違うところまで勃たせていた。

 ファンシーな見た目なので、それほど見た目のダメージはないけれど、それでも下品な感じに盛り上がっていた。


 いったい、彼はなんなのか。

 コットンキャンディくんよりいくらか男らしい声色でそいつは――。


「俺の名前はカイメンタイくん!! コットンキャンディくんの兄弟!! そして、コットンキャンディくんよりも伸縮自在のヤバい奴!!」


 コットンキャンディくんよりヤバい綿の精霊だった。

 たしかにそんな見た目だけれど。海綿そんなかんじだけれど。そんな精霊にはならないでしょうという酷い精霊だった。


 白くてもこもこしてればなんでもいいんかい。

 そんな無言のツッコミが辺りに漂った。


「に、兄さん!! まさか、兄さんだというか!!」


「待たせたな弟よ!! そして、モーラさんとやら!! エロいポーズなら、俺が代わりに貰うぜ!! さぁ、バッチコ――」


「ファイヤダンス(こんがり強火)!!」


「「おぎゃぁああっ!! 溶ける!! 溶けちゃう!!」」


 コットンキャンディくん、カイメンタイくん、兄弟揃って燃やされる。


 あまりにも出落ち。

 もはや出たら燃やされるか消えるか、それくらいしか使いようのないキャラ。

 そしてなにより、発言があまりに残念すぎた。

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