第905話 壁の魔法騎士としがらみを振りほどく時

【前回のあらすじ】


 師弟揃っていろいろと重たい。

 かたや弟子に対して最愛の女性という弟子以上の重たい感情を向けている冬将軍。

 そして、そんな冬将軍のことを夫として許せない独占欲の固まりの壁の魔法騎士。


 まさかまさかの挑戦者と○金闘士の共闘。

 と、思わせていきなりの反目。


「ユリィに近づく悪い虫は俺が全部倒す!!」


「やだ、ワシの弟子、独占欲強すぎ!?」


 壁の魔法騎士の全てを断つ壁魔法が師を襲う。

 はたして、壁の魔法騎士は師匠を倒すことができるのか――。


「というか、ほんと、なんでこの作品の登場人物は、皆揃いも揃って業が深いというか、なんというか」


 あ、今週も出番なかったですねどエルフさん。

 めっきりヒロインしてなくって、タイトルに偽りありな感じですねどエルフさん。

 最近はどエルフネタも落ち着いてきて、数ヶ月に一回レベルでしか「流石だなどエルフさん、さすがだ」って言われてないですね、どエルフさん。


「いや、こっちは平和でいいんだけれどね」


 とまぁ、そんなヒロイン不在の状況にもかかわらず、話しは進むのであった――。


◇ ◇ ◇ ◇


 壁の魔法騎士怒りの壁魔法連射。

 獅子宮で闘った荒獅子との闘いよりもさらに激しく。そして、色んな意味であらっぽく壁を展開すると、壁の魔法騎士は師匠である冬将軍に怒濤の攻勢に出る。


 荒れ狂う波濤のように冬将軍に襲いかかる壁。

 しかしながら、戦略クラスの魔法を向けられた当の本人は、いたって冷静、少しも狼狽えることなくそれをにらみ据えていた。


 はぁ、と、白いため息が漏れたかと思えば――。


氷の絶壁アイスクライム


 壁に対して氷の板が相殺するようにぶつけられる。

 そう、まさしく相殺。おびただしい数の壁に対して、同じく氷の板がぶつかりあって、その怒濤の攻撃を食い止めたのだった。


 別に驚くことは何もない。

 壁の魔法騎士にとって冬将軍は師匠である。それは、形式張ったものではない。弟子が土魔法の使い手であり、師匠が氷魔法の使い手であるという些細な違いこそあるが、その技そのものには共通したものがある。


 嫉妬に狂ってはいるが壁の魔法騎士。彼とてリーナスの自由騎士だ、闘いの中で冷静に彼我の戦力について把握できない訳がない。目の前で対峙する師匠――その衰えぬ魔法の技に、忌々しく舌打ちしていた。


「ふむ、お前のそれも随分と成長したものじゃな。自分のモノにしている」


「……貴方の教え方がよかったからな」


「しかし、まだまだ私の模倣の域を出ていないな。その程度では、全盛期の私には劣るぞ、ゼクスタントよ!!」


 氷の板の数が増す。かつて、中央大陸連邦共和国に押し寄せた暗黒大陸の軍勢。それを、圧倒的な数によって押し返した、壁魔法が完全に封じ込められる。


 宝瓶宮という限定された空間だからではない。

 広汎な大地でしかその魔力の真骨頂が発揮できないからではない。

 純粋に力で競り負けているのだ。


 これだ――と、壁の魔法騎士が苦渋を額に滲ませる。それはかつて、彼が見た光景。脳裏に焼き付いて離れることのない、圧倒的な力のあり方。今、彼が使っている壁魔法、その根底にある力のイメージその根源。


 押し寄せるは氷の柱と壁の猛威。まるで氷の国でも作るのかとばかりに、周囲に乱立されていくそれを目の当たりにして、壁の魔法騎士は地面を蹴って大きく背後へと飛んだ。それを追うように、氷の竜が追い立てる。


 まるで生命体のように巨大な氷像を操ってみせるその魔力、その技術。

 リーナス自由騎士団にあって、長らく閑職に甘んじてきた老人とは思えぬその凄絶なる魔技の前に、壁の魔法騎士は荒々しい息を吐き散らしながら、その手を向けた。


 同じく、石造りの竜ができあがったかと思うと、お互いに喰らい会う。

 魔力の生命体。それがお互いを貪り合って瓦解すると、騎士団にあって異端の存在である魔法使いたち二人は、だからこそ通じ合える視線を交わした。


「やはり天才じゃのう。私が人生を賭けて到達した域に、その若さで辿り着くとは」


「さっき言ったように、全ては貴方のおかげです。貴方という見習うべき師がいたからこそ、私は迷わずここまで辿り着くことができた。貴方という先人がいたから、壁の魔法騎士ゼクスタントが誕生した」


「そう褒めるな。お前には、魔法の操り方は教えてやれたが、このような戦略レベルでの行使については、めっきりと教える時間がなかったからのう」


 冬将軍は、老いてからその才能を開花させた。

 リーナス自由騎士団でも、遅咲きの騎士である。


 魔法の修練とは剣の修練とは異なり、長い年月をようするものであり、また、同時に剣技のように若さを必要としない。彼が騎士団長となるのに時間がかかったのも、結局はそのような長い準備期間が必要だったからだ。


 しかしながら、魔法に若さがまるっきり必要ないかと言えば、それもまた別の話。


 老いた身体で呪文を詠唱し、絶えず魔力を滾らせるのもまた難しい。

 故に、リーナス最強の地位に収まり、騎士団長として信任を受けて後、彼が真っ先にしたのは、その到達した魔術の技をあまねく弟子に伝えることであった。


 そう、自分よりも遙かに秀でた才能を持つ、可愛い弟子に。


「愛しい男であったならば、お前が出て来たであろうよ、ゼクスタント」


「気持ちの悪い前提の話しをするな冬将軍」


 師と弟子。

 今は立場は入れ替わったが、それでも、二人の間には深い絆がある。

 思いがけない展開での闘いとなったがしかし、彼らの間には、憎悪や怨嗟と言った後ろ暗い影は少しもなかった。


 ほんの少し、お互いに対する嫉妬の感情はあったが。


「ユリィをこの世で最も愛しているのはこの俺だ!!」


「いいや、彼奴を育てたこのワシじゃ!!」


「「白黒はっきりつけようじゃないかこのバカ師匠!!」弟子!!」

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