第886話 ど男騎士さんとバンコ

【前回のあらすじ】


 磨羯宮へと辿り着いた男騎士と女エルフ。

 扉を開ける前からビンビンと感じるおそろしいプレッシャー。彼らは中で待っている○金闘士がこれまでにない英雄だということを扉の前にいながら察した。


 恐れ知らず、これまでありとあらゆる難敵にも立ち向かってきた男騎士。

 その身体が思わず恐怖に止まるほどの強キャラ感。

 扉の向こうに待つそれに、果たして勝てるのだろうか。


 そんな恐怖に囚われた当代の英雄を、彼の介添人である女エルフが励ます。彼ならば、きっとどんな困難にも打ち勝つことができるだろうと。


 はたして、恐怖を克服して男騎士が磨羯宮の扉を開く。

 その中で待っていたのは――。


「我が真名は――アーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥク!! 人類が望む最強の英雄僕の考えた最強のサー○ント!!」


「「古今東西の英雄がいっぺんに来たァ!!」」


 さて、ここで一言補足しておきたい。

 バフバリの元ネタは実在する伝説や人物に関係ないのではないか。

 古今東西の英雄大集合にそれはおかしいのではないか。

 そうお思いになった読者も多いだろう。


 また無知を晒したなこの作者と先週笑った人も多いだろう。だが、あえて言おう。この作品はだいたい三ヶ月分の書き溜めを経て世に出ていると。

 バフバリについては、あえて承知で名を出した。

 何故か――。


「インドの英雄とかわからんから! カル○さんとかアルジュ○とか出すのはおそれおおいから! 拙作でパロるのははばかられるから!」


 筆者がFG○インド勢だからである!

 インドの英雄についてはカル○一択で、もはや出てこないからである!

 スキルマ宝具2フォウマの上に霊衣解放でスーパー運用しているからである!


 なので、インドは犠牲になってもらった――。


「いいからとっとと本編はじめなさいよ!」


※一つだけ違うやんってなって笑ってもらいたくて入れただけだから、気づいた人はサンキューだぜ!


◇ ◇ ◇ ◇


「バカな! いいのか、そんな古今東西の強い奴が超合体した英雄なんて!」


「いいわけないでしょ! そりゃおそろしいプレッシャーが伝わってくる訳だわ! というか、どうなってんのこれ! どういう理屈で一緒になってるの! 別人よね彼ら!」


「いや、歴史に詳しくない俺にそんなことを聞かれても!」


「そうだった、こいつ知力1だった! 聞くんならケティだった! けど、ケティは下の階に置いてきちゃった!」


 男騎士と女エルフの前に現れた金髪の偉丈夫。

 白い鎧に身を包み、眉目秀麗整った顔をした彼は、狼狽える男騎士達を前に悠然と立ち塞がっている。

 そして、男騎士達が口にした疑問に対して、微塵も反論する素振りがない。


 揺るぎない自信がそこには満ちあふれている。

 そう、まるで男騎士達の疑問などどうでもいい、心底関係ない、そんな疑問をぶつけられた所で今更どうなのだという、そんな自信が。

 いっそ開き直っている、やけっぱちとも取れるその態度。


 だがしかし男騎士達の言葉をものともしない彼の反応は、逆に彼らが当たり前に抱いた疑問が、何か途方もなく馬鹿げたことを言っているのではないかという、そういう戸惑いを引き起こした。

 自分たちが間違っている、そう男騎士達に思わせたのだ。


 はたして、そんな感覚を男騎士達に植え付けたところで、その眉目秀麗な伝説の英雄の唇が再び開かれた。


「お前達が驚くのも無理はないだろう。私たちとて、このような事態になったことに我がことながら驚いているのだからな」


「なっ!! 自分でも驚いているだって!!」


「ちょっと待って、どういうことなの!!」


「どういうこともこういうこともない。我々は、確かにお前達が指摘した通り、元は別々の時代を生き、別々の大陸に覇を唱えた英雄達である」


 男騎士達の疑問は間違ってはいなかった。

 磨羯宮の○金闘士。彼が自ら語ったとおり、その名を構成するそれぞれの名は本来であれば別々の時代を生きた英雄の者であった。


 遠き東の果ての島、ひょっこりブリテン島の独立のために闘った王――アーサー。

 圧倒的な軍事的な才覚により中央大陸にかつて存在したロマ国の版図を広げ、政争の末に帝国の礎を築いた終身独裁官――カエサル。

 蠍の王スコーピオン・キングと同郷。中央大陸の南の地に一大王朝を開いた文明王――ラムセス。

 文明崩壊期。幾つもの小国に中央大陸が別れていた頃、貪欲に小国を吸収して、南の王国の祖を築き上げた――シャルルマーニュ。

 文明が開化した東の島国において、中央政府の威徳を示すため、その生涯を蛮族討伐のために捧げた大将軍――サカノウエ。

 羊飼いから美貌と口と機転で成り上がったスーパーロクデナシ――ダビデ。

 筋肉そしてダンス、最強のソリューションとは即ち力と証明した――バフバリ。

 かつて東の島国まで遠征を行い、この世の果てを見た冒険家にして最も広大な王国を築いた征服王――アレクサンドロス。

 そして、コウメイが仕え、数多の一騎当千の英雄達が慕った名君――ゲントゥク。


 どうしてそんな彼らが一人の英雄としてまとまっているのか。


 ふと、その時、天啓が女エルフの頭に舞い降りた――。


「そうか、そういうことね!! それが、このフロアの妖怪の能力ということなのね!!」


「なんと――そんな妖怪がいるというのか!!」


「……然り。しかしながら、我ら伝説の英雄にしてその荒ぶる魂を一つに束ねるのは容易にあらざる。これをまとめるのは妖怪の類いなどでは力不足。即ち、我にとりつきし怪異は、妖怪にして神に迫りし超常存在――その名はバンコ!!」


【妖怪 バンコ: 死してこの世界の礎――大陸になったと言われている超常存在。神々がこの世界を統治する遙か前からこの世界に存在していたとされる、神よりもさらにひとつ上のレイヤーに存在する概念。神たちの神。しかしながら、現在ではその神格を落とされて、少し違った見方がされている】


 その名に女エルフが戦慄する。


 神よりも前に存在した怪異。

 神々が殺した、先の時代の神。

 そんなものが彼らに憑いているのかと。


 だとすれば、これから彼らが闘うのは、英雄ではなく神ではないのか。

 神をも越える怪異に、はたしてただの人である自分たちが勝てるのか。


 いや、違う、と、女エルフが頭を振る。


 そう彼女は知っていた。

 バンコという存在が持つ違う意味を。

 現在、世界で信奉されている七つの神。

 彼らの存在により、先の時代の神はただの怪異に成り果てたのだ。


 そして、だからこそ、今、このように英雄たちに憑依している。

 その魂を束ねて、一つの存在にするという奇跡を成している。

 それはバンコが背負いし怪異としての一つの側面。


 この一連の怪異、それを解く答えに、女エルフがついに肉薄した。


 その時――。


「○、○ンコだってぇっ!?」


 何も知らない男騎士が、聞き間違えにより恥ずかしいことを言い出した。


 もはやお約束。

 ンコと聞いたら、やらなくちゃいけないテンプレ。

 そんな脊髄反射な反応だった。


「バンコよバンコ!! なに考えてんのよ、この万年脳内ピンク男!!」


「そんな、モーラさん!! 女性がそのような言葉を何度も繰り返し言っては!!」


「だから違うって言ってるでしょーが!!」

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