第803話 ど男騎士さんとご相談

【前回のあらすじ】


 太陽の牡牛ことあるでばらん。

 その恐るべき力が猛威を振るう。


 かませ犬の代名詞と言ってもいい読みを吹っ飛ばして、領域展開により男騎士たちをずるずるとそのワールドへと引きずり込む。


 そう、お昼のまったりどろどろお下世話トークショー。


「こういうのって最近見ないわよね。ほんと、今は需要ないのかしら?」


 どうなんですかね。

 ユーチューブに需要を取られたか、SNSで発散できるようになったのか。


 とはいえ、なんにしても、このトークショーは厄介。

 はたして男騎士は、あるでばらんのトークに打ち勝つことができるのか。


 というか、そもそもこの試練はなんなのか。

 勝利条件はなんなのか。

 本当にお悩み相談室なのか。


 そう、知っている人は、知っている。

 この番組がお悩み相談の名を借りた、悪辣な公開処刑であるということを――。


「え、これ、そういう感じの奴なの」


 まぁ、僕もそんな見てなかったですけれどね。

 けどね、だいたい相談者はこういわれるんです。


「奥さん、そりゃアンタが悪い」


 ってね。


◇ ◇ ◇ ◇


『えー、あのー、まずー、アタシこう見えて、熟れ熟れの五百歳熟女エルフってことで、やらせていただいているんですけれどー』


「まぁ、熟れ熟れの五百歳熟女エルフ。それがお仕事?」


『えぇ、まぁ。それで、こう、人前に出て行って、どやさって顔をする訳ですよ。これが五百歳エルフの貫禄よォって。けどまぁ、その、最近ちょっとそのネタもマンネリ化してきてぇ』


「マンネリ。いや、ちょっと待ってね、そもそもどういうそれはどういうお仕事? 水商売系? もしかして同業者さん?」


『あ、そういうんじゃなくてですね。あれです、いわゆる冒険者っなんですけど』


「冒険者なのに熟女キャラ。へぇ、すごいねぇアンタ。立派なもんだ」


『いやー、それほどでもまぁー、ないんですけれどー。うちのパーティーの三百歳エルフが、いまひとつまだウワキツを極めきれていなくてぇー。仕方なくやってる側面があるって言うかー』


 おい、と、また思わず横やりを入れそうになる女エルフ。

 すりガラスの向こう、びくりと肩を男騎士が震わせるのが見て分かった。


 なんの断りもなく自分を引き合いに出されるのも業腹。

 だが、自分のことをいまいちウワキツを極めきれていないと称されるのも業腹。


 いや、別に女エルフは自分からウワキツになろうと思っている訳でもないので、そんなの放っておけばいいのだが、それにしたってあまりに勝手な男騎士の言い草に、思わず口を挟まずにいられなかったのだ。


 というか、好きでやっていることではないのか。

 エルフィンガーティト子は、男騎士が好きでやっているんじゃなかったのか。

 それをまるで、人のせいみたいに言われれば、そりゃ腹も立つ。


 どうどうとなだめすかせる法王ポープと新女王。

 射すくめるような女エルフの視線。擦りガラスで止めているとはいえ、男騎士、これはちょっとやりづらいなと、思わず居ずまいを正すのだった。


 おほん、と、ここで咳ばらいを入れたのは太陽の牡牛。


「ちょっとモーラさん。この人も真剣に悩んでいらっしゃるんだから、余計な茶々を入れるのはおよしなさいよ」


「いや、だってそいつはねぇ」


「ティト子さん。まぁ、あの人のことは気にしないで。それでいったい何を悩んでるんです。あなた、立派にウワキツ五百歳熟女エルフやれてるじゃないですか」


『そう言ってくれると、本当にありがたいんですけどォ……』


「何事もなかったかのように話をつづけるなや、しばくぞ!!」


 いますぐぶん殴ってやりたい。

 男騎士も、太陽の牡牛も、まとめてぶっ飛ばしてやりたい。

 けれど、太陽の牡牛の魔法により、椅子に尻を固定されていて動くにも動けない。


 ぐぎぎと女エルフが歯ぎしりをしながらも、話は続く。

 しかも、絶妙のタイミングで太陽の牡牛ことあるでばらんが救いの手を差し伸べたことで、男騎士もといティト子はちょっと彼に心を開いていた。


 この人は、ちゃんと自分の話を聞いてくれる。

 別にやりたくてエルフィンガーティト子なんてやっている訳ではないのに、周りに誤解されている自分のことを理解してくれる。

 やっているうちに、なんだかちょっと楽しくなって、メイクとかに力を最近入れ出しているけれど、それでもやっぱり抵抗感のある女装に理解がある。


 この人なら話していいかもしれない。

 そう思って、男騎士は擦りガラスの向こうで頭を上げた。


『それで、あの。私、そろそろ次のステージに進むべきなんじゃないかなって。パーティーメンバーの前でも胸を張って、私がこのパーティに咲いた一輪の華だ。パーティの顔役にしてヒロインよって、もっとこうぐいぐい行くべきかなって』


「ぐいぐい行っちゃいなさいよ」


「行かすな!! 馬鹿!! そいつはパーティーのリーダーやってんの!! ヒロインはこのアタシ!!」


『けどほら、あぁいう、中途半端な三百歳エルフがいる訳で。ぶっちゃけ、彼女が頑張ってヒロインしているのも分かるので。それを私が横から盗っちゃうのも、それはそれでどうかなって思っちゃうんですよ。どうですかね、これ、私はどうしたらいいですかね』


「どうもせんでええわ!! そんな悩み、今まで一度も言わなかったやろがい!! いきなり話の都合で適当言ってんじゃないわよ!! このおバカ!!」


 だからちょっと黙ってなさいよと太陽の牡牛。


 うぅん、と、その日に焼けた顔にしわを寄せて彼は、悩むそぶりをみせる。

 長考――というほどではないが、どうしたものかと言う感じにおもわせぶりにかぶりを振った彼は、おもむろにその口を開いた。


 そう、凶暴な笑みと共に――。


「ティト子さん、そりゃ、アンタが悪いよ」


「……え?」


 裏切られる信頼。

 信じて相談したテレビの司会にアンタが悪いと言われてしまうこの衝撃。

 男騎士、擦りガラスの越しなのに、落胆がありありと分かる動きを見せた。


 一方、女エルフ。


「よし!! 分かってるじゃないの!! もっと言ってやんなさい!!」


 一転して同調する。

 これまでさんざんに男騎士に弄られてきた彼女もまた、簡単に司会の掌返しに乗ってしまうのだった。


 ほんと、身から出た錆とはこのことである。


 流石だなどエルフさんもどティト子さん、さすがだ。


 ここで思いがけず、日頃の行いの悪さが仇となって出た。

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