第780話 どエロスさんと神殺し免状

【前回のあらすじ】


 女修道士シスターの得意技であるギリモザ。

 局部が露出しそうなときに降り注ぐ謎の光。それを一極集中させることにより、強力な破壊光線へと転じて見せたのは流石としか言いようがない。


 死んでなおスケベ。

 本作品のセックスモンスターことシコりんによる、華麗な助太刀により、男騎士たちパーティは全滅の所をなんとか回避することに成功したのだった。

 しかし。


 そんな感動もつかの間。


「たった一目で何が起こったのか理解するとは、流石エロいことばかり常に考えているエロ強者は違う。モーラさん、やはり――」


「「「「流石だなどエルフさん、さすがだ!!」」」」


「なんでそーなるのよ!!」


 第七部もいよいよクライマックスというのに、安定のどエルフオチをかます女エルフなのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「という訳で、この状態になった私の攻撃は一味違いますよ。ティトさんとモーラさんも合流して、戦力は更に倍。流石に勝ち目がないことを悟ってはいかがです」


「……ほぅ」


 黒い霧をまとった異形の女。

 その口元が吊り上がる。

 元はからくり娘だが、その表情は明らかに機械のそれではなくなっている。

 人間と相違ないその相貌に妖艶な色が満ちたかと思うや。彼女は再び腕を天へと掲げて、その緋色の瞳を光らせた。


 腕から発せられる黒色の瘴気がまたしても暴威を振るう。

 黒いかまいたちがひときわ大きく渦巻いたかと思えば、今度はそれは波濤さえも切り裂いて、男騎士たち一団を襲った。

 迫りくる災厄の渦を前にして身構える男騎士たち。


 しかし、それに毅然と立ち向かって、女修道士シスターは再びセクシーポーズを決める。


 取ったポーズは女豹の姿。

 臀部、股、二つの垂れたおっぱいが一直線に並んだその下を、くぐるようにして一直線の光線が走る。


 セクシー破壊光線。


 三重のスケベゾーン連結による圧倒的な熱源光線は、迫りくる黒い瘴気を鎧袖一触にして霧散させた。


 仲間たちには指一本触れさせるものか。

 女豹の背筋に気合が迸る。


 塵芥。

 海上に散った黒い瘴気を再びまとめて異形の女、彼女は次は鋭き刃の如くそれをまとめて女修道士シスターへと振るう。しかし、その太刀筋はまたしても、彼女が操る世界の理によってかき消されるのだった。


 繰り広げられる神秘の光景。


 神代の攻防かくやという激しい攻撃に誰もが息を呑む。

 そんな中――。


「ティト!! もうすっかりと身体は回復しているか!!」


「……あ、あぁ、エロス。助っ人か。しかし、今、二人が尋常に戦っているというのに、割り込んでしまっていいのだろうか」


「馬鹿野郎、そういうこと言っている場合じゃねえんだ!! よく見てみろ!!」


 焦る魔剣の言葉に男騎士が目を凝らす。


 繰り出す光線。

 弾ける暗黒。


 古の歌にあるような神々の攻防の如きその光景。

 決して人の入る余地なき争いを前にして、男騎士はすっかりと戦士であることを忘れていた。そして、今の状況を冷静に俯瞰することができていなかった。


 魔剣エロスの言葉で、彼はようやくそれに気が付いた。


 そう。


「さっきから、おヘルス仮面の攻撃が通っていない!?」


「そうだ。あれだけの高出力ビームを放っておいて、それが全部中和されている。これがどういう意味か分かるか、ティト」


「……む、難しい理論はよく分からない」


 そこは男騎士。

 流石の知力1である。冒険者技能で戦闘であればいろいろと補う彼も、この想像を絶する、人の手を離れた戦いを前にしてその知啓も鈍った。

 そんな彼に代わって、その種明かしをするのは魔剣。


 かつての大英雄。

 そして、今、おヘルス仮面が戦っている異形の女とは違うもう一名。

 道化いつわるもののジェイミーと因縁深き男であった。


 彼は知っている、その理由がなんであるかを。


神殺し免状ゴッドスレイヤーと言ってな。神々及び、その使徒である生命体にダメージを与えるためには、神々から英雄と認められて、神を殺しうる資格を与えられなくちゃいけない」


「……そんな資格、俺は貰った覚えはないが?」


「魔神シリコーン戦を契機にして、海母神マーチと謁見しただろう。奴を倒せと言われたはずだ。それと今も、七柱の神から、魔神シリコーンを完全にこの世から消すための許可を求める旅の途中だ。ティト、今のお前は、言ってしまえば神殺し仮免状態なんだ」


「仮免状態」


 そんなふんわりとした状態でいいのだろうか。

 緊張した場にもかかわらず、そんなことを思ってしまう男騎士。

 とにかく、と、急かすように魔剣はとぼけ顔の男騎士をたきつける。


 時は一刻を争う事態なのだ。


「見ての通りだ。神殺し免状ゴッドスレイヤーを持たない人間の攻撃は、神、ないしその上級使徒である者たちが持つ、絶対障壁によって防がれる。つまり、どれだけ頑張っても、あのおヘルス姉ちゃんの攻撃が、相手にダメージを与えることはない」


「……そんな!!」


「店主も、敵のからくり娘も、使徒ではあるが上級使徒ではない。一段劣るように設計されている、あくまでも人と神とのメッセンジャーだ。世界を神のために変革するだけの権能を持つ使途――模造神イミテーション・ゴッドを倒すことができるのは、神殺し免状ゴッドスレイヤーを持つ俺たちだけ」


 分かったな、と、魔剣が男騎士に確認を取る。


 怒涛の展開にもはやついていくのがやっとの男騎士であったが、やらねばならないことだけはよくわかった。


 この戦い、なんとか女修道士シスターことおヘルス仮面が凌いでくれたが、自分たちが剣を振るわない訳にはいかないらしい。


 握る魔剣。

 構えは上段。

 背負うは彼らを生かすために散った、故大性郷の魂。


「という訳だ、いくぞティト!! 神殺しの前練習だ!! 俺とお前ならできる!!」


「……あぁ、やらいでか!! 頼むぞ、エロス!!」


 男騎士が甲板を蹴って宙に舞った。

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