第770話 どエルフさんと一方その頃

【前回のあらすじ】


「という訳で、二流ウワキツヒロインのモーラさんにはこちら」


「ビジネススーツ(黒じゃなくて薄めピンク)になります」


 どエルフさん、また負けてしまったのかどエルフさん。


 シチュエーションコメディ。

 妄想をこれでもかと盛り込んで、挑んできたというのに、負けてしまうとは。

 情けないかな、どエルフさん。


 どうやらどエルフさんにはまだまだ、理性が残っているようである。

 その理性を蒸発させない限り、このウワキツ勝負、彼女に勝ち目はないだろう。


 さぁ、脱ぎ捨てるのだ、理性という名の檻を。

 さらけ出すのだ、本当の自分を。


 まだ、戦いは始まったばかり。

 真のウワキツがどちらに微笑むのかは、まだ分からないのだ――。


「いや、真のウワキツって。別にそんなのに微笑んでもらわなくても」


 分からない、のだ。


◇ ◇ ◇ ◇


 一方その頃。


 女エルフたちがウワキツ格付けチェックの部屋に入っている僅かな時間。

 それは突然、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船上を強襲した。とびかかって来たのは、月の仮面をかぶった女道化。


「んんん、どうやらここで私が暴れる宿命という奴ですね。最強の騎士と魔法使いが封じられているのは幸い幸い。加えて、神が造りし兵器も無傷なのは一体だけ」


「……なんですか、貴方は?」


 誰何するのは法王ポープ


 男騎士たちに代わって、この場の仕切りを任された若い教会の長は、その突然の闖入者に向かって錫杖を向けた。けれども、その錫杖は、突然走った刃によって断絶される。


 繰り出したるは肉の刃。

 肉スライムに半ば取り込まれながらも、まだ人の姿を残している元中央連邦共和国第三騎士団長。


「……ヴァイス団長!!」


「……ここで刃を交えることになるか、ロイド!!」


 かつての上司と部下が睨み合う。


 動揺する船上。

 そこに、その混乱を沈めるように、冷静なアナウンスが木霊した。


 小野コマシスターズとの激戦。

 それに乗じる形で現れたのは、他でもない。


「おぉーっと!! これはどういうことでしょう!! パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムと小野コマシスターズの決着間近というタイミングで、まさかまさかの第三勢力が乱入だ。しかもしかも出てきたのがこれまた実力者、ここまで妨害作戦には消極的だった、復讐屋アベンジャー水運だぁっ!!」


復讐屋アベンジャー水運!!」


「いえ、それよりも、この気配、そして、その異形――貴方は!!」


 ご明察。

 道化女が月の面を外して頭を垂れる。

 白粉の塗りたくられたその顔は、邪悪に歪んで法王率いる、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの面々に注がれていた。


 肩から立ち昇るのは黒い瘴気――いや。


 ピンク色の瘴気。

 それは間違いなく、暗黒大陸に満ちる邪悪。


 ドピンクな神の意志。


 魔神シリコーンの力に相違なかった。


「お初にお目にかかります。大勇者ティトと、我が暗黒大陸の女傑ペペロペの娘モーラが居ないのが口惜しいですが、まぁ、それはそれ。私こそが、暗黒大陸が将が一角、道化のジェレミー。道化なれども、我が千幻万華の技は、生中な魔法に引けを取りませんよ。さて、まずは手始めに――」


 きゃははきゃははと子供がはしゃぐような声。

 なんだと思った時には、空から無数の小さな人形が、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム甲板へと無数に飛来してきていた。


 手には小さなナイフ。


 からくり娘たちよりも生気のない瞳からは、胡乱な狂気が覗けて見える。なるほど、それが目の前の道化の術かあるいは使い魔であることはすぐにわかった。


「からくり艦隊これくしょんに着想を得ましてね。やはり数は正義という奴ですよ。私のようなか弱い道化というのは、こういう手数で勝負いたしませんと、えぇ、とてもじゃないですけれど、勝負になりませんから」


「……くっ、ここに来て、物量作戦か」


「いえいえ、まだまだこちらには、粋のいい私の眷属たちが控えております。ですからまぁ、ここからは一つ、心おきなく、心行くまでやりまいましょう――」


 殺戮を。


 道化の言葉で小さな人形たちが飛び回る。

 まるで飛蝗のように跳ね回るそれらは、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船員たちに、次々に襲い掛かった。


 錫杖で弾く法王。

 氷の精霊王で壁を作り守るワンコ教授。

 レイピアで、確実に一体ずつを倒す新女王。

 兵たちに指揮を出しつつ、カトラスを振るう女船長。


 タイフーンを巻き起こしつつも、肉体の衰えとスカートの丈の恥ずかしさ、あまりに長くやり過ぎたキッツイ姿に、そろそろ限界な勝と次郎長たち。

 そして、女エルフの到着により、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム本隊に合流した突撃部隊――若船団長と頭領衆もまた、疲労困憊で動作のキレが悪い。


 これは、負けるのではないか。

 船上の仲間たちに、最悪のイメージが流れる。


 しかし。


「皆さん!! 持ちこたえましょう!! ティトさんとモーラさんが頑張っているんです!! 僕たちも頑張らなければ!! 絶対に、僕たちはこのGTRに勝利するんです!!」


 青年騎士が叫ぶ。

 青臭く、どこか頼りない、そんな彼が精一杯、それも、勇気を奮わせて叫んだ姿に、多くの者たちが心を震わせた。


 そうだそうだと、その言葉に応えて、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムのメンバーの士気が上がる。まだやれる、自分たちでもやれる。

 そんな確信と勢いが、船の上には巻き起こっていた。


「おやおや、随分とまぁ、威勢のいい船員がいるようで――」


「ジェレミィ。ロイドは俺にやらせろ。あの夜の決着をつけたい」


「えぇ、えぇ、それは構いませんとも。こちらにもまだ、やらなければいけないことはありますし。ねぇ――コンゴウさん」


 青年騎士に相対するは、元第三騎士団長。

 そして、からくり侍に挑むのは、なぜか、暗黒大陸の道化師。


 吊り上がった口元にはやはり狂気が滲んでいる。


 ここに、女エルフたちとは別の、新たな戦いの幕が上がった。

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