第762話 どエルフさんと葡萄酒を飲んだだけなのに

【前回のあらすじ】


 流石の風の精霊王。精霊最強の肩書は伊達じゃない。

 前回さんざんに男騎士たちを苦しめた、ラブコメしないと出られない部屋。それと同じく展開したのは、ウワキツヒロイン格付けチェックの部屋である。


 もはや説明は必要ないだろう。

 女エルフたちは、一流ウワキツヒロインを見極められるべく、高い葡萄酒やら、安い葡萄酒やらを飲み比べさせられるのだ。そして、その正解いかんに関係なく、そこに至るまでの面白トークで弄られることになるのだ。


 そう、ウワキツとは結果に現れるのではない、過程に現れるものなのだ。


「無理筋よね」


 格付けチェックって、とんちんかんな回答をする所が一番面白くありません?


 というまぁ、筆者の格付けに関する個人的な見解を交えながら。


 聞くもウワキツ。

 語るもウワキツ。

 ウワキツウワキツ頂上決戦。


 結婚適齢期を過ぎた大人の女たちの、こっぱずかしいウワキツ対決。

 いろんなフェミから文句が付きそうな戦いが、今ここに始まるのであった。


 いったい、誰が得するっていうんですか。


 僕が得する。


「……筆者も相当こじらせてるわね」


 さて。そんな作者しか得しない、ブルーオーシャン小説どエルフさん。今週も、きつい感じで始まります。ウワキツ!!


◇ ◇ ◇ ◇


 先手。

 最初に葡萄酒を飲むことになったのは女エルフである。


 彼女たちは白い部屋の向こう側――その反応により本物であるかを悟られないのとリアクション被りを避けるために造られた待機室に移動すると、そこから一人ずつテイスティングルームへと向かうのだった。


 並べられた赤と青のラベルが張られたワイングラス。

 その前に、女エルフは自然に座る。


 流れるような所作。

 テーブルマナーを弁えていますという感じの、優雅なその振る舞いに。


「ウワキツ有効!!」


 早速有効点が入った。


 キッツい。


 たかがバラエティ番組の企画だというのに、私、こういうの分かっていますからというオーラをいきなり出してくる。

 淑女ですからというのを強調してくるこの感じ、確かにきっつい。

 それは男騎士も思わず頷いてしまう、納得のウワキツであった。


 しかし、女エルフは狼狽えない。

 というか有効点が入っているとも気が付いていない。


 なぜならば、審査員である風の精霊王の声は、テイスティングルームには届いていない。彼女たちの行動は、魔法で遠隔視聴されていた。

 なので、既に自分が一手リードしたということを知らずに、女エルフはテイスティングをつづけた。


 できるウワキツ女エルフ。

 まずは赤いグラスを手に取って、くるくると指先でつまんで回してみる。

 よくかき混ぜられたそのグラスの中身にそっと白い鼻先を伸ばすと、匂いを確認して目を綴じる。


 その香りに思いを馳せる姿に――思わずまたウワキツ有効が入りそうになったが、そこは歴戦のラブコメニストの風の精霊王。

 ぐっと有効点を入れたいのを堪えた。

 堪えるものでもないのだけれど、堪えた。


「そんな風に葡萄酒いつも飲んでないだろモーラさん」


「そうなの、ティト。モーラちゃん、いつもどんな感じなの」


「樽で一気にぐびーって感じですよ」


「樽で一気にwww」


「葡萄酒なんてエルフにとっちゃ水みたいなもんよーが彼女の格言ですからね。ほんと、なんであんなにもったいつけているのか」


「ちなみに赤い方は安い葡萄酒ね」


 安い葡萄酒に対して、たいそうな扱いである。

 しかし、モノが分からないだけに、慎重になるのは仕方ない。

 仕方ないが、普段豪快に飲んでいるのにそれっぽくつくろうのは笑える。


 ウワキツ有効二つ目が入った。


 さて、女エルフ。

 匂いを堪能した彼女は、そっとその縁を唇へと導き、それからゆっくりと注ぎ込むように口へと含む。空気も一緒に吸い込んだ彼女は、口の中で転がすようにそれを味わうと、しばらくそうしてからゆっくりと嚥下した。


 ウワキツ有効三つ目である。


「ふだん豪快にぐわーって飲んでるんでしょ? 飲んでるんでしょ?」


「そうですね。あんな飲み方するモーラさんは、俺も初めて見ます」


「恋人の前でこそやりなさいよ。ほんともう、モーラちゃんはなにやってんの。つぎはぎのポンコツ淑女ここに極まれりじゃない」


「いやけど、彼女の飲みっぷりは見ててほれぼれしますよ」


 あ、そういう所もいける口。

 謎の納得を返す風の精霊王。

 それに真顔で頷く男騎士。


 まぁ、本人たちがそれでいいならいのかもねと言ったところで、女エルフがそっとグラスをテーブルに置いた。


 眉の一つも動かさない。


 すぐに二つ目のグラスに手を付けて、彼女はまた普段はしない仕草でグラスの中の葡萄酒を揺らす。今度は有効点は入らなかった。


「しっかしまぁ、まったくぶれないねモーラちゃん。とことんやるタイプだ」


「モーラさんですからね。そこの所は、俺も信頼していますよ」


「さて、どんなリアクションを見せてくれるか――」


 青の葡萄酒を口に含んで、飲み込んだ女エルフ。

 彼女は冷静に、まったく迷うことなく、さりとて大げさにリアクションをするわけでもなく口元を軽く拭うと。


「青のワインが高級ね。上質な土壌で育った葡萄のうまみが溶け出しているわ。濃厚でありながらまったく嫌味がない。どれだけでも飲んでいたくなるワインね」


 見事に高級ワインを言い当てた女エルフ。


 流石に大自然に生きる一族である。

 そういう感覚は敏感ということだろうか。


 しかし――。


「なんじゃかのう。面白展開を期待していたワシらとしては拍子抜けというか」


「画面映えするコメントを期待していたのに、見事に裏切ってきましたねモーラさん。まぁ、そういう所が逆に彼女らしいというか、必死というか」


「そういう捉え方もできるかもしれんが、なんちゅーか、ワシとしてはちょっと物足りん感じじゃ。もっとセレブ女優みたいな感じに、分かって当然みたいなコメントが欲しかったのう」


 ウワキツ判定委員の評価は辛辣。

 結果、有効三点に終わった女エルフは、いそいそとテイスティングルームを後にするのだった。


 さて。


「続いては、アシガラさんだが。はたして」


「見た目はモーラちゃんに負けじと劣らずの行き遅れ感があるがのう。どんなもんかのう。ちょっと前情報がないから分からんのじゃが――」


 そんなたわいもないコメント共に、テイスティングルームに現れたのは。

 いつの間にウェディングドレスから着替えたのだろうか。

 紫色のボディコンスーツを着た元赤バニからくり娘であった。


 たまらず。


「「ちょっと待て!!」」


 男騎士と風の精霊王は、ちょっと待てボタンを押していた。

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