第621話 ど青年騎士さんとど侍さん

【前回のあらすじ】


 紅海の只中。

 船の補給を行う中継拠点の島。その酒場に立ち寄った男騎士一行。

 彼らは、紅海と東の島国の水軍について女海賊から説明を受ける。


 海の上が仕事場。そして数多の修羅場を潜り抜けてきた女海賊。

 そんな彼女が、東の島国の制海権――水軍だけはヤバいと忠告する。


 大海を紅く染める争いを繰り広げてきた東の島国。

 今は既にそのような荒事をすることはなくなったというが、はたして今後男騎士たちにの冒険にどのように絡んでくるというのか。


 かつて男騎士が力を貸したという、新政府の話もさることながらこちらも気になる。

 一筋縄ではこの旅、行かないのではないだろうか。

 誰もがそんなことを思ったその時――。


「新女王さまと仲間のアンタらの命は、誓って守ってみせ――」


「ティトさぁんっ!!」


「置いていくなんてひどいでござるよ師匠ぉっ!!」


「ロイド!?」


「センリちゃん!?」


 かっこつけた女海賊。

 そんな彼女をいじくる様に、なんとまぁ、懐かしい面子がなんの前触れもなく男騎士たちの前に現れたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 酒場の扉を押し倒して、中に入って来た二つの影。

 それはまだ冒険者としては小柄な方。顔立ちに幼さこそないが青臭さを感じさせる二つの影。男と女の若い冒険者であった。


 男騎士たちはこの二人のことを知っている。

 なんといっても短い間でこそあるが、一緒に旅をした仲である。


「ロイド、君がどうしてこんな所に」


「センリちゃん。貴方、いったいどうやってここに」


 中央大陸連邦共和国騎士団第二部隊――その青年騎士。

 最初の方は頼りになる感じのエリート騎士。しかしながら、回が進むごとにギャグ要員化し、最後の最後には厨二病属性なんていうものを付与されてしまった男。


「いやまぁ、話せば長くなるといいますか、なんといいますか」


「というか、なんか前にも増してやつれたというか」


「まぁ、所属していた騎士団が裏切った訳ですから、その扱いっていうのは当然のようにお察しですよね。おすし」


「……うぅっ」


 ちょっといいとこなしの青年騎士は、厨二病の先輩であるヨシヲのように顔を青ざめさせて肩を落として背中を曲げるのだった。


 一方、もう一人。

 こちらはさきの戦での働きは今一つ。しかしながら、これから向かう東の島国の出身者。全身からくり仕立ての侍娘である。

 ポニーテールに機械の身体。あちらこちらに仕込んだ暗器と、女を捨てて戦に生きるからくり侍。しかしながら、男騎士に果し合いで負けて以降、彼のことを師と仰ぎ慕っているというけなげな娘でもある。


 そんな彼女だが――。


「ござる。ロイド殿が所属していた第二騎士団は解体の上で各部隊に吸収。けれど、あの戦いで悪目立ちしたロイドどのだけは引き取り手がなくて――仕方なく冒険者になったという訳なのでござるよ」


「あーっ!! あーっ!! やめてくださいよセンリさん!! そこはちょっと、いい感じに誤魔化してくださいよ!!」


「ござるー? 雇い主の拙者に口答えするでござるかー? いいのでござるかー? こんな辺境の地で、知らない港で、契約解除して置いてきぼりにされても?」


 青年騎士に対しては意外と容赦がない。


 冷徹なからくり侍の言葉に、ますます青ざめる青年騎士。対して、表情筋がないはずのからくり侍は、凍えるような冷たい視線を彼に向ける。


 完全に主従関係ができあがっている。

 この短い期間に、彼らの間に何があったのかは分からないが、女エルフたちはその関係性の変化に目を剥かずにはいられなかった。


「……鬼か」


「……鬼ね」


 思わず漏れるそんな感想。

 しかしながら、そのやり取りでなんとなく、彼らがどういう立場に置かれているのか、その察しは付いたのだった。


「もう、勝手に冒険に旅立つなんて聞いてないでござるよ師匠。しかも向かうのは拙者の故郷、東の島国でござる。なんで拙者を頼ってくれないでござるか」


「という訳で、センリさんに誘われて、ティトさんの応援にはせ参じた次第です。すみません、騎士としてはそこそこに経験はありますが、冒険者としてはまだまだ駆け出しの身ですので、どこまでお役に立てるかは分かりませんが」


「ティト殿の今回の冒険に、不肖弟子のセンリ加勢させていただくでござる!!」


「同じく。後学のために是非ともお供させてください、ティトさん!!」


 殊勝なことを言って、男騎士の前に膝を衝き頭を下げる青年騎士とからくり侍。

 うぅむ、と、唸る男騎士。この手の頼みに弱いのは、彼の美徳でもあり弱点でもある。今回にしても、やはりそれはよく出てしまったのだろう。


 いいだろうかという視線が女エルフの方に向く。

 さぁとでも言いたげに白けた顔をする女エルフだが、若い冒険者たちの参加自体を拒むような色はない。そこはそれ、パーティーメンバーをまとめ上げる、リーダーの判断に任せるという感じで、彼女はこの話から身を引いたのだった。


 再び視線を若い冒険者たちに向ける男騎士。

 うぅむ、と、彼は唸ってから一言。


「まぁ、仲間が増えることは悪いことじゃない。ロイドもセンリも、先の戦いでは頑張ってくれた。今回の旅でもきっと力になってくれることだろう」


「ござる!! それでは!!」


「いいんですか、ティトさん!!」


 許可を得られるや、なんだか途端に嬉しそうな顔をする二人。

 内心では断られるとでも思っていたのだろう。そんな彼らの不安さえ見越したように、優しい笑顔を向ける男騎士。

 そんな彼の背中に、やれやれしょうがないわねと、女エルフはため息をかけた。


「……戦力が増えると言いましたが、どうなんでしょうね。これから挑むのは冥府島。果たして、彼らのような中途半端な冒険者が戦力となり、ふがぐぐ」


「これがうちのやり方なの。文句言うなら、アンタはいつだって抜けても構わないのよ、法王ポープさま」


 強引に法王の口を塞いで黙らせる女エルフ。

 ここでは冒険者歴の長い自分たちの方が上だ。

 そんな感じの余裕のさえ望かせる、堂々たる振る舞いだった。


 仕方ありませんねとすぐに追従する法王。

 口元を拭った彼女は、おかえしとばかりに最後の芋をフォークで刺すと、それを口の中に放り込んでもふもふとかみ砕くのだった。


 かくして――。


「さぁ、お役に立ってみせるでござるよ!! この戦働きで、ティト殿に認めて貰って、その強さの秘訣を教えてもらうでござる!!」


「ぼ、僕も、ティトさんの下で勉強して、立派な冒険者として独り立ちしてみせる!!」


「気合は十分のようだな。うむ。まぁ、いい。若い冒険者はそうでなくては」


 男騎士パーティは、思いがけず頼もしい仲間を手に入れたのだった。

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