第531話 ど法王さんとはじめての野宿
【前回のはじめどエルフ〇ャートルズ】
「ティトチン!! そっちに牛がいったぞ!!」
「んもー」
「どてちーん!!」
「だぞ!! ティトチン!! 流石の馬鹿力だぞ!! 牛を一度に二頭も!!」
「おっしゃぁ!! 大量じゃ!! 食うぞいきなりサーロインじゃ!! ティトチン!! 塩もってこい!! 塩!! あとなんかよく斬れる剣!!」
「どてー?」
「だぞ!! ティトチン!! それはモーラのパンツ(薬草)なんだぞ!!」
「「「どわっはっはっは!!」」」
どエルフなくても今日も元気いっぱい。
はじめどエルフたちは今日も愉快に食って遊んで寝るのだった。
「……いや、違う小説になっとるがな!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁー、食べた食べた」
「だぞぉ。久しぶりにお腹いっぱい食べたんだぞ。牛を三頭も食べるなんて、なかなか冒険者でもやっていないとない機会なんだぞ」
「どてちーん」
わっはっはと焚火を囲んで笑う男騎士たち。
彼らにとっての日常も、法王たち非冒険者たちにとってみると非日常である。
とはいえ牛の肉は誰でも美味しい。
てっかてっかになった唇を、真新しいナプキンで拭いながら、法王と第一王女はまた妙な沈黙に身を委ねることになった。
ごろり転がる
それに対して牛の臓物などを投げつけて遠ざける。
ぞっとする濃厚な死の気配にまた息を呑む。
そんな彼女たちを、何をびくびくしているのよと、女エルフが笑い飛ばした。
「こんなの冒険してたら普通の事よ。はやく慣れなくちゃ」
「はぁ。そんなものでしょうか」
「そんなものそんなもの」
「……昔、お父さまが冒険者をしていたとは話に聞きましたが、こんな感じだったんですね。たくましいというかなんというか。私は――慣れるのにもうちょっと時間がかかりそうです」
「エリィもそう言えばちゃんとした野営は始めてだったわね」
「だぞ。荒野では自分だけが頼りなんだぞ。自分で自分の食べるものを用意できないようではダメなんだぞ。荒野で生き残るために、強くならなくちゃなんだぞ」
あら、それを貴方が言うかしらと女エルフがワンコ教授を小突く。
男騎士たちとの冒険でいくらか逞しく成長したワンコ教授。昔だったら、狩りにも参加せずに後方待機だったのに、今はすっかりと冒険者である。
人間変われば変わるもの。
なに、心配しなくてもそのうち慣れるわよと、不安そうな顔をする新米冒険者たちに女エルフは優しく声をかけた。
ふぁ、と、その時、ワンコ教授がお眠の大欠伸をする。
「だぞ。ご飯を食べたら眠くなってしまったんだぞ。僕はそろそろテントで休むんだぞ」
「あぁ、そうか。おつかれケティさん」
「お疲れさま。火の番は私たちに任せてゆっくり休んでね」
「だぞ、それじゃお言葉に甘えるんだぞ」
ふらりふらりと焚火の奥にあるテントに向かっておぼつかない足取りで歩いていくワンコ教授。そんな彼女を笑顔で見送ると、女エルフたちはすぐさまその視線を新米冒険者たちに向けた。
彼女たちもまた、ワンコ教授と変わらず眠たげな眼をしている。
狩りにこそ参加しなかったが、慣れない荒野での行軍に体力を消耗しているのはあきらか。そこに、お腹にずしりとくる量の赤肉を食べたとあっては、冒険者でなくても眠くなるのは仕方なかった。
では、私たちもそうさせていただきましょうかと立ち上がる法王。
しかし第一王女はちょっと待ってくださいとばかりにその場に座ったままだ。彼女の視線は少し訝し気に、女エルフに向けられている。
どうしたのと首を傾げて無言で尋ねる女エルフ。
そんな問いかけに第一王女は、後ろを振り返って何かを確認する。
闇の中、彼女の視線の先にあるのは二つのテント――。
一つはワンコ教授がふらりふらりと吸い込まれていったもの。
そしてもう一つは、誰もまだ入っていないちょっとこぶりなテント。
「お姉さま。私たちはどちらのテントで寝ればいいんですか?」
「うん? まぁ、そうねぇ。ケティの入っていったテントで寝て貰えば、それでいいと思っているんだけれど」
待ってください。
絶叫するような感じで第一王女が声を上げる。
焚火の明かりに集まった荒野の獣たちも、思わずびくりと体を震わせて逃げ出そうとするような、そんな感じの叫びであった。
突然そんな風に叫ばれる理由が分からない女エルフ。
どうしたのと言葉を返すと、彼女に向かって顔を真っ赤にして第一王女が言葉を投げかけた。
「どうしたのもこうしたのもないですよ!! お姉さま!! 私とリーケットさん、そしてケティさんが同じテントで寝たら、お姉さまはどっちのテントで寝るんですか!!」
「え、いや、普通に小さい方のテントで眠るつもりだけれど」
「ティトさんはどうするんですか!!」
「……どてちん?」
相変わらず原始人モードから頭の造りが戻っていない男騎士。
彼の間の抜けた返事では要領を得ない。
いわんや、第一王女が危惧していることはただ一つであった。
男と女が同じテントの下で夜を過ごす。
そのことである。
しかし――。
「なに心配してるのよ。大丈夫よ、火の番についてはしっかりやるから。私たちは、日が昇ってから、ちょっと仮眠をとるだけよ」
「どて。どてちん」
「ちょっとだけって」
「そうちょっとだけ――休憩するだけだから、心配ないわ」
「
なんだその当て字と女エルフと男騎士が目を剥く。
これまでの冒険でもそうだったのであり、当たり前に男戦士とテントで休憩してきた彼女にとっては、驚かれる理由が分からない。
分からないが――。
「まるでなんでもないように、日常の一幕のようにそんなことをさらっとしようとするなんて。流石ですねどエルフさん、さすがです」
「コーネリア姉さまも何も言わなかったのでしょうか。あの姉さまが手を焼くようなモンスター冒険者。流石ですどエルフさん、さすがです」
「うん、何が言いたいのかは分からないけれど、お前らがどエルフネタで私を弄ろうというのはよく分かった」
ちょっと落ち着けと、女エルフは新しい旅の仲間たちに向かって、これまたやんわりとしたメンチを切るのであった。
「どてちんどてちんどて、どてちん」
「アンタもいつまで原始人モードになってんのよ、この馬鹿チン!!」
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