第439話 どエルフさんと逃すか

【前回のあらすじ】


 申し訳ございません、あらすじで遊びすぎました。

 今後このようなことがないように、作者として気を付けていこうと思います。


「いや、故意犯だったでしょ完全に」


 新しいギャグの形に常に挑んでいく書き手でありたいと思っておりますので。


「だからって、前回のあらすじが九割以上って、それはどうなのよ」


 心がぴょんぴょんすれば、それでいいかなと思いまして。


「だから、他の出版社に迷惑がかかるようなネタはやめなさい!!」


 という訳で、今日こそ本当の本当に、どエルフさん本編始まります。

 本当かな。本当の本当にはじまるのかな。また始まる始まるって言って、始まらないパターンじゃないのかな。始まる詐欺じゃないのかな。


「だから、そういうのいいから、さっさと話を進めろ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「何故だ、こんなにも完璧なメイド姿だったというのに。何がいけなかったんだ」


「分からん。自分が知る限り最高の、ロリメイドを演じてみせたというのに。どうしてこんなことになってしまったのか」


「二人のメイドには、メイドに対する愛がなかったでごじゃるよ。もっとこう、メイドになるのならば、顔面の骨格から変わるようなそんな勢いで取り組む必要があるでござる」


「そもそも男って時点で需要と供給が間違っていることに気がつきなさいよ」


 頭を押さえる女エルフの前で、腕を組んでなぜなぜ分析に興じる男戦士たち。

 よくある企業の会議と同じである。根本的な認識が間違っている状態で、問題をいくら追及してみたところで、間違った答えが出てくるだけ。その辺りのことが男戦士達には見えていなかった。


 不毛、限りなく不毛な会議。

 それを、メイド喫茶がある通りの角で繰り広げる男戦士たち。

 とはいえ、彼らも何も、ただの気まぐれでこんなことをしているわけではない。こうして、道端に立っているのには訳があった。


「中に入って接触を図れない以上、こうなったら出てきたところを捕まえるしかないわ」


「待ちの姿勢というのはどうかと思うが、この際は仕方ないな」


「同じく。これ以上、無理にメイド喫茶に押し入ったら、余計なもめごとになりかねない。商業ギルドと事を構えるのは得策じゃねえ」


 商隊の隊長をしていた男である。その言葉には重みがある。

 きっと商業ギルドに、そこそこ煮え湯を飲まされたのだろう。それでもあれだけの大きな商隊を率いて仕事をしていたのだから、策略はもちろん、調略などなど、隊長が頭が回るのは間違いない。


 彼が同意したことで、今後の男戦士たちの方針は固まった。


異世界漂流者ドリフターがメイド喫茶から出てきたところを接触する」


「今度は逃げられないように、しっかり四方を囲んで挑むわよ」


「任せろ」


「デュフフフッ!! 待っているでござるよ、運命の女ディスティニーヒロインどの!! 今度こそ、拙者のラブハートを、君のキュートに突撃ロックオンしてみせるでござる!!」


 不安しかない。

 女エルフが顔を青くしてヨシヲを見つめていた。どちらかというと、彼女の方がブルーディスティニーという感じであった。


 男戦士と、隊長が、もはや変態なのは女エルフの中では否定できない事実であり、今更あらためてどうこうと思うことではなかった。

 しかし――あまり接点の少ない――ヨシヲがこの調子なのが、彼女には不安でならなかった。もちろん最初に出会ったとき、彼が下着をかぶって暴れていた変態であることは覚えているが、それもペペロペの呪われた下着だったからこそ。


 黙っていればまともなヨシヲである。

 せめて彼さえまともなら、もうちょっとこの作戦に勝算があったのかもしれない。だが、タナカの呪いでこの通りポンコツモードだ。


「先に、教会に行って、呪いを解いてもらった方がいいんじゃないかしら」


「モーラさん。その隙に、せっかく見つけた異世界漂流者ドリフターが姿をくらますとも限らない。今、このメイド喫茶を監視できる場所から離れるのは危険だ」


「善は急げだ。ヨシヲがこの調子なのはあきらめよう」


「おいおい、ひどいでござるよ、ビクター氏、それにティト氏。口調がちょっと変になっただけで、拙者いたって正気でござれば、何も心配することなどござらん。ちょっぴり、運命の女ディスティニーヒロインどのへの恋慕が強すぎて、胸が早鐘を突くようなくらいでござるよ」


 まったくその言葉に説得力がない。

 たははと笑う、青バンダナイガグリ坊主に、三人は冷たい視線を向けた。


 いや、別に彼が望んでその姿になった訳でもないのだから、そんな視線を向けるのはかわいそうなのだが。それでも、冷たい視線を向けずにはいられなかった。


「ヨシヲはなんというか、災難体質だな……」


「いるよな世の中にこういう貧乏くじを引かされるタイプの奴……」


「それをこのタイミングで引くかっていうのもあるけれど……」


 悪運の星の下に生まれてくる人間というのがこの世界には少なからず存在する。

 ヨシヲもまた、彼がどう陽気に、そして、平気な顔をして振舞おうと、その類の人間であることに間違いなかった。


 そう思ってしまうと、ますます、この男を連れてことに及ぶのが不安になる。

 こんなチームで、無事に異世界漂流者ドリフターを捕獲することができるのか。

 そんなことを思う中で――。


「……モーラさん、ビクター、ヨシヲ。メイド喫茶のある路地裏から人影が」


「……あの、ショッキングなくらいピンクの髪。ショートヘアーにあどけない顔」


「……間違いねえ」


 ついに、標的の異世界漂流者ドリフターが、休憩だろうかメイド喫茶から姿を現した。


「おぉ、運命の女ディスティニー・ヒロインどの!! 君の愛しいヨシヲもがむぐ!!」


 すかさず飛び出そうとしたヨシヲをビクターが抑える。

 では、手はず通りにと彼が頷くと、男戦士と女エルフが軽く首を縦に振った。そして彼らは、そこそこの人通りがある中にすっと紛れ込んでいったのだった。


 異世界漂流者ドリフター捕獲作戦――開始である。


「ビクター氏、邪魔しないでほしいでござる!! 今、拙者の彼女への情熱が、パッションをかき鳴らしてロマンチックがノンストップなのでござる!!」


「落ち着けヨシヲ。勢いに任せてお前が出ていくと、どうやったところで厄介なことになるだけだ――落ち着いて作戦通りにやるぞ」

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