第436話 どエルフさんと潜入
【前回のあらすじ】
思いがけず知的な論法で、
この地域ですぐに身を寄せられる場所として、メイド喫茶あたりが妥当だろうと踏んだ彼らが商業ギルドを訪れると、街で店員を募集しているメイド喫茶がたった一つだけだということ、そこに新入りが朝一番で入ったことが判明した。
やった、これで勝つる。
そんな感じに喜んだ女エルフと隊長。
しかし、男戦士とヨシヲはそんな彼らに反して慎重論を唱えるのだった。
そう、より確実に
「人を隠すのは人の中!!」
「メイドを隠すのは!!」
「「メイドの中!!」」
訳の分からないことを言い出すのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「待たせたわね!! 部の中で二回登場するのはこれが初めて!! みんなが待ってた希望の熟女エルフメイド!! 熟れに熟れたゴシックメイドを見よ!! そう私が、私こそが――エルフィンガーティト子!! メイドカスタムよぉっ!!」
いつもどおり、金髪のウィッグを着け、白粉を塗って化粧をし、そして、メイド服を着たのは他でもない。
この手の潜入イベントとなれば、嬉々として女装する男戦士であった。
エルフィンガーティト子メイドカスタム。
いわゆる本格英国メイド風の姿をした彼は、背中に爆炎を背負って女エルフに向かって言った。
いつものように死んだ魚の眼をしてそれを眺める女エルフ。
しかし、今日は、これだけではない。
「待たせたな!! 正統派英国風メイドもいいけれどミニスカメイドもまたよし!! さらに舌足らず×ツインテール×パステルカラーは破壊力!! ロリータメイド、ロリリンガービク子!! ここに爆誕!!」
さらに今回はどぎついのが隣に出てきた。
そう、パステルカラー、淡い水色のミニスカメイド服を身に着けたその男は、眼帯により片目を隠し、さらに無精ひげがおもっくそ生えたその顔で、ショートツインテールを造って、得意円満にてへぺろ顔をした。
ミニスカから伸びる脚には、ひじきかわかめかという濃い脛毛。
そう彼こそは隊長。そして、エルフィンガーティト子の妹分的存在。
ロリリンガービク子であった。
なんだとという返事を男戦士にした割には、ノリノリで案に乗っかった隊長。
彼はあっさりとメイド服姿に着替えたのだった。
さらにさらに。
悪夢は続く。
「ふっ!! タナカの呪いはまだそのままでござるが!! 口調が変なメイドというのもそれもまた乙乙!! 男のロマンを知る者は、また、メイドのロマンも知っているのでありますなぁ!! 見るがいい、これこそが俺の新しい
これまた青いメイド服に身を包んだメイドが登場。
色こそどぎつい青――#0000FF――だが、その造りは微にして細。レースがあしらわれたそれはメイド服というよりもドレスという感じ。ゴシックメイドという、なんともニッチなゾーンを狙った彼こそはまさしく、ヨシヲにして青い運命の女。
こちらは、前の二人と違い元の造りがいいからか、なんとも絵になる出来栄え。
スカートの丈が長かったり、レースがあしらわれているせいか、全体的に余裕のあるシルエットが、脛毛や筋骨隆々の体を隠してくれているのも大きい。
口調はともかく、割と普通に女性っぽいヨシヲに、女エルフはため息を吐く気にもなれず、かといって悪態をつく気にもなれず、ただただ閉口した。
そう、メイドを隠すにはメイドの中。
男戦士たちは、件の
その結果、ここにさまざまな世のニーズに応えた漢メイド×3が爆誕した。
年増エルフメイド(♂)。
ミニスカロリロリメイド(♂)。
ゴスロリ厨二病メイド(♂)。
この世のラノベ好きが泣いて喜ぶ完璧な布陣である。
男戦士たちはお互いの姿を確認しながら、何か納得した感じに頷きあった。
一人、女エルフを置いてきぼりにして。
「ナイスメイド!!」
「グッドメイド!!」
「パーフェクトメイド!!」
謎の単語とサムズアップでお互いを称えあう男戦士たち。そんな三人に、爆発魔法をくらわしたくなるのを、女エルフはぐっとこらえた。
一人、メイド服姿にならなかった、紅一点女エルフはぐっとこらえた。
そう、彼女は今回も、潜入から外された。
窓の外から、男戦士たちの潜入を見守る――いざとなったら、客を装ってメイド喫茶に突入し、彼らを救い出す役目を請け負っていた。
故に、アラスリエルフメイドになることを免れたのだった。
やったらやったでうわきつ確定のアラスリエルフメイドを免れたのだった。
ギャグだからって、やっていいことと悪いことがあるのである。
まぁ、メイド(♂)も同じくらい、やって悪いことなのだが。
「というか、私がメイドになって潜入すれば済むことじゃない!! なんでアンタ達が女装して潜入する必要があるのよ!!」
「モーラさんにそんな危険な仕事、任せられる訳ないだろう!!」
「気持ちは嬉しいけど――そもそも危険な仕事じゃないから!!」
単にお前たちがメイドになりたいだけなんじゃないのか。
というか普通に客としてメイド喫茶に入るのではダメなのか。
お前たちの趣味で気持ちの悪いものを見せるな、見せてくれるなという感じで、女エルフは男戦士たちを睨みつけた。
しかし、当然、そんな視線に男戦士たちが気が付くことはない。
そんな些細な感情に気が付くようならば、この話はもっと短く終わっているし、毎週ここまでの暴走を見せはしないのだった。
「とにかく、これで
「完璧な作戦に完璧な女装なの!! 成功間違いなしなの!!」
「……ふっ、女装しても美しいとは、俺もなかなか罪な男ですなー!!」
「こいつら!!」
やっぱり燃やしてやるべきかしら。
そんな思いを込めて杖を握りながら、女エルフはまたぐっと堪えるのだった。
かくして、
「オーシャンズ!!」
「いや!!」
「メイドズ3!!」
「やめい!!」
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