第414話 どエルフさんとどケチ

【前回のあらすじ】


 ついに益荒男の一人、大剣使いと合流できた男戦士たち。

 再会を喜ぶのも束の間、彼は過去に因縁のあるリザードマンたちの王――竜騎王から誘いを受けていた。


 リザードマンたちが、暗黒大陸との戦に向かうのを待ったをかける中、大剣使いはどのような判断をするのか。

 というところで、特にふざけるところもなく、今週もどエルフさんはじまります。


「あらすじは、ふざけるところじゃないから!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「お願いしますよハンスさん」


「ハンスさんは竜騎王さまと義兄弟の契りを交わしておられるのでしょう。竜騎王さまが久しぶりに会いたいと申しているんです。付き合ってあげてくださいよ」


 リザードマンたちの王と義兄弟。

 なんともハッタリの利いたその言葉に男戦士たちが目を丸くする。

 そんな彼らの顔を見て鉄面皮の大剣使いは――。


「まぁ、成り行きでな」


 あっさりとその言葉を肯定した。

 しかしながら追及はされたくないようだ。ばっさりと、本当なのかと男戦士たちが疑義を申し挟む余地もなく話を認めたのがその証拠。そして、男戦士たちから顔を逸らしたのもその証左であった。


 冒険者稼業をしていると、そのようなこともよくある。

 事実、席から少し離れた所に座っている、第一王女と女エルフの関係がその証拠だ。ふとした依頼を引き受けた際に、たまたま意気投合し、王侯貴族と義兄弟や義姉妹になるということは、熟練の冒険者ではそうそう珍しい話ではなかった。


 もっとも――。


「リザードマンの義兄弟か」


「ちょっと特殊と言えば特殊よね。種族を越えてるっていうか」


「エリィはお姉さまがエルフでも全然大丈夫ですよ!! むしろ、エルフだから良いっていうか――そういうことですよねハンスさん!!」


 ちょっと興奮気味に言う第一王女。

 感情移入が多めに入っているようだった。


 頬は紅色、きらきらとした表情を向ける第一王女に、実の義姉妹である女エルフも苦い顔をする。ちょっと彼女の愛は重たかった。


 どうして義兄弟になったのか。その質問を避けようとした大剣使いだったが、空気の読めない第一王女にそこは早速、話の流れを折られてしまった。


 やれやれと嘆息する大剣使い。

 ためいきと共にその鉄面皮の眉間に皺が寄った。


「言っただろう。成り行きだと」


「お姉さまとエリィだって成り行きです!! けど、出会った瞬間、ビビッと来るものがあって、こうして義姉妹の契りを交わしたんです!! ねぇ、お姉さま!!」


「……ビビッと来たかなぁ?」


「お姉さま!?」


「モーラ。お前ならなんとなく分かるだろう。そういう感じだ。向こうが勝手に俺を兄と慕っているだけだ。俺は別にそのことに関してどうこう思ったことはない」


「……それはそれでどうなのよ」


 大剣使いのぶっきらぼうっぷりを女エルフは呆れた。

 金髪少女といい、竜騎王といい、酷い扱いである。


 彼と一緒に行動していた魔性少年には割と優しかったのに。

 よほどショタコンを拗らせているらしい。


 まぁ、別にだからと言って彼が何か悪い訳ではない。大剣使いはよいショタコンである。女エルフはまぁそんなものかと、納得したようだった。


 その上で――。


「で、どうするの?」


 女エルフは大剣使いに竜騎王の扱いについて問うた。

 これに驚いたのは大剣使いの方だ。表情筋が死んでいるような鉄面皮を見せていた彼の顔が、驚愕に歪んで女エルフの方を向いた。


 同じく、リザードマン、男戦士、そして、金髪少女と第一王女も彼女のその発言に驚いて視線を向けていた。


「どうする? いや、どういう意味だ?」


「会っていくの、会っていかないのって聞いてるの。暗黒大陸が迫ってきている危機には違いないけれど、会いに行く時間くらいはあるでしょう」


「……ちょっ、ちょっと待てモーラさん!! 俺たちは、転移魔法の失敗で、大幅に時間ロスをしたばかりじゃないか!!」


「そうです姉さま!! そんな悠長なことをしている場合じゃありません!! 大陸の危機なんですよ!!」


「けど、竜騎王の力を借りることができたら――それはそれで頼もしいじゃない」


 女エルフは勘定していた。

 暗黒大陸と戦うために、まだまだ兵力が必要だということを。


 エルフの森を訪れたことで、キングエルフこと彼女の兄たちの助力を取り付けた。しかし、それでもまだまだ、暗黒大陸と戦うのに人は足りない。

 少しでも、兵が手に入るのならそれに越したことはなかった。


 冒険者としての勘は働くが、戦働きについてはずぶの素人の女エルフ。

 そんな彼女にしては実に的を射た発想である。思わず、リーナス自由騎士団に所属していた男戦士もその判断に唸った。


「すぐに連邦共和国に向かうならそれもよし。リザードマンたちの国へ行って、その竜騎王とやらに会うのならそれもよし。私たちは竜騎王に助力を請うわ」


「……いや、モーラさん。竜騎王が兵を必ず出してくれるとは限らない」


「安心しろティト。アイツは、大陸の危機とあれば絶対に出しゃばってくる。向かえば必ず力を貸してくれるだろう」


 しかめ面で答えたのは大剣使いだ。

 鉄面皮でこれまで対応しながらも、思わずこぼれ出たそんな表情。それだけに、大剣使いの言葉には信ぴょう性があった。


 つまり――竜騎王に会えば、確実にその力を借りることができる。


 その言質を取るように、女エルフと男戦士はリザードマンたちに視線を向ける。


「……まぁ、竜騎王さまのご性格ですから、ハンスさまのおっしゃるとおりかと」


「……なにより戦好きですからですね、竜騎王さまは」


「なにそれ、頼もしいじゃないのよ!! 使わない手はないわ!! だったら是非行きましょう、ハンス!! ねぇ、それでいいでしょう!!」


 いつの間にか決定権は、大剣使いから女エルフに移っていた。

 うぅむと言い淀む大剣使いに、はいっていいなさいよと迫る女エルフ。


 結果――渋面を浮かべたまま、大剣使いはしぶしぶ首を縦に振ったのだった。


「うぅむ、使えるものはなんでも使う。エッチとケッチは紙一重ということか」


「流石ですお姉さま、さすがです」


わらわもびっくりの交渉っぷり。この女エルフ、とんだ性悪なのじゃ……」


「なんとでもいいなさいな!! 大陸の危機でしょ、手段を選んでなんていられないわ!! 使える物はなんでも使わないと!!」


 開き直って女エルフはパーティメンバーに言った。

 やれやれ、随分と逞しくなったものである。


 流石だなどケチエルフさん、さすがだ。


「なんとでも言うがいいわ!!」

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