第四章 神聖プリケツ教会 ~密室密着ドスケベハプニングドッキドッキエロス~

第338話 ど女修道士さんとど名家

【前回のあらすじ】


 女修道士シスターシスター法王ポープだった。


「そう気構えず、気軽にプリケツちゃんとでも呼んでください」


「……呼べるか!!」


 妙な愛称を考えつくところからして姉妹である。

 流石だなど女修道士シスターさん姉妹、さすがだ。


◇ ◇ ◇ ◇


「聞いてない!! コーネリアがそんなお偉いさんの縁者とか私聞いてない!!」


「言ってないですからね」


「なんで言わないのよ!!」


「それはほら。乙女には人に知られたくない秘密の一つや二つあるものですし」


「それでもそこは重要な所じゃないのよ!! なによ現法王のお姉さんって――超重要人物じゃないの!! VIPじゃないの!! 物語の主人公クラスの美味しい役どころじゃないのよ!!」


「姉は姉、妹は妹です。たしかにリーケットは私の妹に間違いありませんが、私自身はただの女修道士シスターに過ぎませんよ」


「……けれどもぉ!!」


 もっと早く説明してくれていれば、色々と事がすんなり進んだのではないか。

 それこそ、白百合女王国での内乱を穏便に済ませたり、バビブの塔の攻略に教会から力を貸してもらったり。それでなくても貧乏冒険者、教会から援助を受けられれば――パーティのお財布的にはたいそう助かる。


 根が貧乏性の女エルフだ。

 権力者の縁者と聞いて目の色が変わるのは仕方なかった。


 そんな彼女に、だから言わなかったとばかりに困った顔を向ける女修道士シスター

 こちらもこちらで、やはり根っこのところが原理主義者なのだ。


 双方、譲れぬ思いがあるからこそのすれ違いであった。


「もっとアピールしていこう!! 使える権力は使っていこうよ、シコりん!!」


「言ったではありませんかモーラさん。私は、神の愛をこの世に生きる者たちにあまねく伝えるべく活動していると。法王の姉という立場を利用して、私利私欲を肥やそうなどと言語道断。できるはずがありません」


「……この様に、コーネリア姉さまは昔から頑固者でして」


「知ってた、知ってたけれど……!!」


「我が家はこう見えて、数多の聖人や司祭を輩出している名家なのです。コーネリア姉さまも、使命に目覚められる前は教会の要職を担う人物と目されていたのですが」


「私にはそんなものより、神の教えを世界に広げることの方が大切です」


「……という具合です」


「あぁもう、はやく言ってよシコりん!!」


 女エルフの地団駄に女修道士シスターがしょうがないですねと溜息を漏らす。そんな彼女の前に、今回ばかりは女エルフが大人気ないと男戦士が割って入った。


 どんなに親しくても、どんなに気の置けない仲でも隠し事とはあるものだ。

 彼がリーナス自由騎士団に所属していたことや、鬼族の呪いのことを隠していたように。それが分かるからこそ、男戦士は彼女たちの間にあえて入ったのだろう。


 男戦士に入られると――女エルフも引き下がらずにはいられない。

 ようやく落ち着きを取り戻した女エルフは、しょうがないわねと肩を下げた。


 さて――。


「それはそれとして、法王ポープさま自らお出迎えとはどういうことだ?」


「まるで私たちが来るのを知っていたみたいね」


「だぞ。何か連絡したんだぞ、コーネリア? ロイド?」


 心当たりはないと女修道士シスターも青年騎士も顔を振る。

 はて、連絡もないのに出迎えにやって来るとはこれいかに。

 神通力か、それとも、ただの偶然か。


 いや、先ほど法王が口にした言葉を思い返せば偶然ということはあり得ない。

 確かに彼女は女修道士シスターに、ここまでの道案内ごくろうさまです、と言った。


 女修道士シスターはともかく。

 法王ポープは男戦士たちの来訪を知っていた。


 教会の情報網によるものか。それとも、やはり神通力か。

 警戒して女エルフが少しばかり、法王ポープから距離を取る。


 そんな様子を察してか、安心してくださいと抑揚のない口調で法王は言った。


「貴方たちも神々と謁見したのでしょう」


「神々と謁見って――」


「アリスト・Ⓐ・テレスのことか?」


「はい。貴方たちのような冒険者が神と謁見できるというのに――法王ポープである私が、神々とやり取りすることができないというのはおかしな話では?」


 戸惑い混じりながらも、うぅん、と、納得したような声が女エルフから上がる。

 半信半疑という奴である。

 当の姉である女修道士シスターにしても、本当なのかという感じに眉を顰めた。どうやら法王と神の謁見は、教会内部でも秘匿されているらしい。


 まぁ、そういう訳でと強引に話の流れを切ると――法王は女エルフたちを前にして突然その頭を下げた。


 これまた、予想外の展開だ。

 女エルフたちが思わず慌てふためいた。


「申し訳ありません。今回の教会からの曖昧な指示は全て、この地に貴方がたを呼び寄せるための仕込みに他なりません」


「仕込み!?」


「どういうことなんだぞ!? なんでそんなことをする必要があるんだぞ!!」


「そうでござる。それならそうと堂々と、こんな回りくどいことをせずに、ティト殿を直接呼びつければよかったでござるよ。それを、曖昧な指示を出して、大陸を混乱させて。いったいどういうつもりでござるか」


 大陸出身者でもないのに怒るからくり侍。


 納得いかないのもごもっとも。

 それを理解しているのか、法王ポープは頭を上げない。

 女修道士シスターと違って、ひょうひょうというよりは天然というか感じのする彼女だ。本気で、男戦士たちに対して謝っているのはよく伝わってくる。


 それを察し、頭を上げてくださいと声をかけたのは、他ならない彼女の姉だった。


「止むを得ない事情というのがあったのですねリーケット」


「……はい、コーネリア姉さま」


法王ポープの貴方がどんな秘密を抱えているのか、どんな重荷を背負っているのか。恥ずかしながら姉であるはずの私は、今の今まで顧みもしませんでした」


 話してくださいリーケット。

 これは姉としての謝罪です。

 そう言ってコーネリアは力強く妹の肩を抱いた。


 目じりにじんわりと滲み出た涙を拭う法王ポープ。その職責に対してあまりに小さな肩を震わせると、彼女は姉の視線と問いかけに頷いて応えたのだった。


「まずは教会本部は私の執務室へ。詳しい話はそちらでさせていただきます」

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