第314話 どエルフさんと野性の大根
【前回のあらすじ】
まな板が増えるよ!!
やったねモーラさん!!
「嬉しくないわい!!」
からくり侍は
フェチなキャラクターを増やしつつ冒険は続く。
今週も、どエルフさん始まります。
◇ ◇ ◇ ◇
【デロデロデロ ヤセイノカブガアラワレタ】
「ヒャッハー!! お前たち、ここを通して欲しかったら堆肥をよこしな!!」
「栄養たっぷり、牧場で飼葉をたっぷり食わせた上等な奴だ!!」
「持っているだろう、〇まの糞!! 〇まの糞置いてけ!! なぁ、〇まの糞持ってるんだろ!! 置いてけよ、〇まの糞!!」
【カブドラゴラ: 街道の縁石に並んだ綺麗なカブだと思ったらモンスターだったりする奴ら。街道を行く冒険者たちに襲い掛かり、謎アイテム〇まの糞をねだる。与えるとすぐにどこかへ消え去るが、そもそもこの世界には〇まの糞を持ち歩くシステムなぞ存在しないので、だいたい戦闘になる。なお、食べると結構おいしい】
「バイスラッシュ!!」
「「「あひぃー!!」」」
男戦士が剣を振るう。上段唐竹割の一振りにて、なぜか三体のカブドラゴラは、一瞬で真っ二つ。見事に物言わぬただのカブになり果てたのだった。
まぁ、雑魚モンスターなので仕方がない。
とはいえ、たったの一振りで三体を倒したのだから驚きである。
男戦士を師と仰ぐからくり侍の目が光る。
彼を騎士として尊敬している青年騎士の鼻息が荒くなる。
二人の若い戦士は、男戦士の熟練の技に感嘆していた。
「すごいでござる。縦に切った筈なのに、気づけば横の二体も切れていた。いったいいかなる技でござるか。理屈が分からぬ」
「あまりに高速の太刀筋に、攻撃が一度しか見えなかったということでは?」
「なるほど!! 流石でござるティトどの、さすがでござる!!」
いやぁ、と、苦い顔をする男戦士。
実は魔剣の力を使って、斬撃を三つに増殖させたのだが――なんだかそのように言われてしまっては、ネタばらしをするのも戸惑われた。
もちろん、その魔剣の力を使役することができる男戦士の技量もあってだが。
と、そこで女エルフが咳払い。
男戦士と若い戦士たちの間に入ると、彼らがおだてるのを身を挺して止めた。
「アンタら、ティトのことをおだてすぎよ」
ずいと、からくり侍と青年騎士に突き出された指先。
長年の相棒である女エルフの言葉に、思わず両者は面を喰らった。普通、相棒が褒められればうれしいものだろうに、逆に怒っているのもそれに拍車をかける。
一方で、男戦士はといえば、どこかほっとしたような顔つきで、彼女の背中に視線を投げかけていた。
女エルフが腰に手をかけて、いい、と、言葉を続ける。
「カブドラゴラの退治なんて、冒険者稼業の基本中の基本よ。この程度のことでいちいち驚いてたらキリがないわ」
「いや、それでも、カブドラゴラを一気に三体倒すなんて、余人をもってしてできる技ではないでござるよ」
「センリ殿の言う通り。やはり戦士技能レベル8は一味違う。流石です、ティト殿」
「だからそういう特別扱いするのはやめなさいっての。一度に三体同時に倒そうが、分けて倒そうが、カブドラゴラの運命はティトに会った時に決まっていたのよ」
要するに、この程度のことできゃぁきゃぁと、新参者の青年騎士たちにもてはやされる男戦士に彼女はやきもちをやいているのだ。
可愛らしいものだな、と、後ろでみていた
なによ、と、
「とにかく、これくらいのことでティトを凄いと思って貰ったら困るわ。彼の実力は、こんなものじゃないんだから」
「モーラさんその辺に……」
と、その時。
ひょいとまた縁石の向こうから、背の低い植物モンスターが姿を現した。
「ミスエルフ&ミスターヒューマン。申し訳ないが、堆肥を置いていっていただこうか。とびっきり上等な奴を頼む。英国紳士は肥料に煩いんだ」
【ブリティッシュ: カブドラゴラの上位種。いけすかない紳士口調の植物系モンスターである。スマートですばしっこい。一方、味はカブドラゴラよりも洗練されており、食材としては一級品。だが、あえてこの雑味のないモンスターを鰤と一緒に煮ることにより、大味な料理にすることが好まれている。故に、鰤と一緒に食べる根菜の意で、ブリティッシュと名付けられている】
それはカブドラゴラの上位モンスターであった。
カブにそのまま手足が生えたカブドラゴラと違い、ブリティッシュは細身な上に更に紳士服のようなものまで着ている。実に、いけすかない感じのモンスターである。
その癖、カブドラゴラと同じく、〇糞を求めてくる辺りがナンセンスだ。
しかし、モンスターとしての脅威は、カブドラゴラの数倍。
すばしっこいことから、かけだし冒険者がこのブリティッシュに、紳士のマナーを叩きこまれて行き倒れることなどしばしばである。
中堅冒険者でもたまにやられたりする。
思わずこれまでのやりとりから一転して、引き締まった顔をするからくり侍と青年騎士。
彼らも、ブリティッシュには痛い目に合わされたことがあるのだろう。
そんな中。
ちょうどいい、と、女エルフが余裕の表情でブリティッシュを指さした。
「ティト!! あんたの実力が、こんなもんじゃないって、この子たちに見せつけてあげなさい!!」
「え?」
「あのブリティッシュをかつら剥きにしてやるのよ!! それくらい簡単でしょう!! さぁ、とっととやっちゃって、やっちゃって!!」
ふふん、と、鼻を鳴らす女エルフ。
どうだ、私は彼の実力を、ここまでしっかりと把握しているんだぞ、と、どこか自慢げだ。
しかし――。
男戦士、そして、ブリティッシュの反応は冷ややかであった。
いや、いっそ戦慄しているという形容が適切であった。
いつものあれである。
「ミス!! 白昼堂々と、私の服をひん剥こうなどと、貴女はそれでも淑女か!!」
「モーラさん!! いくら相手がブリティッシュでも、ずる剥けにするなんて――そんな恥辱はあんまりじゃないか!!」
「……えっ、え?」
完全に油断していた女エルフ。
向けられている視線が、いつもの、どエルフ弄りの視線だと気づいた時には、男戦士とブリティッシュは身を寄せ合って震えていた。
「くっ、このブリティッシュ。英国紳士として、スーツを脱がされ、聴衆の視線をその身に受けて辱めを受けるくらいならば、自ら根を切って死を選ぼう。それが誇り高き紳士というもの」
「はやまるなブリティッシュ!! このエルフがどうかしているだけなんだ!! どエルフの、ど、は、どうかしてるぜの、ど!!」
「違う違う!! というか、何をモンスターと仲良くしてんの、アホティト!!」
「戦士・モンスターの前に俺たちは男なんだ!! それを、いけしゃあしゃあとずる剥けにしてやれなんて――流石は過激コミックから来た腐女子脳エルフだ!!」
「どうせズル剥けにした私を、この男戦士にツッコむつもりなんだろう!! このプランターにいったいいくらの値をつける――ってことなんだな!! この鬼畜・悪魔・どエルフ!!」
「しないわよ!!」
「馬の糞がないからってそんな非人道的なこと……!! 悪魔的発想!! いや、どエルフ的発想!! 流石だなどエルフさん、さすがだ!!」
そこまで言われると、もう、オチは決まっている。
その日の夕飯は、こんがりと焼けた、根性焼き大根であった。
男戦士のアフロを添えるのも忘れずに、で、ある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます