第266話 どエルフさんとエロ剣

【前回のあらすじ】


 戦士技能のレベル差にして3。

 驚異的な技量を持つ死人の騎士を、なんとか倒した男戦士。


 レベル妖精の囁きに気が緩んだのも束の間。

 男戦士は、たまたま手にした死人の騎士の剣に精神を乗っ取られてしまった。


 そう、本体は、騎士の体ではなく、剣の方だった。


「貴方はいったい何者なの?」

 

「ぐはははっ!! 何者ってか!! そうだなぁ……まぁ、強いて言うなら、魔剣エロスとでも名乗っておこうか!! エロの権化!!」


 最悪の魔剣、ここに登場である。


◇ ◇ ◇ ◇


「……魔剣!!」


「……エロス!!」


「……だぞ!!」


「そうだぜ!! 剣は指すもの、そして抜くもの!! うへへへ、抜群のネーミングセンス、俺様ちょっとドピュッとくるものがあったぜ!!」


 そう言って、男戦士の顔が笑う。

 どうやら体全体、魔剣に意識から乗っ取られているようだ。


 参ったな、と、女エルフと女修道士シスターが顔を合わせた。


「まーた呪われたよあのアホは」


「なんとうか、ペペロペの下着と合わせて、どうしてこうも呪われやすいんですかね、ティトさんてば」


「……呪いのアイテムの解呪って、コーネリアできるの?」


「単なる呪いならばできますが、魔剣インテリジェンスソードとなると、話は別ですね。しかもなんだか、この魔剣、一筋縄ではいかなさそうな感じがします」


「……だぞ。なんていうか、性格が悪そうなんだぞ」


「おほっ、そっちのパイオツでかいねーちゃんもいいねぇ!! どうれ、ひとつお近づきの印にパフパフさせて貰おうかなぁ!!」


 わきわきわきと手を揉みしだく男戦士。


 セクハラ大魔神。

 口を開けば猥談しか出てこないアホ男戦士だが、実際に女性に不快な行動をするようなことはしない。そこは、変態でも紳士という彼の美徳であった。


 それ故にだろう。

 女エルフの眉間に皺が浮かぶ。すぐさま、彼女は周りを浮動していた魔導書を飛ばすと、男戦士に向かって電撃魔法を浴びせかけた。


「あびびび、あびびび、あびびびびび!?」


「そいつの体で変なことを口走らないでくれるかしら。それでも、一応、私たちパーティのリーダーなんだから」


「ほぉん、なんだエルフの嬢ちゃん。もしかして、この男とデキてんのか?」


 ぬぁ、と、女エルフ。

 間抜けな声と共に口を開いた彼女は、顔を茹で蛸のように真っ赤にすると、さらに魔導書から雷撃を男戦士に打ち込んだ。


 どひゃぁ、どひゃぁ、と、それを嬉々として避ける魔剣――に操られた男戦士。


 流石に激しいその攻撃に、女修道士シスターが女エルフを止めた。


「駄目ですよモーラさん!! 操られているとはいえ、ティトさんなんですよ!!」


「そうかもしれないけど!!」


「なんだよ、図星かよ。そんなマセた反応しちゃってさ。分かりやすいエルフ」


「……違うって言ってんでしょうが!!」


「ほんとエルフってのはツンデレだよなぁ。素直じゃないっていうか、なんでもかんでも腹の中に抱え込んじまうっていうの。認めちまえばいいのによう、まったく」


 そんな、なんでもない世間話をするような感覚で、男戦士――こと魔剣が自らを握りしめる。


 男戦士の戦士技能も合わさってか。

 神速、太刀筋すら見えないその剣さばきにより、彼の周りを浮動していた魔導書は、一瞬にしてただの紙屑と化した。


 にたり、と、またやらしい顔を造って、女エルフたちに微笑みかける魔剣。


 冗談のようなやり取りに、すっかりと油断していた女エルフたちは、その突然の攻撃に面食らって押し黙った。その様子を楽しむように、げたげたと、魔剣に操られた男戦士が、大きな声で笑う。


 これは完全に手玉に取られている。

 女エルフはもちろん、魔性少年までが、魔剣に操られた男戦士の一挙手一投足に注目していた。


「うぅん、しっかし、この男、相当なポテンシャルだな。こりゃ、鍛えりゃまだまだ伸びしろがあるぞ。乗っ取って正解だったぜ」


「……今すぐティトを解放しなさいよ」


「いやだね!! せっかく手に入れた若い体だ!! 俺はこの体を存分に使って――かわいこちゃんとあへあへしてピンクな生活を送るんじゃい!!」


 もうちょっとマシな使い方をしてくれ。

 緊張すればいいのか、ギャグをすればいいのかわからない。


 魔剣のペースに翻弄されっぱなしの女エルフたち。

 そして、そんな様子を見てさらに、調子づいて高笑いをする魔剣――に体を乗っ取られた男戦士。


 解呪するにも手がない。

 どうすればいいのかと女エルフが気を揉んだその時であった。


「――あん?」


 がくり、と、男戦士がその場に膝をついた。

 そうして、腰に佩いていた魔剣を床へと突き立てると、荒い息を上げ始める。


 どうにも様子がおかしいと思った――その時だ。


「……逃げるん、だ、モーラさん!!」


「ティト!?」


「意識が戻ったんですか!?」


「……だぞ!! 知能1の癖に、どうして精神抵抗ができるんだぞ!!」


 なんと男戦士が、魔剣の洗脳魔法に抵抗してみせたのだ。


 奇跡か、それとも、運命の悪戯か。

 なんだと、と、男戦士の口からではなく、魔剣から声が漏れる。


「こいつ馬鹿な!? どうして俺の精神攻撃を跳ね返すことができるんだ!?」


「……馬鹿め!! 俺も伊達に場数は踏んできていないんだ!! それに!!」


「……まっ、まさか、こいつ!!」


 まさか、鬼族の呪いの効果だろうか。

 鬼族の呪い――強靭な鬼の精神力が、魔剣の精神汚染攻撃に打ち勝ったということだろうか。


 女エルフが息を呑んだその時であった。


「エロ知能が異様に高いだと!? 馬鹿な、俺様のエロエロ桃電波が効かないレベルだなんて――どんだけどスケベなんだよ!!」


「どスケベではない!! そんなどエルフと一緒にしてくれるな!! 迷惑だ!!」


 エロ知能。

 そのしまりのない言葉に、再び、男戦士パーティは足を滑らせたのだった。


「……流石ですティトさん、さすがです」


「エロ知能っていうか、エロ痴脳よね」


「だぞ、我らがパーティのリーダーながら、恥ずかしいんだぞ」

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