第261話 どエルフさんと第九階
【前回のあらすじ】
女エルフ、ついに自分がどエルフであることを認める。
「悪いか!!」
◇ ◇ ◇ ◇
さて。
ついに第八階の守護者である、バビブを倒した男戦士たち。
彼の下僕である、黒い影、怪鳥、そしてブリキの巨人は、バビブの消失と共にフロアから霧散。破壊された街並み、そして、瓦礫だけがフロアには残された。
「……あった、こっち、こっちなんだぞ!!」
周囲を探索していたワンコ教授。
風の流れを鼻先で読んで、彼女は次のフロア――男戦士たちの目的地である、第九階へと続く階段を見つけたのだった。
今までの階段と違って、明らかに綺麗なその階段に、男戦士たちが息をのむ。
それはすなわち、この階層を踏破したものが、いかに少ないのかということを如実に表していた。
「いよいよね、ティト」
「あぁ」
「ティトさんたちの目的は、九階にあるんでしたっけ。もうひと踏ん張りという所ですね。頑張ってください」
「まるで他人事みたいに言ったな」
いやぁ、と、後ろ髪を掻いて笑う魔性少年。
よほど先ほどの超能力対決が堪えたと見える。
彼は、なんだか肩に力が入らない感じで、ふらふらとした調子で歩いていた。
そんな彼を支えるために、大検使いがそっと歩み寄る。
彼は魔性少年の腕を自分の肩へと回すと、不器用な微笑みを彼へと向けた。
「ありがとうございますハンスさん」
「なに。大事を成した後なのだ、しばらくはこうしているといい」
優しい所もあるんですね、と、少し熱っぽい視線を向ける
一方で、男戦士は凍り付いたような表情で、二人の――というよりも大検使いのさりげない手の動きを眺めていた。
疲れているのを口実に、ソフトタッチするとは侮れない。
そして、もう一度自分に言い聞かせるように、男戦士は呟く。
「大丈夫、俺は入るなら美青年枠」
「どうしたのよティト。顔が真っ青じゃない」
「……いや、これから向かう九階にどんな強敵がいるのかと思うと、武者震いがしてな。そのせいさ」
なんて、適当なことを言って女エルフの追及を誤魔化す。
あえて、深くは追及しなかった女エルフ。
ふぅんと、なんだか気のない感じで鼻を鳴らした彼女は、そのままワンコ教授に合流したのだった。
「さぁ、いよいよ九階ね。さっさと割符を回収して、戻りましょうか!!」
「だぞ!!」
「そうですね」
「……あぁっ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
男戦士たちがそんな決意を新たにしている頃。
九階はしんと静まり返った静寂に包まれていた。
壁の代わりに、霧が立ち込めるそこには、確かに何者かの気配がある。
一つ、二つ、三つ、四つ。
数えられない影が、濃い霧の中にうごめている。
階段が綺麗だったことから、ここまで踏破してきている人間はいないはずである。だとすれば、この影はいったい何なのか。
モンスターか、はたまた、カンウ、リリィ、バビブのような守護者なのか。
いや、そのどれでもない。
揺らめく影の一つが、吸い寄せられるようにして近くの影に向かう。
それは、どうしてかその向かった影に向かって剣を振り下ろした。
同じ仲間ではないのか。
モンスターではないのか。
守護者ではないのか。
では、いったいなんなのか。
手に持って居るのは瑪瑙色をした諸刃のショートソード。
その実に鮮やかな色味は霧の中にあってもくすむことはない。
剣に袈裟に斬られた影の一つ。
それは、すっぱりと、二つに割れて霧の中に崩れ落ちた。
すぐさま、瑪瑙の剣を持った影が、振り返る。
まるで次の獲物を求めるように、また、それは近くの影に向かって駆けていく。
よく見ると、その体はフルプレートメイルで覆われていた。
頭まで、全身を銀色の鎧で包み込んだそれ。
しかし、兜の中にはまっている顔は、痩せ細り、干からびて、そして――眼孔に暗い影を落としていた。
ミイラ。
あるいはゾンビ。
死人の騎士は、すぐさま、近くの影に近づいて、またそれを斬り裂く。
まるでそれが自分の使命であるかのように、次々にそれらを斬り倒していく。
狂気じみたその剣閃に、太刀打ちできる影はない。
霧の中に揺れる影をひとしきり斬り倒したそれは、げたげたと、笑うとその足を止めた。そして――。
その視線を、八階へと続く階段へと向けたのだった。
まるで、男戦士た達がこのフロアに上がっているのを知っているように。
「クハハハ、いいぜ、いいぜ、いいエルフの匂いがしやがる!!」
そう誰かが呟いた。
だが、死人の騎士の唇は、渇いていて、動いていない。
ではいったい、その声は誰のものなのか。
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