第208話 どエルフさんと氷の洞窟
【前回のあらすじ】
淫乱ピンクの熊、股から炎を出して悪しきものを氷の大地に還す。
「だから違うっての!!」
◇ ◇ ◇ ◇
その後、何度かモンスターとの遭遇を重ね、着実に淫乱ピンクの熊の伝説を更新していった女エルフ。身も心もぼろぼろになり、その反面、着実に北の大陸の狗族からは羨望を集めながら、どうにかこうにかして、彼らは氷河の始まる場所、大山の麓へと到着したのだった。
「いやぁ、まさか、淫乱ピンクの熊が、屁で空を飛びながらズームなパンチをかましてアンデットを倒すとは思わなかった」
「四十八の
「やはりなんといっても、グリズリーが、淫乱ピンクの熊が持つ圧倒的な
「淫乱ピンクの熊。いったい何者なんだ」
「私だよ、あんたらのよく知る、モーラさんだよ!! というか、なにあんたらもしれっと話に紛れてんのよ、ティト、コーネリア!!」
淫乱ピンクの熊は大変である。
どんなに怒っても、そのフルフェイスなピンクの熊マスクに隠されて、その表情など分からないのだから。
もう嫌だ死にたい。
そんなことを呟く女エルフ。
しかし、そんな彼女をよそに、すごいんだぞ、と、ワンコ教授の感嘆の声が響いた。
「ここが、現在の人類が到達しうる最北端、北の大陸の大山!!」
「テンション上がりっぱなしね。流石は考古学者」
「しかたありませんよ」
大はしゃぎでその山肌を見つめるワンコ教授に、ふふっと
この時ばかりは、複雑な顔をマスクで隠すことができて、女エルフは少し気が楽であった。
しかしだ。
「問題は、この山をどうやって越えるかよね」
「淫乱ピンクの熊の魔法の力で、すいすいすいーと、ひとっとびとかできませんかね」
「高度が上がることに気温って下がっていくものなんだけれどそうね、淫乱ピンクの熊装備の私以外の人間が、凍え死んでも構わないならやれなくもないわ」
ちょっと根に持った感じでいう女エルフ。
その時だ、だぞ、と、ちょっといぶかしむような、ワンコ教授の声がした。
聳え立つ岩山の山肌。そこに視線を向けているはずの彼女。だが、何か不自然なものを、そこに見つけたらしい。
どうしたの、と、女エルフと女修道士が近づく。
「だぞ。このあたりだけ、なんだか妙なんだぞ」
「妙とは?」
「岸壁の組成が岩じゃないんだぞ。えっと、そのつまり」
「氷とかでできている、ということですか?」
そういうことだとばかりに強く二回頷いたワンコ教授。
はて、彼女に言われてみてみれば、確かにその山肌には、人の身長の高さと同じくらいの色が違う場所がある。雪にまみれていて、とても気が付かなかったが。
流石は考古学者のワンコ教授。この手のことにはよく気が付く。
「しかもここ、たぶんめちゃくちゃ薄いんだぞ」
「どういうこと?」
「炎魔法一発とかで溶けると思うんだぞ。コーネリア、頼めるかなんだぞ」
「お任せあれ。イフゥ・リート!!」
「
容赦なく火の精霊王の力を行使する女修道士。なるほどワンコ教授の読み通り、その氷の壁は簡単に、そしてあっけなくその場に溶け落ちたのだった。
その先に広がるのは、ほのぐらく、そして、微かに空気が向こう側から漂ってくる洞穴がある。
「もしやこの先に」
「北限の谷があるということでしょうか」
「だぞ、行ってみるんだぞ!!」
「待つんだみんな!!」
勇み足、洞窟の中へと駆け入ろうとしたワンコ教授を、咄嗟に男戦士が止めた。真剣な眼差しで、三角木馬から降り立った彼は、その場に立ち尽くしている。
確かに、こんな辺鄙な場所にある洞窟とはいえ、そこはダンジョンである。また、その先に北限の谷があるともわかっていない。
いささか、勇み足過ぎたか。パーティの安全を考えれば、もうちょっと、慎重に歩みは進めるべきだ。
男戦士がワンコ教授を止めたのは、妥当な判断である。
誰もがそう思ったその時だった――。
がくり、内またに男戦士が膝を折ったかと思うと、そのままその場に剣を杖にして膝をついた。
「さ、三角木馬にまたがりすぎて、尻がもう限界だ。悪いんだが、洞窟への突入は体調が回復してからにしてもらえないだろうか」
「――あんたのことだから、そんなことだろうとは思ったわよ」
しかしながら、自分がそうなりたくないがために、男戦士に三角木馬に乗らせた女エルフ。今回ばかりは強い態度で出ることはできないのだった。
「尻が、尻が三つに割れたような、そんな感じなんだ。すまない、軟弱な尻ですまない」
「いやむしろ、あんたはよく頑張ったほうだと思うわよ。うん、頑張った、ティト。あんたはアホだけど、ことこういうことに関してはまじめだから」
「もし俺の尻が、もっと丈夫にできていたら。くそっ、こんなことになるなら、尻をもっとよく鍛えておくんだった」
「こんなことになる機会なんて、そうそうないと思うから、気にしなくていいのよ」
心なしか、ツッコミも優しい。
しかしながら熊の被り物のマスクの中で、女エルフはざまみろとばかりに、いやらしい笑いを浮かべているのであった。
ほんと、普段の彼の行いを考えれば、いい気味という奴である。
「淫乱ピンクの熊、なんて慈愛に満ち溢れているんだ」
「あぁ、流石だな淫乱ピンクの熊、さすがだ」
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